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第三話:逃げ足のトリックスター


レガシー号のブリッジは、薄暗い照明の中、静かに波の音を立てていた。ジェットは、端末のディスプレイに映し出された男の顔写真をじっと見つめている。男の名は、ジャック・マーロウ。通称「スライム」。その名の通り、掴みどころのない、ずる賢い詐欺師だ。


「この男、相当なやり手らしいぜ」


ジェットは、グラスに入った液体を一口飲むと、そう言った。カイルは、ソファーに深く腰掛け、つまらなそうに天井を見上げている。


「賞金首が詐欺師とはな。俺たちの仕事は、どうやら人身売買や麻薬の密売人だけじゃなさそうだ」


カイルの声は、どこか退屈そうだった。彼の興味は、あくまで力と力のぶつかり合い、そのスリルにある。しかし、今回の獲物は、肉弾戦とは無縁のトリックスターだ。


「侮るなよ、カイル。こいつは、巧妙な詐欺で大企業から大金をせしめてきた。今回の賞金も、その被害額の一部だ」


ジェットは、端末のディスプレイをカイルに見せる。そこには、ジャックが過去に犯したとされる犯罪のリストが並んでいた。偽装された海上輸送会社の設立、架空の海洋都市開発への投資詐欺、そして最新のAI技術を悪用した偽造データ販売。その手口は、どれも常軌を逸していた。


「しかし、どうやって捕まえる?海上を転々と移動し、常に偽名を使っている。足取りを掴むのは至難の業だ」


カイルは、眉間にシワを寄せ、面倒くさそうに言った。


「そこは任せてくれ。俺のコネクションを使えば、奴の居場所を特定できる」


ジェットはそう言って、端末のキーボードを叩き始めた。彼の指は、まるでピアノを弾くかのように軽やかに、そして正確にキーを打っていく。元警察官としての情報網と、長年の賞金稼ぎで培った独自のコネクション。ジェットの強みは、カイルのそれとは全く違う、知的な戦闘術だった。


数分後、ジェットは顔を上げた。


「特定できたぜ。奴は今、旧メキシコ湾に浮かぶ海上カジノにいる。数日後には別の場所に移動するだろう。これが最後のチャンスだ」


「よし」


カイルは、ソファーから立ち上がると、愛銃SIG P226の入ったホルスターを腰に装着した。


「ジェット、出撃準備だ」


「おうよ」


カイルとジェットは、レガシー号の格納庫へと向かった。


格納庫に降りると、そこには漆黒の超小型戦闘機『スティングレイ』が静かに佇んでいた。その機体は、前回のシャーク一味との戦闘で受けた傷を綺麗に修復されていた。カイルは、機体のメンテナンスポートを開け、機関砲の弾薬を補充していく。


「今回の相手は、戦闘機は持っていないはずだ。だが、用心に越したことはない」


カイルはそう言って、黙々と作業を続ける。ジェットは、カイルの言葉に頷き、彼の横で自分の愛銃HK P7を点検していた。


HK P7は、独特のスクイズコッカーと呼ばれる機構を持つ自動拳銃だ。グリップの前面にあるレバーを握り込むことで、撃発準備が完了する。その構造は、安全性が高く、かつ素早い初弾発射を可能にする。ジェットは、マガジンを抜き出し、非殺傷弾がきちんと装填されているかを確認する。一発一発、弾頭がわずかに鈍い光を放つ。


「カイル、俺は船で待機している。何かあったらすぐに連絡してくれ」


ジェットはそう言って、HK P7をホルスターに戻した。


「了解だ。行ってくる」


カイルは、スティングレイのコックピットに乗り込むと、海上へと飛び立っていった。


目的地である海上カジノに到着したカイルは、スティングレイをカジノから少し離れた海面に着水させた。カジノの建物は、煌びやかなネオンに彩られ、大勢の客で賑わっていた。


「まさか、こんな派手な場所で奴を見つけるとはな」


カイルはそう呟くと、コックピットのハッチを開け、船外に出た。


カイルは、カジノの裏口から忍び込んだ。内部は、熱気と興奮に包まれていた。ディーラーがカードを配り、ルーレットの玉が回り、人々は歓声を上げている。


カイルは、人々の喧騒に紛れて、ジャック・マーロウを探す。彼は、ジャックの顔写真を頭の中で何度も再生し、周囲に目を凝らした。


その時、カイルの耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ようこそ、いらっしゃいませ。ジャック・マーロウと申します」


カイルは、声のする方に視線を向けた。ジャックは、豪華なスーツに身を包み、大勢の客の前で、流暢に話していた。彼は、新しい投資案件について熱弁をふるっている。


「見つけたぜ、シャーク」


カイルはそう呟くと、ジャックに接近しようとした。しかし、その時、ジャックの側近らしき男がカイルに気づき、彼に向かって近づいてきた。


「お客さん、どちら様で?」


男は、カイルを訝しげに見つめる。カイルは、男の質問を無視し、ジャックに向かって歩き出した。


男は、カイルの態度に不審を抱き、腰に手をかけた。カイルは、男の動きを読み、一歩踏み出した。


パン!


短い発射音が響き、非殺傷弾が男の腕に命中した。男は、悲鳴を上げ、その場で倒れ込んだ。


カイルの銃声に、周囲の人々が一斉に顔を向ける。ジャックは、カイルに気づき、顔色を変えた。


「くそっ、カウボーイめ!」


ジャックはそう叫ぶと、側近たちがカイルに向かって銃を向けた。


「おいおい、そんなものを使うなよ」


カイルはそう言って、SIG P226を構える。彼の指は、トリガーガードにかかり、親指は安全装置の位置を確認している。


パン!パン!パン!


カイルは、瞬時に三発の非殺傷弾を撃ち込んだ。弾丸は、敵の腕や脚に命中し、敵は次々とその場に倒れていく。


しかし、敵はまだいる。数十人の男たちが、一斉にカイルに向かって銃を向けた。彼らの銃は、すべて実弾が装填されている。


「観念しろ、カウボーイ!」


敵の一人が叫んだ。


カイルは、微笑んだ。


「残念だったな。俺は、そういうのには興味がないんだ」


カイルはそう言うと、物陰に飛び込み、身を隠した。


ダダダダダダ!


機関銃の連射音が、カジノ内に響き渡る。実弾が、カイルが隠れた物陰を容赦なく打ち砕く。カイルは、その合間を縫って、非殺傷弾を撃ち込んでいく。


パン!パン!パン!


非殺傷弾は、敵の腕や脚に正確に命中し、敵は次々と無力化されていく。しかし、その数はあまりにも多い。


カイルは、このままでは弾が尽きる。そう判断すると、彼は新たな作戦に出た。


カイルは、物陰から飛び出し、敵に向かって走り出した。敵は、カイルの行動に驚き、一斉に銃を撃ち始める。


ダダダダダダ!


カイルは、銃弾の雨をかわしながら、敵の懐に飛び込んだ。彼の体は、まるで水の流れのように滑らかで、銃弾を紙一重でかわしていく。


彼の合気道は、相手の攻撃をいなし、その力を利用して反撃する。カイルは、敵の一人の腕を掴むと、その体を回転させ、盾にする。敵の銃弾が、その男に命中し、男は悲鳴を上げて倒れ込んだ。


「くそっ、この化け物が!」


敵の一人が叫んだ。


カイルは、敵の叫びを無視し、次々と敵を無力化していく。彼の動きは、人間離れしていた。


「ジャック、どこだ!」


カイルは、敵を倒しながら、ジャックを探す。しかし、ジャックの姿はどこにもない。彼は、混乱に乗じて逃げ出したのだ。


「ちっ、逃げ足のトリックスターめ!」


カイルは舌打ちをすると、倒れた敵を無視し、ジャックを追ってカジノの外へと飛び出した。


カジノの外には、ジャックが操縦する小型飛行機が停泊していた。ジャックは、飛行機のハッチを開け、乗り込もうとしている。


「待て、ジャック!」


カイルは、ジャックに向かって叫んだ。しかし、ジャックはカイルの言葉を無視し、飛行機のエンジンを始動させた。


キュィィィィィン!


小型飛行機のエンジンが唸りを上げる。ジャックは、カイルにニヤリと笑い、操縦桿を握った。


「またな、カウボーイ!」


ジャックはそう言い残すと、飛行機を急発進させた。


カイルは、ジャックの逃走を阻止しようと、SIG P226を構え、飛行機に向かって非殺傷弾を撃ち込んだ。


パン!パン!パン!


しかし、弾丸は飛行機の硬い外装に弾かれ、効果はなかった。ジャックの飛行機は、カイルを嘲笑うかのように、空へと舞い上がっていく。


「くそっ!」


カイルは悔しそうに拳を握り締めた。


その時、カイルの耳に無線が入った。


「カイル、無事か?大丈夫か?」


ジェットの声だ。


「ああ、無事だ。だが、獲物を逃がした」


カイルの声は、悔しさに震えていた。


「どういうことだ?」


「ジャック・マーロウは、小型飛行機で逃げた。俺の非殺傷弾は効かなかった」


「くそっ、そうか…」


ジェットの声も、落胆していた。


「まあ、仕方ない。また別の機会を待とう」


カイルはそう言って、無線を切った。


彼は、静かに海を見つめた。カジノのネオンが、海面に反射して揺れている。


「時代遅れのカウボーイさ、か…」


カイルはそう呟き、スティングレイへと戻っていった。

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