表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

狂気

R15

病的な精神描写、暴力描写、近親相姦描写

てんこ盛りです、苦手な方は真面目に回れ右でお願いします。

  




暗部へ転属になって数日後。私が家へ帰ると、明かりが既に灯っていた。ゾワリとし、石板のことがばれて賊でも入ったのかと思って窓からそっと中を覗き見た。


…エステルが、いた。


私は本当に驚き、しばらく窓の外で呆然と自分の家を覗き込んだままだった。エステルはまるで夫が帰るのをうきうきして待つ新妻のようにニコニコして玄関の方向を眺めていた。私は正気に戻って、次の瞬間青ざめた。誰が、鍵を開けたんだ?誰にも合鍵など渡していない。しかも魔法で施錠を強化してある。いったい、誰が。玄関から慌てて家へ入ると、エステルがにこやかに言った。



「キム兄様、お帰りなさい!うふふ、驚いたでしょう」


「な…な…なんで…どうして、エステル…」


「私も家出してきちゃった!」


「はあぁぁ!?」


「私も結婚イヤだったから、逃げてきたの!キム兄様、匿って!」


「ええぇぇ!?」



伯爵令嬢ともあろう者が結婚が嫌で逃げる。エステルのことを言えない立場だけれども、それがどれほど父様やミアス兄様に迷惑を掛けることになるか。いろいろ言いたいことが多すぎて、逆に私は何も言えなくなった。



「大丈夫!父様にもミアス兄様にも納得してもらってるわ」


「そんなわけあるか!何をどう納得したって言うんだ!?」


「ナイショ!キム兄様は私にどうこう言える立場じゃないでしょ~、ミアス兄様に居場所バラされたくなかったら匿って、お願い!」


「…お願いなんだか脅しなんだか…というか、エステル…まさか一人でここまで?ひと月…いや、女性ならそれ以上はかかる距離を一人旅してきたって言うのか?なんて危ないことをするんだ…!」


「んふふ…私がヴェールマランを出てきたのは、今日!お昼前くらいよ?」


「…は?」


「これよ、これ!さっすがキム兄様ね、ざっくり作ってもこれだけ距離を短縮できるなんて。最初はすっごい空高くに出口ができちゃって、調整するのに半日もかかっちゃったわ。慣れればもう少し早く調整できるようになるかもしれないけど」



エステルは、私が作った移動魔法の石板を持っている。どうして…あれは一つしかないし、私が出奔した時に持ってきてこの家に隠してある。



「んも~…キム兄様ってば忙しかったから他のことに気が回らなかったんでしょ。兄様が作ったこの次元移動の魔法、夜中にこっそり写し取らせていただきました~!それとあの玄関の施錠魔法ね。私、あれくらいなら解除できますからね?」


「な…!エステル!お前は…」


「私だってキム兄様の妹よ?とんでもない魔法の言霊の気配がするから兄様の部屋を覗いたら、一心不乱に何か作ってるし…時空を歪めて別の土地に出口を作る魔法なんだって、何回か見てたら気付いたわ。それに、兄様がまたいなくなるって聞いて…だから、これで絶対追いかけようって思ってたの…」



エステルは私の心底怒った顔を見て、尻すぼみに声を小さくしていった。だが、私は逆にその顔を見て怒りがどんどん小さくなった。怒りに代わって顔を出したのは…底知れない歓喜だった。


懸命に「しょうがないな!」という顔を作り、エステルの頭を撫でる。もうそんな年齢ではないけれど、必死に妹扱いをしなければ抱きしめてしまいそうだったから。


そしてエステルと共に市井で暮らす、私の人生で一番幸せな日々が始まった。私は生粋の貴族であるエステルが心配だったが、あの激動のヴェールマラン立て直しの時期を生きた彼女は貴族令嬢とは思えないほど市井に馴染み、すっかり近所付き合いまでこなす。きちんと周囲に兄妹だと言ってあったけれど、「まるで新婚夫婦だね」といわれて照れるエステルがたまらなく可愛かった。






そんな幸せな日々は、突然終焉を迎えた。紫紺の長が直接私を呼び、有り得ない程重圧感のあるオーラを纏った声で私に言った。



「そなた…自律思考の母体とやらの改変は済んだのか?」


「長様、申し訳ございません。力不足にて未だ成し得ていません」


「そなたが研究を始めて2年経たぬうちに無からあの母体を作り上げたのであろう。なぜできない?」


「…私は信念をもってあの母体を作りました。その信念とは争いのない、平和な世を望む私自身から出たものでございます。魔法の言霊は…信念なくしては応えてはくれません。残念ながら、長様のように尊いお考えは、私ごときの中に入り切らぬものにございます」


「…自分とは相容れぬ思考をする母体は作れぬ、と申すか」


「そのようなことは…ただ、私ごとき卑小な人間には荷がかち過ぎているということで…」


「では、そなたを大きくしてやろうではないか?…この者を連れて行け」


「はっ」


「え?あの…」


「黙って歩け!」




私はそのまま投獄された。

ただ投獄されて反省を促すつもりなのかと思っていた私は、本当におめでたい男だった。その日剥がされた爪は60枚を超える。両手両足全てを剥がし終えると、治癒師がやってきて再生させるからだ。また、拷問用の魔法「狂幻覚」で一番見たくないものを見せられる。私の幻覚はエステルが他の男に抱かれて恍惚としているものだった。狂幻覚から覚めると、天井から吊るされた横棒に腕を括りつけられており、宙吊りのまま鞭打たれた。気絶するとまた治癒師がやってくる。


痛みが引いていくことに安堵していた気持ちは、もうすでになくなっていた。治癒師の姿が見えると、もう「最初から痛み直し」「最初から苦しみ直し」としか思えず、頼むからもう治すな、殺してくれと懇願した。眠ることも気絶することも許されず、「長様の望むものを作りさえすればこんなことにはならなかったのにな」と何百回も囁かれ、「作る、作るからもうやめてくれ」と言うと治癒師が私の体を治す。


懸命に苦しみから逃れたい一心で「心のない合理性のみ追求するマナの渦」を作成していく。だがあまりに憔悴しているので途中で気絶するように寝てしまう。それを発見されるとまたしても爪を剥がすところから始まり、エステルの痴態を数十回見させられ、鞭を打たれる。一度など鞭がまともに目に当たり、自分の眼球が潰れる音を聞き、白縹の人々の気持ちがよく分かった気がした。


私を治す治癒師は相当腕が良いらしく、半壊した眼球も再生させる腕前の持ち主だった。しかし目が見えようが見えまいが、狂幻覚は脳に直接襲い掛かるのであまり関係ないのではなどと考えられるようになった頃、治癒魔法だけではもう回復しきれないほど私は衰弱していたらしい。


無理やり食事を取らされ、体力の回復にのみ数日間が取られた。私は最初の頃、「助けてくれ」「エステルは無事なのか」としか考えられなかった。いったい私が何日ここに拘束されているのかは知らないが、いまは色々と考えることができるようになった。


まず、あの自律思考の母体はこの国では無理なのだと悟った。あんなものをこの腐った国にくれてやろうなどと優しい事は考えずに、腐った国にはさっさと乾いた思考しかしないマナの渦をくれてやればよかったのだ。たぶんあと2日もすれば体力回復の休養は終わり、また爪剥がしから始まることだろう。まあ、あれも慣れたから…痛覚を遮断するということも、人間やればできるものなんだな。別に魔法を使ったわけじゃない。やればできるんだ、これが。まあちょっと気を抜くとやっぱり痛いけれど。


一番腹立たしいのはあの狂幻覚だな。私のエステルを抱きまくっているあの男は死ねばいい。ここから出たら一番最初に殺す、と思っていた。だけど、一生懸命にその男の顔を見ようとしていたら、エステルを抱いていやらしい笑顔を浮かべていたのは私だった。なので、死ねばいいのは私だったようだ。おかしいな、エステルを抱いた覚えはないんだけど。でもエステルは、何十回も、何百回も私の愛撫で果て、私のものを咥え込んでは悦び、もっともっとと痴態を晒していたではないか。ではきっと、私はエステルを抱いたんだ。そりゃそうだ、一体何回それを見たと思っているんだ。エステルは私のものに決まっている。



そうして様々なことを考えていたある夜、マナの微かな振動が牢獄の中で感じられた。まあ、ここは牢獄と言っても部屋の中に作られた檻の中で、部屋には様々な拷問器具と自律思考の母体をつくるための研究用機器しかない。看守は部屋の外に常駐しているけど、この体力回復期の夜中に狂幻覚をかけに来たことはなかったんだけどなあ。そう思っていたら、移動魔法のゲートが檻の中に開いていて、エステルが顔を出していた。



「キム兄様、早く!こちらへ来て!」



エステルが小さな声で言うので大人しくゲートを潜ると、自分の家だった。



「よかった…!キム兄様、探したのよ!まさか投獄されてたなんて…緊急事態だったから、一度ミアス兄様のところへ戻って助けを連れてきたの。キム兄様の居場所、ようやく探り当てたわ…もうこの国から逃げましょう?こっそりヴェールマランに帰って、体を癒したら…そしたらもう一度別の国へ行ってもいいし。ね?」



私は今度は何の狂幻覚なのかと、何が起こるのかとキョロキョロした。ミアス兄様?どこにいるんだ?



「…ミアス兄様は?」


「この家に出入りすると動きを悟られるからと言って、少し離れた宿にいるわ」


「ふうん…」



いつもと違う狂幻覚に違和感を覚え、でもまあエステルがいつも通りいるのだし問題はないと理解した。さて、と思ってエステルに深く口付ける。エステルは随分驚いて固まっており、いつものように私がどこを触っても感じるような素振りがない。何か新たな趣向の狂幻覚なのか?と首を傾げてエステルを見るが、頬を染めたまま驚きすぎて動かない。仕方ないなとベッドヘ抱えて歩き、エステルの服を剥いていく。胸を揉みしだくと、いつものようなぐにゃぐにゃの柔らかさではなく、少し芯のあるような張りのある感触にまた首を傾げる。まあどうでもいいかと思って、さっさと体を繋げた。


エステルから大粒の涙と、絞り出すような悲鳴が零れる。


ほんとに今日の幻覚はおかしいなと思う。エステルの中はこんなに狭かっただろうか?思い出そうとしてもよくわからない。いつものエステルの中なんて、私は知っていたっけ?いや知ってる、何百回もこうしてエステルを抉ったじゃないか。


嬌声ではなく、細い悲鳴をあげるエステル。

とろりとした感じている貌ではなく、苦痛に耐えている泣き顔のエステル。

何回も精を放つ私に、これは許されないことなのにと言うエステル。


気が済んだ私は、ふとベッドに零れている小さくはない血液の染みを見つけて初めて正気に戻った。





幻覚じゃない。

私が今抱いたのは。

本物の、私の妹。

私が心から愛する美しい女性。

死ぬまで不可侵を貫くはずだった、私のエステル。



嘘だ、嘘だ、誰か。

誰か、嘘だと言ってくれ。

こちらが幻覚なのだと言ってくれ。




エステルが、笑って…でもぽろりと涙を零しながら何かを話す。



「キム兄様は悪くない。大丈夫、私も愛しているから、こうしてほしかったから、キム兄様を追いかけてきたの。キム兄様は悪くないのよ、悪いのは私」



私は、エステルが何か言っているのはわかったが恐慌状態に陥っていた。きっと新手の狂幻覚に違いないと逃避しながらエステルから逃げた。エステルが調整したままだった移動魔法の石板を起動させ、幻覚のエステルが追ってこれないように石板を持ったまま牢獄の中へ無事に戻ってきた。ゲートが閉まる寸前、エステルの悲痛な…悲鳴のように私の名を呼ぶ声を聞いた気がしたが、それは狂幻覚の名残に違いないと納得し、私は泥のように眠った。





  




看守に起こされ、いつものように食事の後は自律思考の母体をつくることから始まる。私はこの日から死にもの狂いで完成を急いだ。爪ならいくら剥がされてもかまわない。鞭なら何百回打たれてもかまわない。だから、狂幻覚だけはやめてくれと懇願し、必死に魔法の言霊を紡いでいった。


あれは最悪の狂幻覚だった。一度あんな想いをしてしまったら、次も、その次も永遠に私の狂幻覚はあれを繰り返すだろう。あんな恐怖を味わうくらいなら、手足を千切られた方がましだった。


とうとう紫紺の長様が望んだ自律思考の母体が出来上がった。

私は釈放され、自宅へ戻された。しばらく母体を安置する筐体を作る工事があるから、安置する段になったら呼ぶので謹慎していろという話だった。別にもう私は必要ないはずだ。母体の設置方法も伝えたし、私が居なくともあの母体はマナが行き渡れば勝手に動き出す。


それよりもあの家に戻りたくなかった。何でかわからないけれど、とてもあの家が忌々しい場所のような気がして。それでも他に帰る場所もなく、恐る恐る家に入る。いつも食事をしているテーブルに一通の手紙が置いてあった。ミアス兄様からだった。



『エステルの具合が悪そうなのでヴェールマランへ連れ帰ることにする。お前が隠してあった”石板”を使わせてもらう。お前が必要ならすぐに返すので一報がほしい。それと無事なのは確認できたが連れ出せなかったとエステルが泣くので、もしこの手紙を見たらすぐに知らせてくれ。お前がどういう目にあったかわからない、だがお前は悪くないのだ。無理な婚姻もさせないと約束するから、お前もヴェールマランへ帰って来てくれ』



いろいろな心配と、いろいろな葛藤と…そして私への愛情籠った手紙を見て私は嗤った。ミアス兄様、あなたの愛するヨアキムはもう死にましたけど?あの恐ろしい狂幻覚を最後に見てから、すでに3か月は経っている。その前は…あの牢獄に入ったのはいつだっけ?きっと合計で5か月くらいはいたのかなあ…まあいいや、やるべきことをきちんと片づけないといけないね。まずはミアス兄様に居場所を知られたから、ここから引っ越さないと。こんな忌々しい場所はもうごめんだ。





私はその後、話に聞いていたカナリアの女を一人誑かすことに成功し、殺してあげるから素直に話せと思いながらカナリアの秘術を聞き出す。興味もない金糸雀一族の話を親身に聞き、心も体も見事に籠絡した頃にようやく母体を安置する筐体ができたから来いと連絡が入った。安置する前に私に内部をチェックさせてほしいと言うと、もちろんすんなりと許可が下りる。


ほら、ここに私が作ったすごい魔法が安置されるんだ。皆の生活を楽にしてくれるんだよ、と言うとカナリアの女はエステルに似た輝くような笑顔で、まあすごい!とても大きいのねここは、と感心して見回っている。筐体は半球状の透明なガラスに似た素材でできている。どこかの特殊魔法を使う者の作なのだそうだ。私は一番奥の内膜目がけて、懐かしくて落ち着く、あの黒い手の出る魔法の言霊を放った。発動条件を入念にサークルの周囲へ刻みこみ、さて、とカナリアの女に今までで一番いい笑顔を向けた。


カナリアの女は私を見て、とても幸せそうに微笑むので…なんと恐ろしい笑顔をするのだこの女は、と思いながら私も最高に幸せな笑顔で”洗脳ブレインウォッシュ”を女へ掛けた。女はガクガクと震えながら、大層魅力的な…真っ青な顔をしながら歌い出す。恐怖に震え、絶望に打ちひしがれ、それでも美しい声で私を愛している、縛りたいと歌う。滂沱の涙を流しながらも私を愛している、殺したいと歌う。私の肉体の最後の記憶は…死人のような顔で最高に醜悪な呪詛の歌を喉から紡ぎだす、素敵なカナリアの映像で閉じられた。






  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ