第三十一話:嵐の後の静寂と、新たな標的
崩壊する軍事基地の内部から、カイル、クロエ、ジェット、ノヴァは、拘束したタイラントを抱え、必死に脱出を試みていた。ノヴァがハッキングで開けた天井の穴から、ジェットが先に飛び出し、レガシー号へ向かう。カイルとクロエは、タイラントを挟むようにして、瓦礫の山を駆け上がった。
「…急いで!もう、持ちません!」
ノヴァが無線で叫んだ。彼女の焦った声が、彼らの耳元で響く。基地全体が、自爆モードのカウントダウンにより、不気味な唸り声を上げ、通路の壁には、さらに大きなひびが入っていく。
タイラントは、カイルとクロエに挟まれながらも、嘲笑を浮かべていた。
「…無駄だ、カウボーイ。お前たちに、俺を止めることなどできん…」
彼は、そう言って、苦々しく笑った。しかし、カイルは、その挑発を無視した。彼の脳裏にあるのは、ただ、この基地から、全員で生きて脱出することだけだった。
「…あと、10秒!」
ノヴァの声が、カウントダウンを告げる。
「…急げ、カイル!」
ジェットが、再び叫んだ。カイルは、タイラントを担ぎ上げ、クロエと共に、最後の力を振り絞り、天井の穴へと向かう。
そして、彼らが穴を抜けた、その瞬間、基地全体が、激しい光に包まれた。
ドォォォォォォォォン!
大爆発が、北極圏の永久凍土を揺るがし、空には、巨大なきのこ雲が立ち昇った。カイルは、爆風から身を守るために、タイラントと共に、雪の中に身を投げ出し、爆風が収まるのを待った。
数秒後、彼らが顔を上げると、そこには、レガシー号が、静かに、そして力強く、彼らを待っていた。ジェットが、ハッチを開け、彼らに手を差し伸べる。
「…大丈夫か!?」
ジェットの声に、カイルは頷いた。彼は、タイラントを抱え、ジェットの差し伸べた手を掴み、船の中へと入っていった。クロエもまた、彼の後に続き、船の中へと入っていく。
「…みんな、無事でよかった…」
ノヴァは、安堵の息をついた。彼女は、タイラントを警戒しながら、カイルとクロエを、船室へと案内した。
船室の中央には、尋問用のテーブルと椅子が置かれている。カイルは、タイラントを椅子に座らせ、彼の腕と足を、拘束具で固定した。タイラントは、抵抗することなく、ただ、カイルを、そしてクロエを、不敵な笑みを浮かべて見つめていた。
「…話せ。お前たちが、何を企んでいるのか」
カイルが、タイラントに問いかけた。タイラントは、カイルの言葉に、肩をすくめた。
「…残念だが、俺は、何も話さない。お前たちに、教えることなど、何もない…」
彼の言葉に、カイルは、苛立ちを隠せない。その時、クロエが、タイラントの前に立ち、グロック17を構えた。彼女の銃口は、迷いなく、タイラントの眉間を捉えている。
「…話すまで、ここから、一歩も動けないわよ」
クロエの声は、冷たく、そして、一切の感情が欠落しているかのようだった。タイラントは、クロエの瞳を、じっと見つめた。その瞳には、嘘偽りのない、強い意志が宿っていた。
「…ふん…面白い。その女、どうやら、本物のようだな…」
タイラントは、そう言って、嘲笑を浮かべた。しかし、クロエは、その挑発に乗らなかった。彼女は、ただ、じっと、引き金に指をかけたまま、タイラントを見つめている。グロックのポリマーフレームは、彼女の手にしっかりと馴染み、その重みが、彼女の決意を物語っていた。
カイルは、クロエの隣に立ち、タイラントに、静かに、そして低い声で問いかけた。
「…話せ。お前たちが開発していた、本当のシステムは、一体、何だ…?」
カイルの声に、タイラントは、ニヤリと笑った。
「…お前たちには、関係ないことだ。それに、俺は、何も話さない…」
タイラントは、そう言って、口を閉ざした。カイルは、タイラントの言葉に、苛立ちを隠せない。その時、クロエが、グロック17の銃口を、タイラントの眉間から、少し下にずらし、彼の右肩に向けた。
「…話せ。さもないと、あんたの、右肩の骨を、粉砕してやる…」
クロエの声は、冷たく、そして、恐ろしいほどに、静かだった。タイラントは、クロエの言葉に、顔を歪めた。彼は、クロエが、本当に、撃つということを、理解したのだ。
「…やめろ!俺は、組織の元幹部だぞ!俺を撃ったら、ただじゃ済まないぞ!」
タイラントは、脅迫したが、クロエは、動じなかった。彼女は、グロック17の引き金に、さらに力を込める。
「…言ったはずよ。これは、私の戦いだ…」
クロエの言葉に、タイラントは、観念した。彼は、大きく息を吐き出すと、静かに、口を開いた。
「…わかった。話そう。だが、すべてではない。俺が知る、ほんの一部のことだけだ…」
タイラントは、そう言って、話し始めた。彼が話したのは、組織の真の目的、そして、彼らが開発していた、恐るべき兵器についてだった。
「…我々が、開発していたのは、**“マザー”**ではない。あれは、単なる、陽動にすぎない…」
タイラントの言葉に、カイルとクロエは、驚愕した。彼らが、命をかけて破壊したマザーは、ただの、おとりにすぎなかったというのだ。
「…じゃあ、本当の目的は、一体、何なの…?」
カイルが、震える声で、問いかけた。タイラントは、ニヤリと笑った。
「…それは、言えない。言ったら、俺が、殺される…」
タイラントは、そう言って、口を閉ざした。カイルは、再び、P226を構え、タイラントを睨みつけた。
「…もう、嘘は、通用しない。話せ!」
カイルが、叫んだ。タイラントは、カイルの言葉に、わずかに怯えたような表情を見せた。
「…くそっ…!わかった…話す!話すから、撃つな…!」
タイラントは、そう言って、再び、話し始めた。
「…我々が、開発していたのは、“タイラント・システム”。この世のすべての、兵器、インフラを、遠隔で、制御できる、システムだ…」
タイラントの言葉に、カイルとクロエは、絶句した。それは、世界を、一瞬で、壊滅させることができる、恐るべきシステムだった。
「…そのシステムは、今、どこに…?」
クロエが、声を絞り出す。タイラントは、ニヤリと笑った。
「…それは、言えない…」
タイラントは、そう言って、再び、口を閉ざした。クロエは、再び、グロック17を構え、タイラントを睨みつけた。
「…もう、嘘は、通用しないわよ」
クロエの声は、冷たく、そして、強い意志が宿っていた。タイラントは、クロエの言葉に、観念した。
「…わかった…話す…」
タイラントは、そう言って、声を震わせながら、話始めた。
「…そのシステムは、今、南極大陸の、氷の下に、隠されている…」
タイラントの言葉に、カイルとクロエは、驚愕した。それは、人類が、未だ、足を踏み入れたことのない、未知の領域だった。
「…なぜ、そんな場所に…?」
カイルが、問いかけた。タイラントは、震える声で、答えた。
「…そこに、我々の、最後の要塞がある…そして、そこには、システムの起動を、阻止できる、ただ一つの、**“鍵”**が、隠されている…」
タイラントの言葉に、カイルとクロエは、絶句した。彼らは、その**“鍵”**が、何を意味するのか、すぐに理解した。それは、このシステムを、完全に、無力化できる、最後の希望だった。
その時、船室の扉が、音を立てて開いた。ジェットとノヴァが、扉の前に立っていた。彼らは、二人のただならぬ空気を察し、尋問の様子を伺っていたのだ。
「…カイル、クロエ、大丈夫か?」
ジェットが、問いかけた。カイルは、ジェットに頷き、そして、タイラントが話した、すべてのことを話した。タイラントは、カイルの言葉に、驚愕した。彼は、カイルが、すべてを、話すとは、思っていなかったのだ。
「…くそっ…!」
タイラントは、悔しそうに叫んだ。彼の計画は、カイルたちによって、完全に、打ち砕かれたのだ。
「…わかった。ノヴァ、タイラントを、独房に連れて行け。そして、ジェット、次の目的地は、南極大陸だ」
カイルは、そう言って、クロエの肩に手を置いた。
「…クロエ、大丈夫か…?」
カイルの優しい声に、クロエは、首を横に振った。
「…大丈夫じゃない。でも、これは、私の、最後の使命だから…」
クロエは、そう言って、カイルに、かすかに微笑んだ。その瞳には、もう、迷いはなかった。




