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その正体

 セスは考える。

 グリグリと自分を壁に貼り付けているフレニムだが、これを抜くには柄を握らなければならない。だが触れた途端、再び魔力を利用されて更なる攻撃を受ける危険が高い。


「くっ」


 背中に回した両手を壁に突っ張り、身体を左右に動かし、力ずくで逃れようとすれば服がビリイイッと破れる音がした。

 服が端まで裂けて刃先から外れ、勢い余って数歩進んだところで、ドスッと後ろから物音がして振り向いた。


「うわ!」


 見るとブーツの踵部分にフレニムが刺さっていた。頑丈な厚手で長年愛用したブーツに穴が空いている。


「あああ、俺の靴が!気に入ってたのに!」


 悲痛な声を上げたセスは、思わず剣を引き抜いてしまった。


「あ、やべ」


 しっかりと握りしめていたはずなのに、フレニムはスルリと彼の手を外れ、過たず狙いを定めてくる。


「う、わ、ぐ、ひっ」


 床に転がって避けたセスだったが、フレニムはしつこく追いかけてきた。カカカカカと小気味良い音は、恐ろしい速さで床に刺さる魔剣の音だ。それを部屋中を転げ、ベッドに乗り上げてセスは逃げまくった。

 部屋を出ようとドアへ走ったら、セスの顔のすぐ横を飛んだフレニムが、ドアにビイィンと突き刺さった。


「ひいっ、待て、待てフレニム!おまえ、俺を殺す気か!?」


 ガッタンバッタンと狭い部屋を逃げ回ったのは、大した時間ではないはずだ。セスには途方もない長い時間に思えたが。


「ハアハア……………」


 髪を乱し服はあちこち破けて、細かい傷を幾つも拵えたセスは、荒い呼吸を繰り返して、力尽きて床に落ちた魔剣を見下ろしていた。


 額の汗を拭い落ち着いたところで、隅に落ちていた鞘を拾う。そろそろと剣に近寄り、触れないように鞘の方を寄せる。


「……………いや、ダメだな」


 それなりに大人な彼は、無理に魔剣を鞘に収めても根本的な解決にはならないと考え、手にした鞘をベッドに放った。

 正直セスは、フレニムが怒っている理由が薄々分かりかけてきていた。だから怖いが、話せば分かるのではと考えた。


「フレニム……………これからおまえに触るが暴れるなよ」


 指でツンツンと柄をつついてみると、紅の魔力が明滅する。身の危険を未だ感じて、セスは頭を捻って慎重に言葉を選んだ。


「なあ、おまえも()()なら、ちゃんと話し合おう。誤解させて怒らせたのは、俺が悪かったから…………な?」


 深い息を吐き、思いきって柄を握った。

 すると、魔力を出してはいるが今度は暴れずに手に収まった。


 フレニムをもう片方の手を添えて見つめる。にわかには信じられないが、セスの今の言葉に反応して静かになったとしたら、やはりそうなのだろう。


 この魔剣の話をした時に、にんまりと笑ったシェリルは、果実酒を片手に「これは女の勘ってやつだけど、多分間違いないんじゃないかしら?」と彼に耳打ちした。


『フレニムは、もしかして…………』


「フレニム、おまえは人間なのか?そうなんだな…………」


 セスは呆然として、一つの名を溢した。


「……………フレニア、姫?」





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