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第八話:裏切りの連鎖


レガシー号のブリッジは、いつもとは違う緊張感に包まれていた。操舵席のジェットは、ディスプレイに映し出されたライナスの拘束映像を何度も確認している。隣の席に座るカイルは、黙って海を眺めていた。ライナス・リードの身柄は、レガシー号の隔離室に厳重に拘束されている。


「…本当にこいつを引き渡すのか?」


カイルは、静かにそう呟いた。ライナスの身柄を引き渡せば、今回の依頼は完了する。だが、カイルの胸には、拭いきれない違和感が残っていた。


「ああ、報酬も破格だし、こいつを捕らえたことで、俺たちも裏社会で一目置かれるようになる。それに…」


ジェットは、そう言って、ライナスの情報画面をカイルに見せた。


「こいつは、軍事複合企業『アークエンジェル』の元幹部だ。奴が持っている情報は、裏社会のパワーバランスをひっくり返すほどのものだ。その情報を、俺たちの手にすれば…」


「…それが、今回の依頼の本当の目的か」


カイルは、ジェットの言葉に、そう問い返した。ジェットは、カイルの視線から目を逸らし、黙って頷いた。


「俺は、お前のそういうところが好きじゃない」


カイルはそう言って、椅子から立ち上がると、ブリッジを出ていった。ジェットは、カイルの背中を見送りながら、静かに息を吐いた。


カイルは、自分の部屋に戻ると、愛銃SIG P226を手に取った。彼は、銃を分解し、一つ一つのパーツを丁寧に磨いていく。その作業は、彼の心を落ち着かせるための、一種の儀式だった。


「…俺は、何をしているんだ」


カイルは、そう呟いた。賞金稼ぎとして、非殺傷弾を使い、人を傷つけずに獲物を捕らえる。それは、彼の信念だった。だが、今回の依頼は、ただの捕獲ではない。ライナスが持つ情報を手に入れるための、危険な取引だ。カイルは、自分の信念が揺らいでいるのを感じていた。


その時、無線が入った。


「カイル、緊急事態だ!レガシー号に…」


ジェットの声が、途切れ途切れに聞こえてくる。


「何があった、ジェット!」


カイルは、無線に向かって叫んだ。しかし、ジェットの声は、そこで途絶えた。


カイルは、銃を組み立てると、部屋を飛び出した。彼は、レガシー号のブリッジへと駆けつけた。ブリッジの扉が開くと、そこには、ジェットが血を流して倒れている。そして、ライナス・リードが、ジェットのHK P7を手に、静かに立っていた。


「よう、カウボーイ。また会ったな」


ライナスは、不気味な笑みを浮かべ、そう言った。カイルは、ライナスの姿を見て、眉をひそめた。


「どうやって…!」


「簡単なことさ。この船のAIは、お前の声紋にしか反応しない。だが、俺は、お前の声紋を盗み出した。それに、この船のシステムには、俺が作ったバックドアが仕掛けられている」


ライナスはそう言って、ジェットの端末を操作した。すると、レガシー号のメインシステムが、ライナスの支配下に入った。


「くそっ!」


カイルは、ライナスに向かって、SIG P226を構えた。


パン!


カイルの放った非殺傷弾は、ライナスの頭部に命中した。しかし、ライナスは倒れない。彼の体には、何重もの防弾チョッキが着込まれていた。


「無駄だ。俺は、お前が非殺傷弾しか使わないことを知っている。それに、この銃は、非殺傷弾を無効化する」


ライナスはそう言って、ジェットのHK P7から、非殺傷弾を抜き取り、実弾を装填した。彼の動きは、手慣れていた。


「…お前は、俺をはめたのか?」


カイルは、ライナスにそう問いかけた。


「ああ、その通りだ。お前は、俺を捕まえるために、わざわざ俺の秘密基地まで来た。だが、俺は、お前を捕まえるために、お前が乗っている船まで来た」


ライナスはそう言って、銃口をカイルに向けた。


パン!パン!パン!


ライナスが発砲した。実弾が、カイルの体を掠める。カイルは、体を回転させ、銃弾をかわしていく。彼は、物陰に飛び込み、身を隠した。


ライナスの銃撃は、的確だった。彼は、カイルの動きを先読みし、弾丸を放ってくる。カイルは、物陰に隠れながら、ライナスの動きを観察する。ライナスは、カイルが隠れた場所を正確に把握し、銃弾を放ってくる。


「くそっ、このままじゃ、弾がもたない!」


カイルはそう呟いた。彼は、ライナスに近づくことができない。ライナスは、銃撃戦に慣れている。彼は、カイルの動きを完全に封じ込めている。


「諦めろ、カウボーイ。お前の非殺傷弾は、俺には効かない。だが、俺の実弾は、お前に効く」


ライナスはそう言って、カイルが隠れた物陰に、さらに銃弾を撃ち込んでくる。


ダダダダダダ!


カイルは、物陰から飛び出し、ライナスに向かって走り出した。ライナスは、カイルの行動に驚き、一瞬、銃撃を止めた。その一瞬の隙を突き、カイルはライナスの懐に飛び込んだ。


「終わりだ、ライナス!」


カイルはそう言って、ライナスの腕を掴み、関節を極めようとした。しかし、ライナスは、カイルの動きを先読みし、体を回転させ、カイルの腕を振り払った。


「残念だったな、カウボーイ。お前の動きは、すべてお見通しだ」


ライナスはそう言って、カイルに向かって、銃口を向けた。


その時、ライナスの背後から、一人の男が現れた。


「…ライナス、貴様…!」


それは、ジェットだった。彼は、血を流しながら、ライナスに向かって、HK P7を構えていた。


「ジェット、貴様、まだ生きていたのか!」


ライナスは、ジェットの姿を見て、驚きに目を見開いた。


パン!


ジェットが発砲した。非殺傷弾が、ライナスの頭部に命中した。ライナスは、その場に倒れ込んだ。


「くそっ…!」


ライナスは、悔しそうにそう呟くと、その場で意識を失った。


ジェットは、その場で膝をついた。カイルは、ジェットに駆け寄り、彼の体を支えた。


「大丈夫か、ジェット!しっかりしろ!」


カイルの声は、焦りに満ちていた。


「ああ…大丈夫だ…」


ジェットは、そう言って、苦笑いを浮かべた。


「俺は、お前を信じている。だが、俺は、お前を信じない」


ジェットは、そう言って、カイルの腕の中で、意識を失った。


「…ジェット…!」


カイルは、ジェットの体を抱きかかえ、そう呟いた。彼の目には、悔しさと、そして深い悲しみが宿っていた。

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