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第六話:孤独なハッカー


レガシー号のブリッジに、カイルとジェットは戻ってきた。先ほどの男が発した「クロエ」という言葉は、二人の間に重くのしかかっていたが、今は次の仕事に集中することにした。


「まあ、今はいい。それよりも、次の仕事を探そう」


カイルは、ソファーに深く腰掛け、つまらなそうに天井を見上げた。


ジェットは、カイルの言葉に頷き、端末のディスプレイに新たな情報を表示させた。


「そうだな…面白い奴がいるぜ」


ジェットはそう言って、ディスプレイに一人の男の顔写真を表示させた。男の名は、アダム・クロス。その顔には、不気味な笑みが浮かんでいる。


「こいつは、天才ハッカーだ。大企業や政府の機密情報を盗み、裏社会に流している。今回の賞金も、その被害額の一部だ」


ジェットはそう言って、カイルに情報を提示する。


「ハッカーか。それはまた、厄介な相手だな」


カイルはそう呟いた。彼の興味は、あくまで力と力のぶつかり合い、そのスリルにある。しかし、今回の獲物は、肉弾戦とは無縁のトリックスターだ。


「奴は、海上を転々と移動し、常に偽名を使っている。足取りを掴むのは至難の業だ」


カイルは、眉間にシワを寄せ、面倒くさそうに言った。


「そこは任せてくれ。俺のコネクションを使えば、奴の居場所を特定できる」


ジェットはそう言って、端末のキーボードを叩き始めた。彼の指は、まるでピアノを弾くかのように軽やかに、そして正確にキーを打っていく。元警察官としての情報網と、長年の賞金稼ぎで培った独自のコネクション。ジェットの強みは、カイルのそれとは全く違う、知的な戦闘術だった。


数分後、ジェットは顔を上げた。


「特定できたぜ。奴は今、旧サイバー都市に浮かぶ廃墟ビルにいる。数日後には別の場所に移動するだろう。これが最後のチャンスだ」


「よし」


カイルは、ソファーから立ち上がると、愛銃SIG P226の入ったホルスターを腰に装着した。


「ジェット、出撃準備だ」


「おうよ」


カイルとジェットは、レガシー号の格納庫へと向かった。


格納庫に降りると、そこには漆黒の超小型戦闘機『スティングレイ』が静かに佇んでいた。その機体は、前回のドッグ・ノイズ一味との戦闘で受けた傷を綺麗に修復されていた。カイルは、機体のメンテナンスポートを開け、機関砲の弾薬を補充していく。


「今回の相手は、戦闘機は持っていないはずだ。だが、用心に越したことはない」


カイルはそう言って、黙々と作業を続ける。ジェットは、カイルの言葉に頷き、彼の横で自分の愛銃HK P7を点検していた。


HK P7は、独特のスクイズコッカーと呼ばれる機構を持つ自動拳銃だ。グリップの前面にあるレバーを握り込むことで、撃発準備が完了する。その構造は、安全性が高く、かつ素早い初弾発射を可能にする。ジェットは、マガジンを抜き出し、非殺傷弾がきちんと装填されているかを確認する。一発一発、弾頭がわずかに鈍い光を放つ。


「カイル、俺は船で待機している。何かあったらすぐに連絡してくれ」


ジェットはそう言って、HK P7をホルスターに戻した。


「了解だ。行ってくる」


カイルは、スティングレイのコックピットに乗り込むと、海上へと飛び立っていった。


目的地である廃墟ビルに到着したカイルは、スティングレイを廃墟ビルから少し離れた海面に着水させた。廃墟ビルは、かつてはサイバー都市として栄えていたが、今では見る影もなく朽ち果て、ゴーストタウンと化していた。


「まさか、こんな場所で奴を見つけるとはな」


カイルはそう呟くと、コックピットのハッチを開け、船外に出た。


カイルは、廃墟ビルの裏口から忍び込んだ。内部は、薄暗く、埃とカビの匂いが充満していた。カイルは、SIG P226を構え、慎重に進んでいく。


その時、カイルの耳に、聞き覚えのある銃声が聞こえてきた。


ダダダダダダ!


機関銃の連射音が、廃墟ビル内に響き渡る。カイルは、銃声のする方に駆け寄った。そこには、大勢の男たちが、機関銃を構え、カイルを待ち伏せしていた。


「観念しろ、カウボーイ!」


敵の一人が叫んだ。


カイルは、微笑んだ。


「残念だったな。俺は、そういうのには興味がないんだ」


カイルはそう言うと、物陰に飛び込み、身を隠した。


ダダダダダダ!


機関銃の連射音が、カイルが隠れた物陰を容赦なく打ち砕く。実弾が、コンクリートの壁を抉り、破片が飛び散る。カイルは、その合間を縫って、非殺傷弾を撃ち込んでいく。


パン!パン!パン!


非殺傷弾は、敵の腕や脚に正確に命中し、敵は次々とその場に倒れていく。しかし、その数はあまりにも多い。


カイルは、このままでは弾が尽きる。そう判断すると、彼は新たな作戦に出た。


カイルは、物陰から飛び出し、敵に向かって走り出した。敵は、カイルの行動に驚き、一斉に銃を撃ち始める。


ダダダダダダ!


カイルは、銃弾の雨をかわしながら、敵の懐に飛び込んだ。彼の体は、まるで水の流れのように滑らかで、銃弾を紙一重でかわしていく。


彼の合気道は、相手の攻撃をいなし、その力を利用して反撃する。カイルは、敵の一人の腕を掴むと、その体を回転させ、盾にする。敵の銃弾が、その男に命中し、男は悲鳴を上げて倒れ込んだ。


「くそっ、この化け物が!」


敵の一人が叫んだ。


カイルは、敵の叫びを無視し、次々と敵を無力化していく。彼の動きは、人間離れしていた。


「アダム、どこだ!」


カイルは、敵を倒しながら、アダムを探す。しかし、アダムの姿はどこにもない。彼は、混乱に乗じて逃げ出したのだ。


「ちっ、逃げ足のトリックスターめ!」


カイルは舌打ちをすると、倒れた敵を無視し、アダムを追って廃墟ビルの屋上へと飛び出した。


廃墟ビルの屋上には、アダムが操縦するドローンが停泊していた。アダムは、ドローンのハッチを開け、乗り込もうとしている。


「待て、アダム!」


カイルは、アダムに向かって叫んだ。しかし、アダムはカイルの言葉を無視し、ドローンのエンジンを始動させた。


キュィィィィィン!


ドローンのエンジンが唸りを上げる。アダムは、カイルにニヤリと笑い、操縦桿を握った。


「またな、カウボーイ!」


アダムはそう言い残すと、ドローンを急発進させた。


カイルは、アダムの逃走を阻止しようと、SIG P226を構え、ドローンに向かって非殺傷弾を撃ち込んだ。


パン!パン!パン!


しかし、弾丸はドローンの硬い外装に弾かれ、効果はなかった。アダムのドローンは、カイルを嘲笑うかのように、空へと舞い上がっていく。


「くそっ!」


カイルは悔しそうに拳を握り締めた。


その時、カイルの耳に無線が入った。


「カイル、無事か?大丈夫か?」


ジェットの声だ。


「ああ、無事だ。だが、獲物を逃がした」


カイルの声は、悔しさに震えていた。


「どういうことだ?」


「アダムは、ドローンで逃げた。俺の非殺傷弾は効かなかった」


「くそっ、そうか…」


ジェットの声も、落胆していた。


「まあ、仕方ない。また別の機会を待とう」


カイルはそう言って、無線を切った。


彼は、静かに海を見つめた。廃墟ビルのネオンが、海面に反射して揺れている。


「時代遅れのカウボーイさ、か…」


カイルはそう呟き、スティングレイへと戻っていった。

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