第四話:古き技、鋼の銃
海上油田の巨大な鉄骨の迷路、その最深部。錆びついた鉄骨やパイプが張り巡らされた薄暗い空間に、カイルは一歩足を踏み入れた。湿気を帯びた空気が、オイルと錆の匂いを運んでくる。前方には、非殺傷弾が効かない特殊な銃を構えた男、ドッグ・ノイズが不気味な笑みを浮かべて立っている。そして、ドッグ・ノイズの後方、影の中に潜むように、カイルが以前出会った謎の男が静かに控えていた。
「…無駄だ、カウボーイ。お前の非殺傷弾は、俺には効かない」
ドッグ・ノイズは、手に持つ特製の銃をカイルに向けた。それは市販の銃器とは明らかに異なる、重厚なカスタムが施されたFN SCAR-H。通常7.62mm口径の実弾を発射するアサルトライフルだが、ドッグ・ノイズのものは銃身に不可解な発光デバイスが取り付けられており、銃口から放たれるのは、非殺傷弾の機能を無効化する特殊なパルスだった。
「その銃は、非殺傷弾を無効化する。だが、俺が使うのは、銃だけじゃない」
カイルは、冷静な声でそう言い返した。彼の右手には、愛銃SIG P226が握られている。その銃は、スイスとドイツの技術の結晶であり、高い信頼性と命中精度を誇る。カイルは、その銃のマガジンを静かに抜き取り、非殺傷弾をすべて取り出した。空になったマガジンをホルスターに戻すと、彼は拳銃をただの「金属の塊」として、再び手に持った。
ドッグ・ノイズは、カイルの行動に驚き、目を見開いた。
「おい、何を…!」
その一瞬の隙を突き、カイルは地面を蹴り、ドッグ・ノイズに向かって走り出した。
ダダダダダダ!
ドッグ・ノイズは、焦りから、SCAR-Hの引き金を引いた。特殊なパルスが、カイルが走る空間を次々と切り裂いていく。しかし、カイルの動きは、まるで水の流れのように滑らかで、銃弾を紙一重でかわしていく。
カイルは、走るスピードを落とさず、蛇のように体を左右に揺らし、ドッグ・ノイズに接近する。ドッグ・ノイズは、カイルの動きに対応できず、焦りの表情を浮かべた。彼のSCAR-Hは、カイルを狙うことができない。
「くそっ、この化け物が!」
ドッグ・ノイズはそう叫ぶと、銃の照準をカイルの頭部へと移そうとした。その一瞬の隙を見逃さず、影の中に潜んでいた謎の男が、ドッグ・ノイズに向かって発砲した。
パン!パン!パン!
男の愛銃HK USP Compactから放たれた弾丸は、ドッグ・ノイズの足元を掠め、彼の動きを止めた。ドッグ・ノイズは、驚きに目を見開き、一瞬、体が硬直した。
その一瞬の隙を突き、カイルはドッグ・ノイズの懐に飛び込んだ。彼の右手には、空になったSIG P226が握られている。
「終わりだ、ドッグ・ノイズ!」
カイルの声が、ドッグ・ノイズの耳元に届く。カイルは、ドッグ・ノイズの右手首を掴むと、そのまま関節を極め、銃を床に落とさせた。ドッグ・ノイズは、悲鳴を上げ、その場で倒れ込んだ。
カイルは、ドッグ・ノイズを床に組み伏せ、彼の動きを完全に封じた。ドッグ・ノイズは、もがき抵抗するが、カイルの力は、彼のそれを上回っていた。
「くそっ…!なぜだ…!」
ドッグ・ノイズは、悔しさに震えながら、カイルにそう問いかけた。
「お前は、銃に頼りすぎた。真の強さは、武器ではなく、己の体にあるんだ」
カイルはそう言って、ドッグ・ノイズの首にかけられた賞金首の認証チップを回収した。
ドッグ・ノイズを拘束し、カイルは立ち上がった。彼の背後には、ドッグ・ノイズの部下たちを倒した謎の男が立っていた。男は、カイルに鋭い視線を向けた。
「…てめえ、何者だ?」
男は、カイルにそう尋ねた。
「俺は、賞金稼ぎだ」
カイルは、そう答えた。
「賞金稼ぎ…か。俺は、ライナス・リード。お前と同じ、賞金稼ぎだ」
男はそう言って、カイルに手を差し出した。カイルは、その手を握り返した。
「カイルだ」
二人の間に、静かな友情が芽生えた。ライナス・リードは、カイルに一つ頷くと、その場を後にした。彼の背中には、何か大きな秘密が隠されているようだった。
カイルは、ライナス・リードの背中を見送りながら、無線機を手に取った。
「ジェット、ドッグ・ノイズを拘束した。今からレガシー号に戻る」
カイルの声は、安堵と、かすかな疲労に満ちていた。
「了解だ、カイル。早く戻ってこい。お前には、話したいことがある」
ジェットの声は、いつもよりも真剣だった。
カイルは、ジェットの言葉に頷き、ドッグ・ノイズを担ぎ上げ、レガシー号へと向かった。
海上油田の地下に、カイルの足音が静かに響き渡る。彼の心の中には、ドッグ・ノイズとの戦い、そして謎の男、ライナス・リードとの出会い、そしてジェットの真剣な声が、複雑に交錯していた。




