第三十四話:最終決戦
南極の氷に閉ざされた要塞の最深部。カイルとクロエは、重々しい音を立てて開いた最後の扉の向こうに、広大な空間が広がっているのを目にした。そこは、青白い光を放つ巨大なコンソールが中央に鎮座し、無数のケーブルが天井から床へと伸びている、まるで巨大な脳のような場所だった。その光景は、彼らが破壊した「マザー」とは比較にならないほど、壮大で、そして、不気味だった。
「…これが、タイラント・システム…」
クロエが、震える声で呟いた。その声には、恐怖と、そして、怒りが入り混じっていた。
コンソールの前に、一人の男が立っていた。彼は、白い強化スーツを身につけ、背中には、彼らが今まで見たこともない、特殊なライフルを背負っている。彼の顔には、冷酷な笑みが浮かんでいた。
「…よく来たな、賞金稼ぎ。だが、ここまでだ…」
男は、そう言って、背中に背負ったライフルを構えた。それは、Steyr Scoutだった。軽量で取り回しが良く、高い命中精度を誇るこのライフルは、狙撃銃としてだけでなく、近接戦闘にも対応できる、恐るべき銃だ。その銃口は、迷いなく、カイルとクロエを捉えていた。
「…くそっ!」
カイルは、舌打ちをした。彼は、SIG P226を構え、男に、銃口を向けた。クロエもまた、彼の隣に立ち、グロック17を構える。二人の瞳には、強い意志が宿っていた。
「…行くぞ、カイル!」
クロエが、叫んだ。彼女は、男に、向かって走り出す。カイルもまた、彼女の後に続き、走り出した。彼らは、互いを信じ、互いの背中を預け、この最後の戦いに挑む。
男は、カイルとクロエの行動を予測していたかのように、Steyr Scoutの引き金を引いた。
パン!
Steyr Scoutの銃声が、空間全体に響き渡る。弾丸は、クロエの頭部を狙って発射されたが、クロエは、とっさに身を屈め、弾丸を避けた。
「…ちっ、速い…!」
クロエは、そう呟いた。Steyr Scoutの弾速は、彼女が想像していたよりも、遥かに速かった。
その隙に、カイルは、男に、P226を連射する。彼は、男の強化スーツのわずかな隙間を狙い、非殺傷弾を放った。P226は、高い信頼性を誇る銃であり、カイルの正確な射撃と相まって、男をひるませる。
「…ぐっ…!」
男は、カイルの攻撃に、苦悶の声を上げる。しかし、彼の強化スーツは、P226の非殺傷弾を、完全に防ぐことはできなかった。彼は、わずかにバランスを崩し、その隙に、クロエが、彼に接近していく。
クロエは、グロック17を構え、男の右肩の関節を狙って、引き金を引いた。
パン!
彼女が放った弾丸は、男の右肩の関節を正確に撃ち抜き、彼の腕を無力化した。男は、激痛にSteyr Scoutを落とし、その場に崩れ落ちた。
「…くそっ…!」
男は、そう言って、クロエを睨みつけた。しかし、クロエは、男の視線を無視し、Steyr Scoutを拾い上げ、銃口を、タイラント・システムに向けた。
「…これで、終わりよ…」
クロエは、そう言って、Steyr Scoutの引き金に指をかけた。その時、彼女の無線に、ノヴァの声が聞こえてきた。
「…クロエ!待ってください!そのシステムを、破壊しないで!」
ノヴァの声は、焦っていた。クロエは、ノヴァの言葉に、わずかに戸惑った。
「…どういうこと!?」
クロエが、問いかけた。その時、倒れていた男が、ニヤリと笑った。
「…残念だったな、レディ。そのシステムは、破壊できない…」
男の言葉に、クロエは、驚愕した。
「…どういう意味よ!?」
クロエが、叫んだ。男は、嘲笑を浮かべながら、言った。
「…そのシステムは、地球のインフラと、完全に、融合している。もし、破壊したら、地球上のすべての、インフラが、停止する。そして、人類は、滅亡する…」
男の言葉に、カイルとクロエは、絶句した。彼らが、命をかけて、この場所にたどり着いた目的は、タイラント・システムを破壊することだった。しかし、そのシステムを破壊することは、人類を滅亡させることを意味していたのだ。
「…くそっ…!」
カイルは、舌打ちをした。彼らは、絶体絶命の状況に、追い込まれたのだ。
「…ノヴァ!どうすればいい!?」
カイルが、無線に叫んだ。ノヴァは、キーボードを叩きながら、焦った声で答えた。
「…このシステムを、停止させるには、**“鍵”が必要です!タイラントが、言っていた、最後の要塞に隠されている、ただ一つの“鍵”**が…!」
ノヴァの言葉に、カイルとクロエは、タイラントが話していたことを思い出した。タイラントは、この要塞のどこかに、システムの起動を阻止できる「鍵」が隠されている、と話していた。
「…くそっ、どこにあるんだ!」
カイルが、叫んだ。男は、ニヤリと笑った。
「…残念だが、それは、言えない。言ったら、俺が、殺される…」
男は、そう言って、口を閉ざした。カイルは、男の言葉に、苛立ちを隠せない。その時、クロエが、Steyr Scoutの銃口を、男の眉間に向けた。
「…話せ。さもないと、あんたの、頭を、撃ち抜くわよ…」
クロエの声は、冷たく、そして、一切の感情が欠落しているかのようだった。男は、クロエの瞳を、じっと見つめた。その瞳には、嘘偽りのない、強い意志が宿っていた。
「…ふん…面白い。その女、どうやら、本物のようだな…」
男は、そう言って、嘲笑を浮かべた。しかし、クロエは、その挑発に乗らなかった。彼女は、ただ、じっと、引き金に指をかけたまま、男を見つめている。Steyr Scoutのスコープが、男の眉間を正確に捉えている。
「…最後のチャンスよ」
クロエの声は、冷たかった。男は、クロエの言葉に、観念した。彼は、大きく息を吐き出すと、静かに、口を開いた。
「…わかった。話そう。だが、その後、俺を、殺してくれ…」
男は、そう言って、話し始めた。彼が話したのは、**“鍵”**の場所だった。
「…その鍵は、この要塞の、最深部にある、**“核”の中にある…そして、その鍵は、この要塞を、完全に、破壊できる、唯一の、“武器”**だ…」
男の言葉に、カイルとクロエは、絶句した。彼らが、探していた**“鍵”**は、この要塞を、そして、タイラント・システムを、破壊できる、恐るべき武器だったのだ。
「…くそっ、どうすればいいんだ…!」
カイルが、叫んだ。彼は、このままでは、タイラント・システムを、停止させることができないと悟った。
その時、クロエが、Steyr Scoutの銃口を、男の眉間から、少し下にずらし、彼の右肩に向けた。
「…話せ。その鍵を、どうやって、手に入れるのか…」
クロエの声は、冷たかった。男は、クロエの言葉に、わずかに怯えたような表情を見せた。
「…わかった…話す…」
男は、そう言って、声を震わせながら、話し始めた。彼が話したのは、タイラント・システムの「鍵」を手に入れるための、最後の試練だった。
「…その鍵を、手に入れるには、この要塞の、**“核”**を、起動させる必要がある…しかし、その核は、非常に不安定で、もし、起動させたら、この要塞全体が、爆発する…」
男の言葉に、カイルとクロエは、絶句した。彼らは、絶体絶命の状況に、追い込まれたのだ。
「…くそっ…!」
カイルは、舌打ちをした。その時、クロエが、カイルに、静かに、そして低い声で囁いた。
「…カイル。私に、任せて…」
クロエの言葉に、カイルは、顔を歪めた。
「…何を言ってるんだ!そんなこと、できるわけないだろ!」
カイルは、叫んだ。クロエは、カイルの言葉に、わずかに微笑んだ。
「…大丈夫。…これは、私の、最後の使命だから…」
クロエは、そう言って、Steyr Scoutを構え、要塞の奥へと、歩き始めた。彼女の背中は、まるで、運命に立ち向かう、一人の戦士のようだった。カイルは、クロエの背中を、ただ、見つめることしかできなかった。彼の瞳には、深い悲しみが宿っていた。




