第二十話:ノヴァの真意
ノヴァとの対面から数日が経った。レガシー号は、彼女を乗せ、次の目的地へと向かっていた。コックピットでは、ノヴァが端末を操作し、カイルとジェットは、彼女の隣に座ってその手元をじっと見つめている。彼女の指先は、キーボードの上をまるでダンスを踊るかのように軽やかに動き、無数のデータが画面上を駆け巡っていた。
「…あなたたちが追いかけている組織は、単なる武器密売組織じゃない。もっと大きな、闇のネットワークよ」
ノヴァは、そう言って、端末の画面に、一枚の画像を映し出した。そこには、クロエが写っていた。彼女は、組織の幹部らしき男と談笑しており、その手には、グロック17が握られている。
「…クロエも、組織の一員…?」
ジェットが、驚いたように呟いた。ノヴァは、静かに首を横に振った。
「いいえ。彼女は、私の仲間よ。組織を内部から破壊するために、潜入していたの」
ノヴァの言葉に、カイルは、一瞬の戸惑いを覚えた。クロエが、自分たちの味方?しかし、彼女は、ライナスを殺した。ジェットの仲間を殺した武器を扱っていた組織の一員だ。カイルは、ノヴァの言葉を信じることができなかった。
「…なぜ、ライナスを殺した?」
カイルは、ストレートに問いかけた。ノヴァは、静かに答えた。
「…彼は、組織を裏切った。しかし、組織の本当の目的を、私たちに話すことはなかった。そして、彼は、組織に追われていた。彼を生かしておくことは、私たちにとっても、あなたたちにとっても、危険だった」
ノヴァの言葉に、カイルは、ライナスが、組織の本当の目的を知りすぎていたために、クロエに殺されたことを悟った。しかし、それでも、カイルは、クロエの行動を正当化することはできなかった。
ノヴァは、カイルとジェットの間に生まれた溝を感じ取ったのか、静かに言った。
「…信用してくれないのね。構わないわ。あなたたちに、真実を見せるわ」
彼女は、そう言って、端末の画面を切り替えた。そこに映し出されたのは、組織の本拠地とされる、巨大な海上要塞だった。その要塞は、無数の兵士たちによって厳重に警備されており、その数は、数百人にものぼる。
「…あれが、組織の本拠地…」
ジェットが、息をのんだ。ノヴァは、続けて言った。
「…あの要塞は、世界中の武器をコントロールしている。あなたたちの非殺傷弾の製造を止めたのも、彼らよ。彼らは、世界中の武器市場を支配し、戦争をコントロールしようとしている」
ノヴァの言葉に、カイルは、衝撃を受けた。彼の非殺傷弾は、組織によって製造を止められていた。それは、彼らが、カイルの信念を、そして彼の行動を、監視していたことを意味していた。
「…どうすれば、あの要塞を攻略できる?」
ジェットが、問いかける。ノヴァは、静かに言った。
「…内部のシステムをハッキングし、防衛システムを停止させる。しかし、そのためには、私が、要塞のメインサーバーに直接アクセスする必要がある」
「…つまり、潜入が必要だと?」
カイルが、確認する。ノヴァは、頷いた。
「ええ。そして、あなたたちには、私のために、時間を稼いでほしい。私がシステムをハッキングしている間、兵士たちの注意を、引きつけて」
カイルは、ノヴァの瞳を見つめた。その瞳は、嘘を言っているようには見えなかった。彼女は、本当に、組織を内部から破壊しようとしている。カイルは、決意を固めた。
要塞への潜入は、決行された。カイルは、スティングレイを使い、要塞の影に隠れて潜入を開始する。ジェットは、レガシー号から、ノヴァと共に、カイルの動きをサポートする。
「…カイル、要塞内部に入ったわ。ここから、ノヴァがハッキングを開始する」
ジェットの声が、イヤホンを通して届く。カイルは、無言で頷き、要塞内部へと進んでいった。内部は、薄暗く、金属の反響音が響き渡っていた。
「…ノヴァ、ターゲットは?」
カイルが、問いかける。
「…メインサーバーは、要塞の最上階。警備は、厳重よ。兵士たちは、HK416を装備している」
ノヴァの声が、カイルの耳に届く。HK416は、ドイツ製のカービン銃。M4カービンの改良型であり、信頼性と命中精度が高いことで知られている。
「…了解」
カイルは、P226を構え、非殺傷弾のマガジンを再確認した。今回は、相手の数が多い。そして、彼らは、HK416という強力な武器を装備している。カイルは、慎重に通路を進んでいった。そして、彼は、兵士たちと遭遇した。
「…見つけたぞ!賞金稼ぎだ!」
一人が叫び、同時にHK416の銃口が火を噴いた。**「タタタタタッ!」**と、銃声が、通路に響き渡る。5.56mmNATO弾が、カイルの頭上をかすめ、コンクリートの壁を砕く。
カイルは、即座に近くの柱の陰に身を隠した。彼は、P226から非殺傷弾を撃ち込んだ。「プシュッ!」。非殺傷弾は、兵士たちのアーマーに命中するが、彼らはびくともしない。カイルは、非殺傷弾が通用しないことを悟った。
カイルは、柱の陰から飛び出し、通路の奥へと走り出した。兵士たちは、カイルの背中を追い、HK416の銃口が火を噴き続ける。カイルは、ジグザグに走りながら、ドローンとの戦いを思い出し、冷静に状況を分析した。
「…ジェット、ノヴァ!何とか時間を稼いでくれ!」
カイルは、叫んだ。ジェットは、端末を操作しながら、カイルの動きをサポートする。
「…カイル、敵は、あなたの動きを予測して、射撃している!注意して!」
ジェットの声が、イヤホンを通して届く。カイルは、ジェットの言葉に、ハッとした。彼は、兵士たちの動きを予測し、その動きを逆手に取った。カイルは、壁に跳ね返った弾丸を利用し、兵士たちの注意をそらした。その隙に、彼は、別の通路へと走り込み、敵の視界から姿を消した。
そして、その時が来た。
「…やったぞ、カイル!ハッキング完了!防衛システムを停止させた!」
ノヴァの声が、イヤホンを通して届く。その瞬間、要塞内部の照明がすべて消え、静寂が訪れた。カイルは、安堵の息を吐いた。彼の目の前には、ボスのアジトのドアが見えていた。
「…ジェット、ノヴァ。あとは俺に任せろ」
カイルは、そう言って、P226を構え、アジトのドアを開けた。そこにいたのは、ボスと、数人の護衛兵士たちだった。ボスは、カイルの姿に驚きを隠せない。
「…何者だ、貴様は…!」
ボスは、叫び、銃を構えた。カイルは、何も答えず、ただ静かに、銃口をボスに向けた。彼の瞳には、もう迷いはなかった。
「…俺は、カウボーイだ」
カイルは、そう言って、トリガーを引いた。彼の旅は、今、最終局面を迎えようとしていた。




