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第五話:再会、そして裏切りの陰


海上油田での死闘を終え、カイルはドッグ・ノイズを拘束し、レガシー号へと戻った。デッキに上がると、待機していたジェットが駆け寄ってくる。カイルの服には、油と埃と、そして僅かに血の跡がついていた。


「カイル!無事か!まったく、いつもの非殺傷弾が効かないって無線で聞いたときは肝を冷やしたぜ」


ジェットは安堵と苛立ちが入り混じった表情で言った。彼の顔からは、心配で無線を握りしめていた様子が窺える。


「ああ、見ての通りだ。少しばかり手間取ったがな」


カイルは平然と答えた。彼の右腕には、ドッグ・ノイズの銃弾が掠った小さな擦り傷がある。


「その『少しばかり』で、俺の寿命が数年縮んだ。一体どうやったんだ?無線じゃ合気道で倒したって言っていたが、冗談じゃないだろ?」


「冗談じゃないさ。俺の師匠は、銃を構えた相手でも、懐に入り込めば勝てるって言っていた」


カイルは、そう言って、ドッグ・ノイズが使っていた特殊な銃をジェットに手渡した。ジェットは、その銃を興味深げに眺め、端末で銃の情報を検索し始めた。


「この銃は…非殺傷弾を無力化する特殊な電磁波を放つらしい。至近距離では、その効果が薄れるようだ」


ジェットはそう言って、銃の構造を分析し始めた。


「さすが、元警察官。物知りだな」


カイルはそう言って、ジェットの頭を軽く叩いた。ジェットは、カイルの言葉に苦笑いを浮かべた。


「俺は、お前みたいに銃の腕はない。だが、情報戦なら負けない。それに、俺は警察官時代に、この銃を追っていたんだ」


ジェットはそう言って、カイルに顔を向けた。彼の目には、過去の因縁を感じさせる光が宿っていた。


「どういうことだ?」


カイルは、ジェットの言葉に興味を抱き、そう尋ねた。


「この銃は、裏社会で流通している特殊な銃器の一つだ。俺は、この銃器を流通させている組織を追っていた。だが、あと一歩のところで、組織のボスに逃げられた。そのボスが、まさか、ドッグ・ノイズだとはな」


ジェットはそう言って、悔しそうに拳を握り締めた。


「そうか…」


カイルは、ジェットの過去に触れ、静かにそう呟いた。


「…まあ、過去は過去だ。これからは、俺とお前の時代だ。な?」


カイルは、そう言ってジェットの肩を叩いた。ジェットは、カイルの言葉に頷き、彼の横で微笑んだ。


「そうだな。これからは、俺とお前の時代だ」


二人の間に、再び強い絆が生まれた。そして、二人は、新たな獲物を求めて、大海原へと繰り出す準備を始めた。


その日の夜、レガシー号のブリッジは、静寂に包まれていた。カイルは、ソファーに深く腰掛け、海に浮かぶネオンの光をぼんやりと眺めていた。ジェットは、操舵席に座り、端末のディスプレイを前に、新たな情報を探していた。


「なあ、ジェット。今日の男、何者だったんだ?」


カイルは、静かにそう尋ねた。


「さあな…だが、奴は、何かを隠しているようだった」


ジェットは、そう答えると、端末のディスプレイに一人の男の顔写真を表示させた。


「こいつは、ライナス・リード。元賞金稼ぎだ。数年前に姿を消していたが、最近再び裏社会に現れた。今回の賞金は、大企業からの依頼で、その額は破格だ」


ジェットはそう言って、ライナスの詳細な情報を表示した。その経歴はカイルと驚くほど似通っていた。元警察官のジェットが追っていたのは、ドッグ・ノイズのような武器密売人。そしてカイルが追うのは、ライナス・リードのような元賞金稼ぎだった。


「賞金稼ぎが、賞金首か…」


カイルは、眉間にシワを寄せ、面倒くさそうに言った。


「侮るなよ、カイル。こいつは、賞金稼ぎの顔と傭兵団のリーダーという二つの顔を持つ。その手口は、巧妙で残酷だ。そして、奴は、特殊な銃器を好んで使うらしい」


ジェットはそう言って、ライナス・リードの情報を表示させた。


「よし、行こう」


カイルは、すぐにレガシー号の格納庫へと向かった。


格納庫に降りると、そこには漆黒の超小型戦闘機『スティングレイ』が静かに佇んでいた。その機体は、前回の戦闘で受けた傷を綺麗に修復されていた。カイルは、機体のメンテナンスポートを開け、機関砲の弾薬を補充していく。


「今回の相手は、戦闘機は持っていないはずだ。だが、用心に越したことはない」


カイルはそう言って、黙々と作業を続ける。ジェットは、カイルの言葉に頷き、彼の横で自分の愛銃HK P7を点検していた。


HK P7は、独特のスクイズコッカーと呼ばれる機構を持つ自動拳銃だ。グリップの前面にあるレバーを握り込むことで、撃発準備が完了する。その構造は、安全性が高く、かつ素早い初弾発射を可能にする。ジェットは、マガジンを抜き出し、非殺傷弾がきちんと装填されているかを確認する。一発一発、弾頭がわずかに鈍い光を放つ。


「カイル、俺は船で待機している。何かあったらすぐに連絡してくれ」


ジェットはそう言って、HK P7をホルスターに戻した。


「了解だ。行ってくる」


カイルは、スティングレイのコックピットに乗り込むと、海上へと飛び立っていった。


目的地である海上廃墟都市に到着したカイルは、スティングレイを廃墟都市から少し離れた海面に着水させた。廃墟都市は、かつては栄えていたが、今では見る影もなく朽ち果て、ゴーストタウンと化していた。


「まさか、こんな場所で奴を見つけるとはな」


カイルはそう呟くと、コックピットのハッチを開け、船外に出た。


カイルは、廃墟都市の裏口から忍び込んだ。内部は、薄暗く、埃とカビの匂いが充満していた。カイルは、SIG P226を構え、慎重に進んでいく。


その時、カイルの耳に、聞き覚えのある銃声が聞こえてきた。


ダダダダダダ!


機関銃の連射音が、廃墟都市内に響き渡る。カイルは、銃声のする方に駆け寄った。そこには、大勢の男たちが、機関銃を構え、カイルを待ち伏せしていた。


「観念しろ、カウボーイ!」


敵の一人が叫んだ。


カイルは、微笑んだ。


「残念だったな。俺は、そういうのには興味がないんだ」


カイルはそう言うと、物陰に飛び込み、身を隠した。


ダダダダダダ!


機関銃の連射音が、カイルが隠れた物陰を容赦なく打ち砕く。実弾が、コンクリートの壁を抉り、破片が飛び散る。カイルは、その合間を縫って、非殺傷弾を撃ち込んでいく。


パン!パン!パン!


非殺傷弾は、敵の腕や脚に正確に命中し、敵は次々とその場に倒れていく。しかし、その数はあまりにも多い。


カイルは、このままでは弾が尽きる。そう判断すると、彼は新たな作戦に出た。


カイルは、物陰から飛び出し、敵に向かって走り出した。敵は、カイルの行動に驚き、一斉に銃を撃ち始める。


ダダダダダダ!


カイルは、銃弾の雨をかわしながら、敵の懐に飛び込んだ。彼の体は、まるで水の流れのように滑らかで、銃弾を紙一重でかわしていく。


彼の合気道は、相手の攻撃をいなし、その力を利用して反撃する。カイルは、敵の一人の腕を掴むと、その体を回転させ、盾にする。敵の銃弾が、その男に命中し、男は悲鳴を上げて倒れ込んだ。


「くそっ、この化け物が!」


敵の一人が叫んだ。


カイルは、敵の叫びを無視し、次々と敵を無力化していく。彼の動きは、人間離れしていた。


「ライナス、どこだ!」


カイルは、敵を倒しながら、ライナスを探す。しかし、ライナスの姿はどこにもない。彼は、混乱に乗じて逃げ出したのだ。


「ちっ、逃げ足のトリックスターめ!」


カイルは舌打ちをすると、倒れた敵を無視し、ライナスを追って廃墟都市の屋上へと飛び出した。


廃墟都市の屋上には、ライナスが操縦するドローンが停泊していた。ライナスは、ドローンのハッチを開け、乗り込もうとしている。


「待て、ライナス!」


カイルは、ライナスに向かって叫んだ。しかし、ライナスはカイルの言葉を無視し、ドローンのエンジンを始動させた。


キュィィィィィン!


ドローンのエンジンが唸りを上げる。ライナスは、カイルにニヤリと笑い、操縦桿を握った。


「またな、カウボーイ!」


ライナスはそう言い残すと、ドローンを急発進させた。


カイルは、ライナスの逃走を阻止しようと、SIG P226を構え、ドローンに向かって非殺傷弾を撃ち込んだ。


パン!パン!パン!


しかし、弾丸はドローンの硬い外装に弾かれ、効果はなかった。ライナスのドローンは、カイルを嘲笑うかのように、空へと舞い上がっていく。


「くそっ!」


カイルは悔しそうに拳を握り締めた。


その時、カイルの耳に無線が入った。


「カイル、無事か?大丈夫か?」


ジェットの声だ。


「ああ、無事だ。だが、獲物を逃がした」


カイルの声は、悔しさに震えていた。


「どういうことだ?」


「ライナスは、ドローンで逃げた。俺の非殺傷弾は効かなかった」


「くそっ、そうか…」


ジェットの声も、落胆していた。


「まあ、仕方ない。また別の機会を待とう」


カイルはそう言って、無線を切った。


彼は、静かに海を見つめた。廃墟都市のネオンが、海面に反射して揺れている。


「時代遅れのカウボーイさ、か…」


カイルはそう呟き、スティングレイへと戻っていった。

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