第二十二話:クロエからの招待状
ボスを警察に引き渡し、彼らの悪行のすべてが明らかになってから数日後、レガシー号は再び穏やかな航海を続けていた。カイルとジェットの間には、以前のような深い信頼が戻っていた。ジェットは、端末に向かい、ボスのデータチップから得られた情報をさらに深く解析していた。彼の顔は、集中に満ちているが、そこには、以前のような苦悩の色はなかった。
「…見つけたぞ、カイル。クロエの居場所だ」
ジェットが、静かに言った。カイルは、操縦席からジェットの方を向いた。
「…どこだ?」
「彼女は、**『サンクチュアリ』**と呼ばれる場所にいる」
サンクチュアリ。それは、かつて組織が、秘密裏に武器の実験を行っていた、巨大な海上要塞の廃墟だった。そこは、組織の内部でも、ごく一部の人間しか知らない、極秘の場所だった。ジェットは、ボスのデータチップの中から、この場所に関する暗号化された座標を発見したのだ。
「…クロエからの、招待状だろう」
カイルは、静かに呟いた。ジェットは、頷いた。彼女は、すべてが終わり、二人の絆が再び強固になった今、二人を呼んでいる。彼女の真意を確かめるために、彼らは、サンクチュアリへと向かうことを決意した。
サンクチュアリは、分厚い霧に覆われ、周囲のレーダーに一切映らない。その場所は、まるでこの世から忘れ去られたかのような、不気味な雰囲気を漂わせていた。カイルは、スティングレイを使い、サンクチュアリの影に着陸させた。ジェットもまた、愛銃のHK P7を手に、カイルと共に内部へと潜入を開始した。
内部は、広大な空間に、錆びついた金属の機械が林立していた。カイルは、愛銃のSIG P226を構え、非殺傷弾のマガジンを再確認した。彼の心は、もう迷いも躊躇もなかった。ジェットもまた、P7を構え、その瞳は、真実を求める探究心で輝いていた。
「…カイル、右前方、バイタル反応。二つ。ただし、人間じゃない」
ジェットが、耳元のイヤホンで指示を出す。カイルは、その言葉に、わずかな緊張感を覚えた。人間じゃない。それは、組織が、過去にこの場所で、何かを開発していたことを示唆している。
「…ジェット、来るぞ!」
カイルが叫んだ瞬間、二つの影が、通路の奥から現れた。それは、二体の戦闘用ドローンだった。彼らが以前戦ったドローンとは異なり、このドローンは、より大型で、武装も強化されていた。その両腕には、IMI Galil ACEのライフルが装着されている。IMI Galil ACEは、イスラエル製の信頼性の高いライフルであり、その銃口からは、恐ろしい殺気が放たれていた。
「ダダダダダッ!」
ドローンは、二人に向かって、Galil ACEから弾丸を放ち始めた。7.62mm口径の弾丸が、金属の壁を砕き、火花を散らす。その弾丸の威力は、以前戦ったドローンが使用していたものとは比べ物にならない。
カイルは、即座に近くのパイプの陰に身を隠した。ジェットもまた、別のタンクの陰に身を隠す。カイルは、P226から非殺傷弾を撃ち込んだ。「プシュッ!」。非殺傷弾は、ドローンの強固な装甲に跳ね返され、全く効果がない。
「…カイル!非殺傷弾が通用しない!」
ジェットが、焦った声で叫んだ。
カイルは、冷静に状況を分析した。ドローンは、人間の動きを予測し、正確に銃撃してくる。このままでは、ジリ貧だ。彼は、ジェットに指示を出す。
「…ジェット!システムをハッキングしろ!俺が時間を稼ぐ!」
カイルは、そう言って、パイプの陰から飛び出した。ドローンは、カイルの動きに反応し、Galil ACEの銃口が火を噴く。カイルは、ジグザグに走りながら、ドローンの弾丸を避けていく。
「…こっちだ、鉄くずども!」
カイルは、ドローンを挑発し、彼らの注意を自分に引きつけた。ドローンは、カイルを追い、通路の奥へと進んでいく。カイルは、ドローンを誘導し、別の通路へと走り込んだ。その瞬間、ジェットは、ドローンの背後から、閃光弾を投げ入れた。
「ピカッ!」
閃光弾は、通路全体をまばゆい光で満たし、ドローンのセンサーを麻痺させた。その隙を突き、ジェットは、端末を取り出し、ドローンのシステムに侵入した。
「…やったぞ、カイル!ハッキング成功だ!」
ジェットの声が、イヤホンを通して届く。その瞬間、ドローンは、動きを止め、その場に静かに停止した。カイルは、安堵の息を吐き、ジェットの元へと駆け寄った。
「…ナイス、ジェット」
カイルは、ジェットの肩を叩いた。二人の間に、再び、強い信頼の絆が戻ってきたことを感じた。
ドローンを無力化し、二人は、サンクチュアリの最深部へと進んでいった。そして、彼らは、一つの部屋に辿り着いた。部屋のドアは、厳重にロックされている。ジェットは、端末を操作し、ドアのロックを解除した。
ドアが開くと、そこにいたのは、クロエだった。彼女は、部屋の真ん中に立ち、二人の姿を静かに見つめている。彼女の瞳には、もう以前のような冷たい光はなかった。そこには、ただ、深い悲しみが宿っていた。
「…ようこそ、カイル…そして、ジェット」
彼女は、そう言って、静かに微笑んだ。その笑顔は、どこまでも優しく、そして、彼女が背負ってきた孤独な戦いを物語っているようだった。
「…クロエ…」
ジェットが、静かに呟いた。カイルもまた、何も言えなかった。彼らは、クロエとの再会を、望んでいた。しかし、その再会は、彼らが想像していたものとは、全く異なるものだった。
「…あなたたちに、見せたいものがあるの」
クロエは、そう言って、部屋の奥にある、巨大なカプセルを指差した。カプセルの中には、一人の男が眠っていた。その男は、ライナスだった。
「…ライナス…!?」
カイルとジェットは、驚きを隠せない。ライナスは、死んだはずだった。しかし、彼は、なぜここにいるのか。そして、クロエは、なぜ彼をここに隠していたのか。すべての真実が、今、明らかにされようとしていた。




