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ポカリ女と石男

作者: い~ぐる

「痛っ」


「ん?どしたの?」


ガタン、という音と共に自動販売機から吐き出されたポカリ……スポーツドリンクを取りながら、急に背後から聞こえてきた声にあたしは振り向く。

そこには後ろ頭を抱えて呻いている、いかにもスポーツ少年!って感じのあたしの幼なじみが居た。いやまあ居るのは知ってたけど。


「いや、今何か頭にぶつかって……。」


「これじゃない?」


不思議がる幼なじみ……蓮に、近くに転がっていた石を拾い上げて見せると、彼はそれを手に取りしげしげと眺める。


「なんでこんなもんが……」


「さぁ、日頃の行い悪いからじゃないの?」


「おい明日香。」


スポーツドリンクの蓋を開けながら告げるあたしの軽口に眉根を寄せるけど、このくらい何時もの事なので結局アイツの視線は石に戻る。

石をじっと見ていた奴がふと何か思いついたように目を見開くと、あぁまた何時ものか……とアタシはため息を吐いた。


「……あ、でもこの石結構いい感じだな、色とか手触りとか。」


「あんたねぇ、その妙な収集癖も程々にしなさいよ。おばさん部屋がガラクタだらけって困ってたわよ?」


「ち、ちゃんと飽きたのは捨ててるって!」


そう、こいつは気まぐれに拾った物を持ち帰って貯めこむクセがあるのだ。そのくせ集めるだけ集めて片付けない。

見かねたおばさんに幾度と無くゴミとして捨てられてるはずなのに、まだ懲りないらしい。捨ててるかどうかも実際怪しいものである。


「どうだか……それより、ちょっと夕飯の買い物頼まれてるの。商店街いくから荷物持ち手伝って。」


「え~、荷物持ちとか勘弁しろよ~。」


「今夜はカレーで、多めに作っておすそ分けするって母さん言ってたわよ?」


「頑張ります!」


チョロい奴め。まあ蓮、うちの母さんのカレー好きなの知ってたけどね。蓮のおばさんのカレー、超辛いから。

あたしはスポーツドリンクをちびちび飲みつつ、手に入れた荷物持ちAと共に商店街に向かったのだった。



=====



「えぇっと、豚肉、玉ねぎ、じゃがいも、人参……ルーと福神漬はまだ家にあったはずだから、これでOK。じゃあハイよろしく。」


「お~。」


確認した買い物袋から、まだ飲み終わっていないポカリだけ抜いて蓮に持たせると、奴は片手にそれを提げる。

もう片方の手は……あの時の石をまだ弄んでいた。あたしから見ると、やっぱりタダの石ころである。


「まだそれ持ってたの?いい加減捨てなさいよ。」


「良いだろ別にこんくらい。」


「あんたねぇ……。」


呆れたように蓮を見ているあたしが、再度口を開こうとした時だった。


「きゃあっ!ひっ、ひ、引ったくりー!!」


商店街の中程から、そんな女の人の悲鳴が聞こえて、あたしと蓮は振り向いた。

一気に騒がしくなった商店街の中央から、出口に向けて一気に駆け抜けようとする黒いジャケットにサングラスの男が目に入った。

その手には、明らかに女性物のハンドバックが握られていて一目瞭然である。

あたしがちらと蓮を見ると、奴も小さく頷く。こういう時は幼なじみというのは分かりやすくて素敵である。

あたしは飲みかけのペットボトルの蓋を閉めて振り上げ、蓮は手に持っていた石を軽く自分の胸元で放り上げた。


『死ねぇ盗っ人!!』


意図せず同じ言葉を放ちつつ、あたしは飲みかけのペットボトルを投げ放ち、蓮は軽く放り投げた石を引ったくりに向けて蹴り飛ばした。

何でって?あたしと蓮は人から物を盗む奴が大嫌いなのだ、特に万引き。

家がコンビニを経営している蓮と、家が古本屋のあたしはずっと家族が万引きに悩んでいるのを知っているのだ。よって盗っ人は敵である、万引き死すべし。

まあそれはさておき、ほぼ直線を描いて投げられたあたしのポカリの底が引ったくりの顔面に、蹴り飛ばされた石は股間に吸い込まれていったのである。


「ご、っ――!?」


奇声を上げて悶絶するのを清々しい気持ちで見下ろしながら携帯で通報する。蓮と一緒に逃げられないように万引き犯の背中に座りながら。


「あんたホント、足のコントロールだけは抜群よねぇ。流石はサッカー部レギュラー!……手は超絶ノーコンだけど。」


「うっせぇ気にしてんだから言うなバーカ。」


「カレー。」


「すんませんでした。」


分かれば良いのである。しかしなんでコイツ、足で蹴ったら狙い通りのとこに行くのに、スローインとかすると明後日の方向に飛んで行くのか。

普通、足より手を使って狙い定める方が簡単だろう……ホントに謎である。そんな奴はしきりに、万引き犯の背中に座りながら周囲に視線を走らせていた。


「あっれぇ……あの石見当たらねぇ。」


「良かったじゃない、捨てる手間省けて。」


「良くねぇよ良い石だったのに……くっそ、コイツのせいだ。」


「はいはい……あ、守口さん来たわよ。こっちこっち~!」


「あぁやっぱり君達か……全く、無茶しちゃ駄目だっていっつも……」


「あぁはいはいごめんなさいって、それよりコイツ!」


この近くの交番で勤務している警官の守口さんのお説教が始まる前に、あたしと蓮はひったくり犯から退いて突き出す。

まあ、盗っ人大嫌いなあたし達が万引き犯やひったくりを突き出したのは一度や二度では無いし、

商店街から少し離れたあたしや蓮の家にも見回りに来てくれるので、すっかり顔なじみになっているのである。

蓮はちゃっかり、盗られたハンドバックを返すためにと逃げやがった、ふてぇ奴だ。カレーのおすそ分け減量してやろうか。


「じゃ、守口さん後よろしく~。蓮、帰るわよ!」


「おう!じゃ、おばさん気を付けろよ!」


ハンドバックを盗られたおばさんに挨拶を返してこっちに戻ってきた蓮が買い物袋をちゃんと持ってるのを確認して、あたし達は商店街を抜け出した。

日も暮れだし、赤い夕陽の光がアスファルトを赤黒く染めていく……さっきと違い

あたしの手にポカリのペットボトルは無く、アイツの手にあの石はない。


「あーあ、ポカリムダになっちゃった。」


「俺だって……あの石、どこ行ったんだよホント。」


「いい加減諦めなさいよ。蹴りだした石がどこ行こうが、石の自由よ。アンタやアタシの知ったこっちゃないでしょ?」


「なんだよソレ、適当言っただけだろ。」


「良いじゃないの別に……あたしなんてポカリよポカリ!まだ全部飲んでなかったし、100円くらいムダにしちゃった気がする!」


「ケチ臭ぇなお前。」


「何ですって!?」


まあ、ポカリと石がなくなったからって、あたしとコイツの生活が変わる訳ではないんだけどね。


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