13回 曲がった怒り
多分更新これでとまります
その後は膠着状態だった。
井戸田は、毎回ランナーを出しながらも要所を締め無失点。
桐ヶ崎はほとんどバットに当てさせず、隼人を変化球で打ち取り同じく無失点。
そして、0ー3で迎えた六回表。
翔大に打順が回ってくる。
「来たな、カス」
「…………」
特に否定はしなかった。怒りも湧かない。
自分でもうまくはないことを自覚している上に、ここまでの打席は2打数2三振。
自他共に認めるヘボだと、翔大は自分で思っている。
「本当わかんね。お前みたいな奴になんで……」
「?」
「まぁいいや。無様に散れよ」
そう言って、桐ヶ崎はモーションに入る。
(来た。いくら速かろうが、何度も見れば目も慣れてくる)
翔大のバットがボールの下を捕らえ、一塁側のベンチに飛び込む。
「あ゛?」
「別に、驚く事でもないですけど」
プロの投げる140キロの球ですら打たれるのだ。中学生の投げる120キロが打たれない訳がない。
しかし、翔大が淡々と述べたその言葉が、桐ヶ崎の神経を逆撫でした。
「カスが……俺の球に触んじゃねぇ!」
「……!」
一段と球威を増したボールに振り遅れ、翔大のバットは空を切った。
「くっ……」
「そうだよ、カスはそうやって無様に空振ってりゃいいんだよ」
キャッチャーからの返球を受け取り、満足気に笑いを浮かべる桐ヶ崎。
翔大はこの球が2球目も来る事を考え、どう攻略するかだけを考えていた。
が、その翔大を激変させる言葉を、桐ヶ崎は発した。
「てめえみたいなカスは、同じように貧弱な妹とおままごとでもしてればいいん……!」
桐ヶ崎の顔が強張る。
平凡で、無害そうな翔大の顔が、まるで鬼のような形相に変わっていたからだ。
「…………」
翔大は困惑していた。
百合花のことは自分の中で整理をしたつもりだったのに、今、頭の中が熱された鉄のように熱いこと。
何より、翔大はいつも打席で感情を出さないようにしているのに、溢れだす激情をコントロールできないことに。
「……んだよ。ガンつけてんじゃねえ!」
翔大の変貌ぶりに手元が狂ったのか、真ん中にボールが吸い込まれていく。
いつもの翔大なら、セオリーに従ってセンターから逆方向に打とうとしただろう。
しかし、溢れ出る憤怒の感情が、幾千の素振りで染み込んだ基本のスイングを壊し、力任せのフルスイングをさせた。
ガッ。
バットの先で捉え、決して快音と言える音では無かった。だが、ライト方向に上がった打球はぐんぐん伸び、ライトの頭を越えて落ちた。