零ノ巻 始まり
「雷甲……!」
全てが廃墟の建物の黄昏の世界で、一筋の雷光が轟音を轟かせて大地を引き裂いた。
雷光は廃墟となった建物を焼き払い、地面を大きく抉った。
「ツバキ、行けそうか!?」
雷光を誘き寄せた主である青年は、ハンマーを振るいながら”ツバキ”と呼ぶ女性に話し掛ける。
「うっさいわね、雷神!私も忙しいの!」
ツバキは椿の花が装飾された紅い日本刀を目の前に立つ異形の怪物に突き刺しながら青年の問い掛けに答えた。青年はパチパチ…と弾ける様な音と青い稲妻を放ち続けるハンマーを異形の怪物に投げながら、
「そうか。なら一気に決めるぞ」
と答えた。するとハンマーは持ち主の意に応じるかの様により一層激しく稲妻を散らし始め、ツバキは日本刀を片手平突きの構えで構える。そして、青年とツバキは同時に走り出し、周囲を囲んだ異形に突っ込んで行った。
「「雷神椿鬼」」
二人はほぼ同時に”必殺技”を異形に放った。そして、異形の怪物は悲鳴を挙げ爆発四散した。
そして、異形狩りを終えた青年と女性は疲労困憊と言う顔で、どこか楽しげな表情を浮かべて帰路に着いた…
◇ ◇ ◇
「……もう300年前か」
びっしょりと汗で濡れた顔の青年。青年が布団から起き上がると、襖の向こうから白羅です、と言う少女の声が聞こえ襖が開かれた。着物に身を包んだその少女は、先程_青年の夢に出てきたツバキと言う女性に顔付きがよく似た少女で、髪は白色。そして、頭には純白の角が一本生えていた。
「ツバキさんの夢を見られたのですか…?」
少女はツバキを知っているのか、心配そうな表情で青年に聞く。青年は、
「……………いや」
と長い沈黙の後そうだけ言って部屋を去った…
青年は純日本風家屋である家を出て先程の夢で出てきた廃墟の建物のみの街を歩き、腰に抱えていた椿の装飾が為された日本刀を振り始める。そして、演舞_と言うか戦闘訓練に似た何かを始めた青年は、廃墟ビルの間を走り始めた。すると、青年は何かを見つけた。
「おーい、しっかりしろー……意識ねぇな。気絶してやがる」
青年が見つけたのは、所々に切り傷等を負った一人の少年だった。
少年は、貧乏暮らしの人と言う服装では無く、どちらかと言うと裕福そうな身なりの少年だった。
青年は演舞を止め、少年を背中におんぶしながら家に帰った…
◇ ◇ ◇
「此処は…?」
「良かった、お目覚めですね。今お飲み物をお持ちします」
少年が目覚めたのは青年と少女の住む家の一室だった。少年の服は袴に着替えられており所々に絆創膏や包帯やら付けられていた。
「目覚めたか」
突然襖が開き青年が出てきた。少年は青年の腰_椿を見て驚いていたが、すぐに表情を戻す。
「あの…此処は」
「異界。黄泉だったり地獄とか呼ばれてる所だ。まぁ、実際は何かが有って滅んだ世界だけどな」
「!…なんで僕はそんな所に?」
「それは此方の台詞だ。異界は”ケモノ狩り”や”陰陽師”とかぐらいしか入れないはずだ。お前は陰陽師か?少なくともケモノ狩りでは無さそうだが…」
ケモノ狩りと言う未知の単語にまたも驚く少年。それもその筈。”ケモノ”は国家、世界レベルの機密事項であり、近々復活が予測されているケモノ、”大蛇”や”黒狐”は人類文明を滅亡させかねない強大なケモノ。パニックを考慮した国連を始めとする世界各国は当然ながらケモノとそれに対する”ケモノ狩り”について公表していない。そう考えていた青年の思考を見ていたかのように少年は話を始めた。
「国家レベルの機密事項みたいな物なんですね、ケモノは。僕が覚えてるのはいきなり”何か”_多分ケモノに掴まれて森の中に連れ去られた所までです。その後は倒れてる所を…うぐっ!?」
少年は腹の辺りを押さえて倒れ込んだ。少女と青年は大して驚きもせずに霊符と筆を持ってきた。
「清めの神よ、汝に総てを祓い清める力を与えたまえ!」
瞬間、青年の姿が怪物に変化しと思うと少年の表情がやわらいでいく。
「ふぃ~…異界の障気に耐えられなくなったか。柚、俺の部屋から一本剣を持ってきてくれ。なんでもいい、九十九が憑いてる剣だけな!」
「かしこまりしました」
少女は襖を閉めて青年の部屋に向かった。青年は金色の小さい小さいハンマーを服の谷間から取り出すと、少年の頭にぶつけた。しかし、少年の額に星の紋章が浮かび上がりハンマーが弾かれた。
「なんで星印が浮かんだ…?こいつまさか……」
すると少女が絢爛豪華な装飾が椿同様に為された剣を持ってきた。青年は少年の顔を殴って意識を深い海から連れ戻す。
「痛った!?…なんで殴ったんですか?」
「これ。持ってくれ」
「え?いや僕…「いいから持て!異論は認めん!」えぇ~」
いきなり殴られて上に剣を持てなんてカオスな状況。少年がたじろぐのも当然だが、青年に其は関係無かった。少年は仕方は無く剣_『白麗』を手に持った。すると、少年は顔をひきつらせて青年と少女を見た。
「あ、あの…彼処にいる化物見えてます?」
「いや?化物なんて居ないぞ?」
「上に同じです」
二人は真面目な表情で答える。その時、少年、西岡 憐は悟った。
_自分は、『見てはいけない物』を見てしまった、そしてそれがもたらす運命やら何かに逆らえないと。