プロローグ①
ここではない何処かの世界、あったかもしれない、もう一つの世界。それは一般的には並行世界なんて呼ばれているわけだけれど、僕は今、その並行世界とやら、もしくは全く別の世界に来ているのかもしれない。
今この文章を読んでいる人達はきっと口を揃えて、こう言うに違いない。
「お前は一体何を言っているんだ?」と。
申し訳ないのだが、僕はその問いに答える為の情報や学を持ち合わせていない。僕にだって一体全体何が起こっているのか、僕の身に何が起きたのか、全ては曖昧で、まるで霧がかかったみたいに漠然としていて説明することなど到底出来そうにないのである。
朝起きてみると、僕はベッドの上ではなく、周りには何にもない草原のど真ん中で寝ていた。最初は夢だと思った。そして僕はまた眼を閉じてもう一度眼を開いた。やはり目の前には一面の緑が広がっていて、空には雲一つなく、鬱陶しいくらいに眩い太陽が仰々しい態度で鎮座していた。時折風が吹いてきて僕の髪を扇いで、通り過ぎていった。心地良い風だった。たぶん夢の中では、こんなに心地良い風は吹かないかもしれない。その一迅の風は、僕が寝転んでいるこの場所は紛れもない現実なのだと僕に思い知らせた。
寝ていても何も始まるわけでなし、兎にも角にも僕は起き上がり、周りを見回してみた。やはり僕の周りには緑の草原しか存在していなかった。所々に蒲公英のような黄色く小さな花が咲いていたが、圧倒的な緑の草原の前では、やはり蒲公英はどこまで行っても小さな蒲公英のままだった。何となく、その蒲公英達は僕に似ているような気がした。
僕は草いきれの中へと足を踏み出しながら、昨晩に起きた出来事を思い返して見る事にした。昨晩は書店のアルバイトを終え、家に帰ってきて、母の作った美味しいとも不味いとも言い難い冷めた炒飯を食べ、風呂に入り、髪を乾かさないままベッドに横になり、休憩時間中に購入した本を読んでーー
そこで僕の記憶は途切れていた。僕には寝た記憶がなかった。本の表紙を埋めるように描かれた緑の草原だけが鮮明に脳裏に焼き付いていた。




