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【 SIDE:YOSHINORI 】 第4話 悪党らしく


 俺は、ヴィランズ・スーツをまとって、物陰に隠れていた。

 深いグリーンの、光沢のあるメタリックカラー。

 首から下は、西洋甲冑を思わせるなりをしている。

 だが、首から上に、疑問を抱かずにはいられない。


『蛇に飲み込まれて、顔だけ口の中から出てきてるみたいですね……』


 ついさっき、出撃直前にこのスーツを着た時、勘璽かんじさんに言われた言葉だ。

 そう、まさにそんな形をしている。

 大口を開けたヘビ型のマスクだ。

 その口の中から顔を出した形で、背中側に向けて尻尾が伸びている。


「絶妙に、ダサくはないように作られているところはすごいが……」


 俺の希望も聞かず、入社日と同日に納品されるように、玄真げんしんさんが発注していた。

 入社前に全身測られたのはなんでだろうと思っていたが、こういうことだったとは……。


「あの時すでに、俺の悪名は決まってたんだろうな……」


 性格とか、アビリティとか、そういったものは一切無視。

 確実に、俺の顔のイメージだけで発注したのはバレバレだった。


「まあ、文句はないけどな」


 不思議と許せてしまう、それが玄真さんだ。


「……さて、そろそろ時間か」


 スーツ内、俺の視界に映っている時計を一瞥すると、つぶやいた。

 外の景色以外の情報も見えている。

 これがスーツというものか。


『ガッ……こちら指令車、アレルタ・ファロ。セルピエンテ、聞こえますか?』


 突然、通信が入った。

 勘璽さんの声だ。


「通信状況クリーン。こちらセルピエンテ」


『間もなく総帥、バラ・レイが出撃します。準備はよろしいですか?』


「いつでも」


『さすが。頼もしい限りです』


 ……実績も経験もない俺に、さすが?

 なにが“さすが”なんだ?


『……あの』


 ふと、通信の向こうから声がする。


『気をつけて……がんばって、ね……』


 それは、杏澄あずみの声だった。


「ああ。ありがとう、シカトリス・チカ。がんばるよ」


 少しあった緊張は、杏澄のお陰でやわらいだように感じる。


『では、作戦を開始します』


 兵庫 勘璽ことアレルタ・ファロと、諏訪 杏澄ことシカトリス・チカ。

 この二人は、目標の近くまで指令車でやってきている。

 指示、状況分析、通信等が、指令車の役割だ。


 そしてこの二人の後方支援を受けつつ、大公 玄真ことバラ・レイが、前線で戦闘を行う。

 彼のアビリティは、“イグニッション”。

 念じた身体の一部から、瞬間的かつ限定的な爆発を起こすことができる。

 だがそれは、爆弾規模の炸裂ではなく、その名のとおり着火レベルだ。

 そこで彼が生み出した戦術が――


『イグニッション!!』


 ドンッ! という激しい音が響く。

 俺の視界、見上げた空を、弾丸(・・)が飛んでいった。


 バラ・レイ。

 これもまたスペイン語らしいが、和訳すると――


「弾丸王、か」


 そう、着火を足裏に集中させ、弾丸状のスーツをまとって対象に突っ込む。

 これが、玄真さん――バラ・レイの編み出した、戦闘スタイルだった。


「さあ、時間だな」


 俺は、物陰から飛び出す。


「えっ、なにっ!?」


 通行人に驚かれてしまった。

 某アクションゲームの3作目だったか、9人のボスの中のひとりのコスプレとでも思われただろうか?


 ガシャアァァァァァァンッ!


 轟音が周囲に響いた。

 一気に、周囲に喧騒が広まっていく。


「悪党だ! 悪事が始まったぞ!」


 どこかで誰かがそう叫んだ。


 この時代、日常茶飯事と化した、悪事の時間だった。


 俺の視界の先で、食品卸売業社の建物が黒煙をあげている。

 バラ・レイが“刺さった”んだ、あの建物に。


 悪党は、悪事を行う際、事業内容に沿って悪事申請を行う。

 基本的に申請が通らないことはない。

 だが、申請せずに悪事を行うことは許されない。

 これは、悪の組織というシステムが出来上がった時に確立されたものらしい。

 申請先は、ギアの購入先と同じ、株式会社ヘキサグラム。

 なんだってあの会社がそこまでの力を持っているのかはわからない。

 玄真さんが言うには、“そういうもの”なんだとか。


 玄真さん――いや、バラ・レイの悪事には、ある共通点があると聞いた。

 いわゆる“ブラック企業”を対象とし、潰すというものらしい。


『ブラック勤めの従業員を救うため、なんてことは言わないよ。義賊なんざ気取りたくもないしねぇ。俺は悪党だ。どうせ潰すなら、面白い方がいい。従業員を力で支配し、生み出す利益を絞りとる経営者は、どうなるかねぇ? なんせ、悪党に潰された会社は、国が支援として介入してしまう(・・・・・・・)。さて、そいつは一体どうなるかねぇ?』


 そんなことを語っていた。

 従業員たちは、もしかすると救われるかもしれない。

 だが、それは悪事の結果(・・)であって、目的(・・)ではない。

 あくまで悪党として、法からはみ出しながら彼らを潰し、それを楽しんでいるのだ。


 バラ・レイ。

 悪党たちからは親しみを込めて、通称ブラック・キラーと呼ばれているそうだ。


 俺は、ブリーフィングで聞いたことを思い出しながら、バラ・レイが開けた穴に飛び込んだ。


「お、来たか。それじゃあ、悪事を始めようかねぇ」


 そこには、ずんぐりむっくりとしたヴィランズ・スーツが立っていた。

 ヒマがあれば磨いているらしいそのピカピカと輝くアーマーは、重装歩兵のようだ。

 両腕に、防具と武器を併用した盾剣が装着されており、それは両腕を組むことでくちばしのような形になり、さらにその状態で頭の上に腕をかかげて身を縮めることで、全身を銃弾の形に変形させる。

 彼は、その状態でアビリティを使い、銃弾として突撃するのだ。


「俺はなにをすれば?」

「そこらじゅうを壊してくれたらいい。俺たちのやることはそれだけだ」


 ぐっとサムズアップをしながら、バラ・レイは言った。


「単純ですね」

「そうともさ。単純、結構」


 俺は、スーツに搭載された武装をチェックする。

 情報はマスク内部に表示されている。


 武装1、コンキスタ。

 武装2、インノバシオン。


 とりあえず武装1とやらを使用するべく、脚部に装着されているらしいその武装の柄を手に取ると、手にフィットしてくるようにスーツから離れる。

 それは、一挺の銃だった。


「マスケット銃……みたいな見た目ですね」

「そうさね。まさにマスケットだ。一番お前さんに似合うかと思ってね」


 俺に似合うって……なんでだ?

 そう思いながら、とりあえず銃を撃った。


 パァンッ!


 思った以上の威力だった。

 狙った壁が、一気に崩れる。


 怖っ。


「ちなみにもうひとつの武装は、近接戦闘用のダガーだ」

「ダガー……つまり、短剣ですね」

「そうだ。実はね、その2つの武装は、組み合わせが効くんだ。コンキスタの先端に着剣できる仕様にしてある」

「先端にって、つまり銃剣になるってことですか」

「そういうことだねぇ」


 面白い仕様だ。

 俺がそう思うのとほぼ同時だった。


「そこまでですっ!!」


 突然、背後から声が響く。

 振り返るとそこには、戦隊ヒーローのピンクのようなシルエットのヒーローが立っていた。

 色は水色だが、全身スーツの顔部分が、赤いハート型のバイザーになっている。

 足元が妙にゴツいのが気になるが……。

 背中には妖精ニンフの名前の由来であろう、四枚の羽が生えていた。


「ほう、もうヒーローが到着したのか」


 バラ・レイの声色には、感心の色が伺えた。


「私は、ランサー・ニンフ! この地区の支部に所属するヒーローよ!」


 ビシッ! と指先をこちらに向けて、ハート女は言った。


「ランサー。確かに、長柄槍パイクをお持ちだねぇ」


 バラ・レイはそう言って、てくてくと歩き始める。


「ちょっと、どこに行く気ですか!?」


 ランサー・ニンフとやらは、慌ててバラ・レイを呼び止める。

 だが、バラ・レイは立ち止まらず、手を振りながら歩いて行く。


「そこにいる、うちの悪党ルーキーを倒せたら、俺を止めにくるといい。あっちで破壊活動に勤しんでるから」

「なっ!? か、勝手なことを!」

「まったくだ」

「えっ!?」


 俺が同意したことに、ランサー・ニンフは驚く。

 だがまあ、上司命令だ。

 彼女を倒すことが、今の俺の業務ってことだ。


「仕方ない。やるか」


 俺がそう言うと、ニンフはハッとして、獲物を構えた。


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