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第1話 生まれ変わっても三下モブ

 教会の出入り口は人でごった返しているため、とりあえずその場を離れることにする。神託の内容も気になるが、今の俺には更に気になることがあった。


 屋台の1つに女の子に人気がありそうな装飾の多い手鏡を見つけて、すぐに手に取った。スキルも称号もパッとしないんだ、せめて顔だけは……!

 祈る気持ちで目を開けると、そこにいたのは艶々の黒髪、ぱっちり二重に青銀色のどんぐり眼、左目の下には泣きぼくろ付きのなかなか顔立ちの整った少年だった。


「結構イケてんじゃん!」


 よかった、これは本当に嬉しい。

 前世の俺は自他共に認める鋭い目つきとへの字型の口元で、いつも第一印象は良くなかった。


 人間中身が大事なんて言うけど、見た目の方が重要に決まってんだろうが。前世の苦々しい思いを思い出してしまって、鏡の中の少年の顔が歪む。いかんいかん。

 子どもっぽさが抜けないが大人になったらなかなかイケメンになりそうだ。ふふん、と鏡に向かって笑う俺を見て、店主や鏡を買いに来た女の子たちが引いていた。何か言われる前に早々に退散しよう。


 屋台を離れた俺はふと、一緒に洗礼を受けにきたニコの事を思い出した。俺の次に呼ばれたはずだが、まだ出てきていないらしい。


 ニコの顔を思い出そうとするのだが、何だかはっきりしない。雰囲気は分かるから見ればすぐニコだと分かるんだろうけれど……。


 今の状態は、脳内に引き出しがあるとすれば、現世のルカの記憶と前世の田中の記憶がごちゃごちゃになっていて、開けっ放しになった引き出しに一緒くたにしまっている感じと言うと分かりやすいだろうか。

 気をぬくと田中時代の記憶が強くなり、締め切り間際の仕事の行方が気になってしまう。


 俺はブンブン頭を振って思い出す必要のない記憶を外に追いやり、ニコとあらかじめ待ち合わせ場所を決めていた事を思い出した。

 今度こそスキルを確認しながらその場所でニコを待つことにしよう。





 教会の入り口が見える広場の噴水に腰掛けながら、俺は取り出した神託を見た。


【所持スキル】

 複製 Lv.1

 仮相 Lv.1


 どちらも村にいた頃には聞いたことのないスキルだ。Lv.1と出ていることから成長するスキルだということに安心する。もしかしたら使い込むうちに進化することもあるかもしれない。

 試しにスキルをタップしてみると、ポップアップが現れ、簡単な説明が出てくる。女神様が言っていた最適化や同期という言葉を聞いた時も何だかシステムのようだと感じていたけど、神託も機械的だな。

 なになに……。


【複製】目にした物事を写し取り、習得することができる。ただし、使用者の癖がつく。

【仮相】いい印象を与えるため、見せかけることができる。あくまで見せかけなので心眼を持つものには効果はない。


「ふーん……」


 何となく字面から能力の内容はアタリを付けていたので大きなズレはなかったが、仮相よ……見せかけのいい印象って、外面がいいって事か?

 心眼持ちには効果がない所を見ると小物感がすごい。

 ただ、複製はなかなか使えるスキルなんじゃないだろうか。俺が今まで割と何でもできたのはこのスキルの影響もあったのかもしれない。


「ただ、使用者の癖がつくってとこが気になるな。何でもコピーできる訳じゃないのか?」


 考えてみてもよくわからないので早々に放棄した。

 そこら辺はせっかく「女神の情け」があるんだから、スキルをくれた本人に聞いてみようかな。


 神託を元の模様の状態に戻して、何とはなしに空を仰ぐ。目を閉じると前世と現世の記憶がぐるぐると頭の中を駆け巡った。





 田中透は日本に住む冴えない会社員だった。

 会社と家を往復するだけの毎日で、たまの休みも特別出かけることもなく、家で録り溜めたアニメや漫画を読んで過ごす日々。

 決まり切ったルーティンをこなして過ごすことに嫌気がさして、転職でもしようかと思った矢先の事故だった。

 毎日つまらないし、仕事は憂鬱だし、人付き合いもそんなに得意じゃなくて、何のために生きてるんだろうなぁと思っていたけど別に死にたいわけでもなかった。

 それなりに楽しいこともあったのに、なくなってしまうと寂しいものだ。



 そして唐突に始まった第二の人生は、ある意味、前世で焦がれていたファンタジックな世界だった。

 魔法や魔物が存在する想像もつかないほど大きな世界で生きていて、世界のどこかにいる勇者に憧れるどこにでもいるような希望に満ちた少年がルカだった。


 小さな村で大人たちの仕事をすぐに覚えて、村の子どもたちを引っ張る存在だったルカの笑顔が眩しい。

 皆からすごいと言われる事に優越感や達成感を感じていた。いつか自分がこの村だけじゃなく世界を守るんだ! なんて思っていたけど、付与されたスキルはパッとしないし、称号は……特に村人には見せたくない。


 これが本当に13歳のただのルカなら気にせず邁進できたかもしれない。

 けれど、30歳の冴えない田中時代の記憶も持っている今のルカには自分の限界をひしひしと感じてしまった。


「前世でパッとしない人間がそもそも生まれ変わったくらいでスーパーヒーローになれる方がおかしいんだよな……」


 勇者が本当に存在する世界で、今の自分は一体どんな存在なんだろう?

 村人Aか? いや、もしかしたら名前もない三下モブかもしれない。

 生まれ変わっても有象無象の一人か……そう思うと溜息をつかずにはいられない。



 がっくりと肩を落として俯いていると、ルカの耳に空気を震わすほど大きな鐘の音が教会から響き渡ったのだった。



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