二回目
Y:あのぉ。
T:はいはい。
Y:二回目ってことですが、何かあります?
T:なんか適当に喋ってええんか?
Y:とりあえず本能寺の変と関係の有る話をお願いします。
T:そないなわけで、本能寺の変について語らせて頂きますが、この間、Wikipediaで本能寺の変の記事読んどったらさ、今、原因として五十九の説が上がってるんやな。ビックリしたよ。
Y:そないにビックリする事かいな。
T:わし、平成の中頃やったか、後期やったかに「歴史読本」で読んだんは丁度五十の説が並んどったんよ。それ以来、本能寺の変の原因は五十の説で覚えとったから、まさか九も増えとるとは思わんやったよ。
Y:仮説を立てる人が多いんやな。
T:まぁ、そんだけ関心があるって事やろうし、有り難いことだよ。
Y:説が増えたらその分、混乱しそうやん。
T:混乱したら宜しいがな。昭和の頃は高柳光寿さんの野望説と桑田忠親さんの怨恨説が競っとって、昭和の末期ぐらいから史料の見直しとかが始まったようで、色んな説がぽつりぽつりと出始めたんやな。
Y:そうなんや。
T:それがいつの間にやら五十九にもなったんやから、農作物やったら大豊作って言う処なんやろうけど、この場合はどこかで一つに絞って欲しいような気ぃはするよね。
Y:絞り切れるんかね?
T:本能寺の変を起こした本人が、何も書き残していない以上、推理するしかないんやろうな。まぁ、しゃぁない。
Y:しゃぁないんかいな。
T:少なくとも当時の人達は、本人から話を聞いて事情は知っとったと思うけど、それを誰一人として書き残さなかったんか、書き残した文書があったとしても、戦乱とかで焼けてもうたんか、先の大戦で空襲とかで焼けてもうたんか、わからへんけどな。
Y:そいで、あんたは五十九の中でどれが正しいと思とるんよ。
T:個人的には斎藤利三主犯説が一番納得できるかなぁ、思ては居るんですね。
Y:そうなんや。
T:でも、それとは別に気になっている説があるんですね。
Y:そうなんや。どれでしょう。
T:五十九の中には無いんですけど、十年以上前に公共放送の歴史番組を観とったんですよ。
Y:それで?
T:その番組の後半、そろそろ終わろうかという時に一つの説が出たんですよ。
Y:どないな説?
T:それを今から話すんやけど、本能寺の変が起きる数時間前、前日の夜に信長は来客と世間話をしとったんやけど、その場で「やんごとなきこと」を発言して、それを聞いた、その場に居た人らが驚いた、というのがあって、その場に居た一人が日記に書き残してるんですよ。具体的に誰の日記かを忘れてもうて申し訳ないし、調べようにも調べ方がわからんで放置してるんやけどさ。
Y:誰の日記かわかったら、どないすんのよ。
T:その場には公家やら商人やら、色んな身分の人が居たし、日記を書いとる人も居たんよね。兎に角、自分の記憶違いで無いことを確かめたかってんけど、わからんのよ。
Y:残念な話やな。
T:その番組の推測では、その場に居た人が、その「やんごとなきこと」の内容に驚いて、一番近くに居る光秀に使者を送るんよ。それで西に向かって進軍しとった光秀隊に使者が出会えて、「やんごとなきこと」の内容を聞いた光秀が急遽信長を討つと決めたんやないか、そういう話やったわけよ。時間的にも一致するとか、言うとったんやな。この「やんごとなきこと」の内容がなんだったのか、それがわかればええねんけど、わからへんし、何年もなんやろうか、考えてきたけど、未だわからへんよ。
Y:急に主人を討ちたくなるって、どないな内容やってんやろうなぁ。
T:それがわかれば苦労はせんけど、あれこれ考えてみたけど、今ん処、わからへんのよ。
Y:それでこの話は終わってまうんかいな。
T:そう思わせといて、ちゃうんやな。
Y:ちゃうんかいな。
T:最近、気になることを見付けたんですよ。
Y:なんでっしゃろか。
T:桐野作人さんの「だれが信長を殺したのか」というPHP新書を読み返したんですよ。
Y:読み返しシリーズの二回目やな。
T:いつからシリーズ化したんや。
Y:前回も本を読み返してましたやん。
T:まぁ、なんでもええねんけど、この本の六四頁に載ってる話なんですけど、信長の家臣に稲葉一鉄という人が居たんですね。その一鉄の家臣に那波直治という人が居たんですけど、この直治さんが明智光秀にヘッドハンティングされたみたいで、一鉄さんの部下を辞めて、光秀の部下になるんですね。
Y:優秀な人やったんやなぁ。
T:おそらくそれだけ優秀な人やったみたいなんですけど、それで一鉄さんは信長に那波直治を取り戻したいとか、相談を持ち掛けてはるんですね。
Y:それで、どないなるんよ。
T:結果としては直治には一鉄さんの処へ戻るようにって言う命令というか、指示が出るんやけどさ、それが天正十年の五月二十七日、本能寺の変の四日前という、微妙な日なんですね。
Y:四日前……
T:旧暦ですから、五月三十一日って言う概念が無いんですね。
Y:月の満ち欠けでしたよね、旧暦って。新月の日が朔日になって、十五日が満月になるよう、設定されてるんやろ。
T:暦の話は置いといて、五月二十七日の日付で信長の決定が文書として発給されているんですけど、その日の内に那波直治の手元に届いたとは思えへんし、そもそもこの時、那波直治はどこに居たのか、それも問題になってくると思うんよね。
Y:と、言いますと?
T:五月十七日に明智光秀は安土城から自分の坂本城へと戻ってるんですね。その後、二十六日には亀山城へ移動してはるし、直治はこの文書をどこで受け取ったんか、それが気になるんですよ。
Y:そこが気になるんですか?
T:気になるんですよ。
Y:なんで?
T:那波直治は安土城か、安土城の城下辺りで待機していたのか、それとも明智光秀と行動を共にしていて、亀山城まで行っていたのか、それによって光秀がどの様に反応したんか、そこも気になるよ。
Y:そうなんか。
T:そうなんよ。さっき、文書の日付が二十七日って言いましたけど、午前中なのか、午後なのかにもよって、違ってきますやん。その日の内に受け取って、直治さんが一鉄さんの下へ戻ったのか、二十八日に受け取って、光秀に挨拶してから一鉄さんの処へ戻ったとしても、光秀さんは出発前の慌ただしい時やし、こないな時に人事異動の話かいって、腹立ったんやないかって思てんけど、な。
Y:そないなことで、本能寺の変を起こされても困るよ。
T:少なくとも二十八日の時点では、信長に対して謀反を起こすとか、そないな気ぃは無かったみたいなんやな。
Y:そういうのも、わかるんや。
T:同じ本の二〇六頁から二一〇頁にかけて光秀が福屋隆兼に宛てた手紙が載ってるんですけど、これの日付が五月二十八日なんですよ。この福屋隆兼って言う人は当時伯耆国に居た武将で、元々は石見国の本明城の城主やったそうですけど、負け戦で信長の勢力圏まで逃げてきた人やねん。
Y:話がややこしいなってきたやん。
T:色々あって福屋隆兼はこの時、伯耆国のおそらくは羽衣石城に居たのではないか、そう推測されとるんやな。この羽衣石城は南条元続って言う人が守ってはって、それを支える立場やったかもしれへん。それで手紙の内容は、光秀は備中へ進軍して、その後で山陰方面へ行く予定やからその際は宜しくね、的な内容やったんよ。
Y:四百年も前の人が、宜しくねって言うんか?
T:あくまでも内容の話やから、細かいところは突っ込み無いや。四百年前の人が、宜しくね、とか言うとったら、こっちがビックリするよ。
Y:余計な突っ込みを入れまして、申し訳ないです。
T:この手紙でわかるのは、光秀は備中高松城で毛利家の軍勢と睨めっこしている秀吉に合流して、その後に山陰方面へ移動する予定があるって事と、この手紙を書いとる時点では信長に対して謀反を起こす気ぃが無いのは、わかりますやん。
Y:そうなん?
T:この時代の手紙って書いて出す手間暇が今と違て、凄い労力が必要ですやん。二日後、三日後に謀反起こして京都周辺を制圧する気があったら、わざわざ手紙書いてそちらに行きますなんて面倒なことはせんやろ。
Y:今やったら、E-mailちょいちょいって書いて、エンターキー押したら仕舞いやけど、な。
T:明日謀反を起こす人がな、わざわざE-mail書いて、エンターキー押すけ?
Y:わざわざE-mailは半角横文字で、エンターキーは片仮名表記って、おかしかないか?
T:そない突っ込みなや。
Y:アリバイづくりで必要なんちゃうんけ。
T:明日謀反起こして、主人を殺すんやで。面倒なアリバイなんていらんやんか。
Y:言われたらそないかもしれへんけど、万が一って事もあるやん。
T:まぁ、そないなんやろうけど、今は気にせんでええよ。兎に角、那波直治を稲葉一鉄へ返さなあかんと知った上で、福屋隆兼へ手紙を書いたのか、それとも手紙を書いて出した後に知って、信長に対して腹立たしいと思ったのかで、随分と変わってくるやん。
Y:言われたら、そうやなぁ。
T:さっきの光秀から福屋隆兼さん宛の手紙でも、細かい話は山田喜兵衛が申しますって言う箇所が有ってさ、手紙を運んだ山田喜兵衛という人が、手紙には書いてないけど細かい話を伝えますって言うんやな。この時代の人って、使いの人に細々説明させるんが好きやったみたいなんよ。だから、那波直治さんを稲葉一鉄さんへ戻しなさいって言う信長の書面も、書いてない何かがあったやもしれへんやん。書面を運んだ人が光秀相手に余計な一言を言うて、それで光秀がぶち切れた可能性もあるやろ。
Y:それこそ、Fuck you言うて、中指立てとるやもしれへんよな。
T:さすがに、四百年前に英語でそれ言うて、中指立てることは無いやろうけど。
Y:真面目に答えんと、ここは聞き流すか、こない教育上宜しくない言葉を使たんやから、かき消す努力をしてくれよ。
T:そりゃぁ申し訳ない。
Y:それで、結局は原因がわからんまま、話は終わるんやな。
T:話を終わらせる前に、実はもう一つ、手紙にまつわる話が有るんやな。
Y:まだ続くんかいな。
T:続くよ。
Y:覚悟して聞くよ。
T:ほな、次回に回そっか?
Y:そないして下さい。
T:そう言うわけで、今夜はこの辺りで……




