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11回 練習試合

これを最後に、しばらく投稿できないと思います。

「今週の土曜、つまりは5日後だが、練習試合を行うことになった」



4月も下旬に入り、すっかり暖かくなったある日、部活開始前に神田が切り出した。

突然の報告に、少しざわつく部員。



「相手は御坂中。去年の中体連では、県大会に出場していたな。エースの桐ヶ崎がなかなか手強いところだ」

「桐ヶ崎……あっ」



ふと、結衣の頭に、あのやけに整った顔が浮かぶ。

桐ヶ崎もボーイズ出身だった。それも、結構な強豪チームだ。


かなりの速球だったのを覚えているが、結衣が一番強く印象に残っているのはそこではなかった。



「桐ヶ崎は、ストレート系を中心とした配球の速球派だ。よって、今日からは速球打ちの練習を重視して行うぞ。たかが練習試合だと思うなよ!」

「ハイッ!」



総勢34人の部員が、いつにも増して大きな返事をした。


それもそのはず。再来週の5月9日には、大きな大会があるのだ。


全国大会に繋がるたった2つの大会の内の1つ、全日本少年軟式野球大会。

ここでアピールできれば、レギュラー候補に食い込むことができる。


それが、一年でも可能性があるとなると、否応なしに気合いが入るものであった。



「井戸田! さっさとアップしてマウンドに上がれ!」

「ハイ」

「他はキャッチボールだ! 腹から声出せ!」

「オイーッ!」






* * * * * * * * *






そして土曜、練習試合当日。



「お、結衣ちゃんじゃーん」

「…………」

「おっ?」



チャラい口調で馴れ馴れしく肩をかけてくる桐ヶ崎の腕を、結衣は睨み付けながら振り払った。


明らかな拒絶の色を示したのにも関わらず、桐ヶ崎の顔は微塵も曇らない。



「何? まだあのモブのこと好きなの? あんな下手くそなんかより、俺のが万倍良いぜ?」

「いや、それはないよ」



反射的に、しかもきっぱりと断る結衣だが、桐ヶ崎はへらっとした様子で、



「ま、良いけど。今日で分からせてやるよ。じゃあね」



そう言い残して、桐ヶ崎は自軍ベンチに戻っていった。



「はぁ……」



思わずため息を漏らす。それはもう、日本海溝よりも深いため息だ。


結衣が印象に残っていたこととはこの事だった。

桐ヶ崎には、ボーイズ時代、初対面の頃から言い寄られているのだ。馴れ馴れしいにも程がある。


更に、結衣にとって腹立たしいのが、言い寄るのが1人ではないことだ。

彼は、少し気に入った子が目に入れば、直ぐに口説きにかかる。


そして、無駄に良い桐ヶ崎の顔にコロッといってしまう。それが、結衣には腹立たしくて仕方なかった。



「はぁ……」



もう一度ため息をついて、結衣はグローブを取りにベンチへ走る。



「集合!」



片津の声が響く。何故このタイミングで、とは思ったが、とりあえず神田の元へ。



「実は、今日来るはずだった三島中が、インフルエンザにかかった部員がいるということで、急遽来れなくなった」

「えっ」

「マジ?」

「どうすんの?」



突然の知らせに、動揺を隠せない黒石中部員。

神田は眼力でそれを静めると、再び口を開く。嫌な予感がした。



「2チームしかない今、最高でも2試合しかできない。よって、黒石中Bチームを作ることにした」

「なっ! マジですか!?」



全部員の驚愕を、キャプテンである片津が代表して告げる。結衣が天を仰ぐのを余所に、神田はゆっくりと頷き詳細を話し始めた。



「Aチームは3年、2年の主力メンバー。つまりはレギュラーで構成する。Bは1年を中心に2年で補強していくぞ」

「オ、オスッ!」

「では、分かれろ」



神田の一言で、部員が2つに分かれる。片津及び曜、御堂率いるAチームに、翔大達1年が大多数のBチームだ。



「あーあ……」



思いもしなかったアクシデント。これで、桐ヶ崎と結衣の思い人は確実に対戦することになってしまった。

面倒くさいことになりそうだ。直感がそう告げていた。



「既にオーダーは決めてある。各チームキャプテンは読み上げろ」

「ハイ!」



Bチームの円陣の中心で、2年キャプテンの海山(みやま)がオーダー表を読み上げた。



「1番センター、青葉千里!」

「ハイ!」

「2番ショート、櫻井結衣!」

「あ、はい!」

「3番サード、宮田啓介!」

「ハイ!」

「4番ファースト、俺です! 5番キャッチャー、笹川隼人!」

「ハーイッ!」

「6番ピッチャー、井戸田陸!」

「ハイ」

「7番ライト、高山翔大!」

「……え?」



自分は呼ばれると思っていなかったのか、思わず海山を見て固まる翔大。



「返事しろ! 7番ライト、高山翔大!」

「ハ、ハイッ!」

「そうだ! 8番セカンド……」





1青葉千里(中)(1年)

2櫻井結衣(遊)(1年)

3宮田啓介(三)(2年)

4海山海斗(一)(2年)

5笹川隼人(捕)(1年)

6井戸田陸(投)(1年)

7高山翔大(右)(1年)

8須田歩(二)(2年)

9仙道克也(左)(2年)




スターティングメンバーの半分弱を1年が占めるという、普通なら驚きのオーダーだが、今回は仕方ない。

ぶっちゃけると、翔大を除いた黒石ボーイズ元6年のメンバーは、周りから頭1つ抜いて上手いのだ。


さすがに基礎体力や筋肉量は上級生の方が上だが、技術なら3年にも決して引けをとらないだろう。


それを自覚しているからこそ、翔大は固まったのだ。



「第一試合は、Bチームと御坂中だ。三塁側ベンチに移動しろ!」

「オーイッ!」

「ええ……本当にやるんだ……」



愚痴りつつ、結衣が一塁側ベンチをチラ見すると、ブルペンで肩を作る桐ヶ崎が、こちらを見ながら笑った気がした。

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