苦情
人間はその昔から宇宙に対しての色々な想像を膨らませてきた。
その想像を形にした物の一つが映画であり映画製作を仕事にしている男にとってSF映画の制作はまさに天職といえた。
夢のような技術も未知で危険な生物がいる世界も思いのまま描くことが出来る。
常識や束縛を嫌う男は頭の中にある宇宙を投影するように映画を作り続けた。
中でも彼の作品で傑作と呼ばれているものが、地球外生命体が登場するパニックムービーだった。
彼が夢想する怪物たちはとにかく不気味で、見る者に畏怖と嫌悪を覚えさせた。
「さて……そろそろあの映画の続編を考えないとな。次はどうしようか……もっと範囲を広げて、あの怪物を複数登場させるのはどうだろうか……」
自室に籠もり、彼はたった一人の空間で頭の中の宇宙を広げていく。
と、
「お仕事中とお見受けするが、失礼するよ」
突然、背後で声が聞こえ、男は思わず腰を浮かせた。
彼は独り身であり、この家には彼しかおらず部屋には鍵をかけている。突然音も無く侵入することなどありえない。
いったい何者だと男は振り返ると、浮かせた腰を今度は抜かす羽目になった。
目の前には、彼が夢想し、映画に登場させた怪物がいたのだ。
ぬるりとした表皮、人間を遥かに越す長身、歯茎とまぶたを剥きだしにした爬虫類に似た顔。映画製作の折、レプリカを見たことがあるが、ここまで呼吸や微かな動作をしたものを見たことが無い。
しかも、それが二匹もいるのだ。
怪物たちは顔を見合わせた。
「ほら見ろ、やっぱり驚かせてしまった。もっと段階を踏むべきだったんだ」
「それじゃあ偽物と思われる可能性があるし、こういうのは最初が肝心なんだ」
二匹の怪物は互いに話しあっていても埒があかないと思ったのか男の方に再び向き直った。
「あ、あんたたちは……いったいなんなんだ? なんでそんなそっくりな着ぐるみを持っている?」
「残念ですが、我々は着ぐるみでも偽物でもありません。こういう生物……あなた方でいうところの宇宙人にあたります」
「……お、俺に何のようだ?」
「なんの用だと? 今から全部説明してやる。俺たちは地球人と同盟を組もうと遠く離れた星からやってきたんだ。そして、いざコンタクトを取ろうと思った時にお前さんの映画の存在を知ったんだ」
一気にそこまで言い終えると、宇宙人は冷静になろうと息を大きく吐き出す。その臭いは男が想像していた通りの悪臭で思わず顔をしかめてしまう。
「映画を見て血の気が引いたぜ……これの存在を知らずにのこのこ地球人とコンタクトを取ったりしたら、たちまち俺たちは怪物扱いだ」
再び頭に血が上り始めたのか、語気が強くなっていく仲間を見てもう一方の宇宙人が制止した。
「我々は非常に友好的で無闇に他の種族の命を殺めたりしないという自負と誇りがあります。ですが、あなたの映画の存在は我々にとって大きなマイナスイメージとなってしまいます」
「……俺にどうしろというんだ?」
「このままであれば、我々は地球との貿易を断念しなければなりません。その損失をあなたに補填していただこうと考えています。……ちなみに補填の金額は地球のあなたの国に換算すると……このくらいになります」
その金額を見て男の全身の産毛が逆立った。その金額は小さな国家を一括で買えるほどの桁に達していたのだ。
「ば、バカな……こんな金額払えるはずが……ま、まさか払えなければ殺すなどと言い出さないだろうな……」
「まさか。先ほども説明したように我々は殺生を好みません。ですから、代案もしっかり用意しております」
「代案……?」
「簡単なことです。次回作では我々の姿をしたキャラクターのイメージを回復するような作品を作っていただきたいいのです。そうすれば先ほどの金額の件は取り下げます」
金はとても払えないし、ここで代案も拒否をするとこの自称温厚な宇宙人たちがどんな手段に出るか分からない。
男はその代案を承諾すると宇宙人たちは去っていった。
それから男は早速宇宙人たちの映画の続編を制作し始めた。
内容は前作とは別の宇宙生物が地球に飛来し、人類は前作の宇宙人のクローンを作り宇宙生物と対峙するというものになった。
ホラーからアクションへの転向で非難の声も上がったが、それでも映画は大ヒットと呼べる成功を収めた。
あれから宇宙人たちが訊ねることも無く、男は再び映画の続編の制作を始める。
いつものように自室のデスクに向かい構想を練っていると、彼しかいないはずの空間で背後から声が聞こえた。
「君があの映画を作った地球人だね? 我々は非常に温厚で平和的な種族。それなのにあんな映画を作られては今後の地球人との友好関係に影響が出る。我々が得るはずだった利益をあなたが補填してくれても構いませんが、私たちの方で代案も……」




