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よく分かんない作品集

超キモい声

作者: 七宝
掲載日:2026/04/01

 その鳥居は、丹色(にいろ)などとは程遠い、血が乾いたような異様な色をしていた。


 度々ネットで話題に(のぼ)るこの廃神社は地図には載っておらず、“選ばれた人間”にしかたどり着けない場所だと噂されていた。


 昨日、夢を見たのだ。

 この場所がどこなのか、ここには何がいて、自分に何をもたらしてくれるのか。夢は静かに、しかし執拗に告げていた。

 目を覚ました私はすぐに駅へ向かった。新幹線のチケットを買い、最短の便に乗り込んだ。早く、あそこへ。この神社へ、と。


 地方の長閑(のどか)な村の山中に、この神社は確かに在った。道は荒れ、看板は朽ち果てていたが、障害はなかった。まるで私が来るのを待ち続けていたかのように、ただそこに存在していた。


 私は人生に絶望していた。自分が何者であるのかすら見失い、ただ疲れていて、すり減っていること以外分からなくなっていた。

 この神様は、そんな私を救ってくれる存在なのだと知った。あるいは、気づいた。私が自由になれる方法を教えてくれる、世界で唯一の存在なのだと。


 廃れた境内に、この異様な鳥居。普通ではないことは誰の目にも明らかだった。それでも、私には退くという選択肢はなかった。社会に虐げられ、嬲られ、底辺に追いやられた私に、逃げ道はなかったのだ。


 鳥居をくぐると、空気が重たくなった。木々の葉ずれが、誰かのささやきのように聞こえる。参道は落ち葉と泥に埋もれており、歩く度に砂埃が立つ。本殿の前まで来て、私は立ち止まった。賽銭箱の横に何かが落ちている。


 それはぐしゃぐしゃに丸められた紙だった。何年も前からそこに棄てられているような質感の、シワだらけの古い紙。

 私はそれを拾い上げた。指が冷たい。紙は湿っていて、予想していたより少し重かった。


 この中に答えがあるのだと思った私は、破れないようにゆっくりと紙を(ほど)き始めた。皺の間から、徐々に白黒の画像が現れる。


 それは私の顔写真だった。

 正面からまっすぐにこちらを見ている。自分だが、自分ではないような表情だった。目が少し開きすぎていて、口が半開きになっている。

 いつ撮られたのか、まるで思い出せない。ただ、無造作に伸びたぼさぼさの髪から、最近の写真であることだけは分かった。


 スマホを取り出して、内カメラで自分の顔を見てみる。


 その瞬間、心臓が止まった。

 写真と全く同じ角度、そして同じ表情なのだ。


 紙の裏に、今日の日付が書いてあるのに気がついた。


 その時だった。

 スマホの電話が鳴った。


 画面には「不明」とだけ表示されていたが、なぜか私の指は応答をタップしていた。


「もしもし⋯⋯?」


『⋯⋯⋯⋯』


 何も話さないが、電話越しに相手の息遣いが聞こえる。なんともキモい声である。


 キモい声⋯⋯

 私はこれまで生きてきて、人の声をキモいと思ったことが一度もなかった。唯一、超キモいと思ったのは――


『はやく気づいたほうがいいかもねえ』


 言葉が終わらないうちに、背後で枝が折れる音がした。

 振り返ると、鳥居の向こうに私がいた。


 私はうれしそうに私の顔を見つめながら、電話を切った。


 その瞬間、世界から全ての音が消えた。


「さよなら」


 そう言ったのだと思う。

 その後彼女は私に背を向け、歩き出した。ただ佇む私を背に、一度も振り向くことなく、歩いていった。


 私はなんとなく悟っていた。彼女が死ぬその日まで、私はここにいなければならないのだろう、と。この鳥居の内側で、永遠に。

 この乾いた血の色をした門の向こう側で彼女が生きる限り、私はここにただ在り続けるしかないのだろう。


 そして、彼女が――私が――最後に息を引き取るその瞬間まで、この廃れた神社は私の唯一の安らぎの場となるのだろう。


 ありがとう。

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― 新着の感想 ―
 じぶんの聞いてるじぶんの声と比べるからそう思っちゃうんですよね。  鏡越しじゃないじぶんの顔も、キモく感じるかも。
これ、ハッピーエンドなんですか? てっきり、ホラー寄りかと思いましたよ。
 うわ、キモ(キツ)っ。(笑)
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