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第二話:鮫の牙


カイルは、眼前の巨漢、シャークと対峙していた。船内の薄暗い照明が、二人の間に張り詰めた緊張感を際立たせる。シャークの両手には、旧時代の象徴のような、漆黒の巨大なリボルバーが握られていた。鈍く光る銃身は、その中に秘めた殺意を雄弁に物語る。シリンダーの小さな穴からは、殺傷能力のある実弾が顔を覗かせていた。


「俺の銃は、お前を殺すためのものじゃない。ただ、お前を眠らせるだけのものだ」


カイルはそう言い放ち、SIG P226を構える。彼の指はトリガーガードにかかり、親指は安全装置の位置を確認していた。その体勢は、合気道の構えだ。相手の攻撃をいなし、無力化するために最適化された、重心の低い、しかし常に動き出す準備が整った構え。


「強がりはそこまでだ、カウボーイ」


シャークの低い声が船内に響き渡る。その巨体からは想像もつかない速さで、彼の右腕が動いた。


ドォン!


轟音と共に、シャークのリボルバーが火を噴いた。銃口から噴き出す炎が、一瞬、カイルの顔を照らす。殺傷能力のある実弾は、まさに彼の心臓を狙っていた。


しかし、カイルの反応は、その一瞬を上回る。


シャークが引き金を引くと同時に、カイルの体が微かに傾ぎ、その場で回転した。合気道の「捌き」の動き。弾丸は、彼が立っていた空間を寸で切り裂き、背後の鋼鉄の隔壁に激突した。


キンッ!


火花が散り、甲高い金属音が船内にこだまする。弾痕は深く、鋼板は無残にも抉られていた。


カイルは回転の勢いを殺さず、シャークへと一気に間合いを詰める。彼の右手には、未だSIG P226が握られている。シャークは、カイルの接近に驚いた表情を見せたが、すぐに左のリボルバーを構え直した。


「遅い!」


カイルの声が、シャークの耳元に届く。彼の左腕が、シャークの左腕を掴んだ。合気道の技だ。シャークの巨体が、カイルの小さな体に吸い込まれるように、前のめりになる。


パン!


カイルは、シャークの胸部にSIG P226を押し当て、非殺傷弾を撃ち込んだ。至近距離での射撃。非殺傷弾の威力は、神経系に直接作用する。


シャークの巨体が、一瞬、硬直した。しかし、彼は驚くべきことに、その場で持ちこたえる。


「くそっ……効かねえのか!」


カイルは舌打ちをした。通常の人間であれば、即座に麻痺するはずだ。シャークの体は、常人とは違う。


シャークは、硬直から解放されるや否や、両腕に握られたリボルバーを振り回し、カイルを攻撃する。まるで巨大なハンマーだ。カイルは、シャークの腕を巧みに避け、その攻撃をいなしていく。


ドォン!ドォン!


シャークは、無差別にリボルバーを連射する。実弾が船内のあちこちに激突し、火花と金属音を立てる。カイルは、その銃撃を紙一重でかわしながら、シャークの死角へと回り込む。


「終わりだ、シャーク!」


カイルの声が、シャークの背後から聞こえた。彼は、シャークの右腕を掴むと、合気道の関節技を仕掛けた。シャークの巨体が、まるで子供のように持ち上げられ、床へと叩きつけられる。


ドォン!


鈍い衝撃音が船内に響き渡った。シャークは呻き声を上げ、その場に倒れ込んだ。しかし、彼はまだ意識を失ってはいない。


カイルは、倒れたシャークにSIG P226を向けた。


「観念しろ、シャーク。お前は終わりだ」


「くそっ……まだだ!」


シャークはそう言うと、倒れたまま左のリボルバーをカイルに向けて撃ち放った。


ドォン!


カイルは、咄嗟に横に跳んだ。弾丸は、彼の足元をかすめ、床に深々と突き刺さる。その反動で、カイルの体勢がわずかに崩れた。


その隙を逃さず、シャークは素早く立ち上がった。彼の顔には、怒りが満ち溢れている。


「よくも俺をここまで!」


シャークは、両のリボルバーを同時に構え、カイルに向かって連射した。


ダダダダダダ!


船内は、銃声と火花の嵐と化した。カイルは、物陰に飛び込み、身を隠した。実弾の雨が、彼の周囲を襲う。


カイルは、物陰からSIG P226を構え、シャークの動きを窺う。シャークは、カイルが隠れた物陰に向かって、無数の弾丸を撃ち込んでいた。


キンッ、キンッ!


弾丸が物陰を打ち砕き、破片が飛び散る。カイルは、その合間を縫って、シャークの足元を狙い、非殺傷弾を撃ち込んだ。


パン!


非殺傷弾がシャークの足元に命中した。シャークの巨体が、わずかに揺らぐ。しかし、彼はまだ倒れない。


「効かねえな、カウボーイ!」


シャークはそう言って、さらに銃撃を続ける。彼の体は、尋常ではないタフさを持っていた。


カイルは、物陰から飛び出し、シャークへと一気に接近する。シャークは、カイルの接近に驚き、リボルバーを彼に向けた。


ドォン!


シャークは、カイルに向かって銃を撃った。カイルは、その弾丸を紙一重でかわすと、シャークの懐に飛び込んだ。


カイルの右腕が、シャークの首を掴んだ。合気道の「首締め」の技。シャークの巨体が、一瞬、宙に浮き上がる。


「終わりだ、シャーク。もう暴れるな」


カイルの声が、シャークの耳元に届く。シャークは、必死にもがき抵抗するが、カイルの腕はびくともしない。


シャークの顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。彼の巨体から、力が失われていく。


そして、ついに。


ガタン!


シャークの巨体が、力なく床に倒れ込んだ。彼の両手から、リボルバーが滑り落ちる。シャークは、完全に意識を失っていた。


カイルは、深く息を吐き出す。彼の額には、汗がにじんでいた。


「まったく、手ごわいやつだぜ」


カイルはそう呟くと、シャークの首にかけられた賞金首の認証チップを回収した。


カイルは、レガシー号へと帰還した。格納庫で、ジェットが彼の帰りを待っていた。


「お疲れさん、カイル。まさか、シャークを一人で仕留めるとはな」


ジェットはそう言って、カイルの肩を叩いた。


「手ごわかったが、なんとかね」


カイルはそう言って、ジェットに賞金首の認証チップを渡した。ジェットは、認証チップを小型端末に差し込み、データを読み込む。


「よし、確認完了だ。これでしばらくは食い物に困ることはなさそうだな」


ジェットはそう言って、満足げに微笑んだ。


カイルは、スティングレイの整備を始めた。機体のあちこちには、シャーク一味との戦闘で受けた傷が刻まれている。


「しかし、あのシャークって奴、とんでもないタフネスだったな」


カイルはそう呟いた。ジェットは、それに答える。


「ああ、噂には聞いてたぜ。奴は特殊な強化手術を受けてたらしい。並の非殺傷弾じゃ効かないってな」


「なるほどな。だからあのリボルバーも実弾だったわけか」


カイルはそう言って、スティングレイの機関砲の薬室を確認した。使用済みの薬莢が、いくつも残っていた。


「しかし、カイル。いくら非殺傷弾をメインにしているとはいえ、相手が実弾で撃ってくれば、こっちも命がけだぜ」


ジェットはそう言って、自分の愛銃であるHK P7を点検し始めた。HK P7は、スライド上部のスチールと、それを覆うポリマー製のフレームが特徴的な自動拳銃だ。ジェットは、マガジンを抜き出し、非殺傷弾がきちんと装填されているかを確認する。その指の動きは、長年の経験に裏打ちされたものだった。


「わかってるさ。だからこそ、俺たちは時代遅れのカウボーイなんだ」


カイルはそう言って、スティングレイの機体に残った弾痕を指でなぞった。


「命がけだからこそ、価値がある。そうだろう?」


ジェットは、カイルの言葉に何も言わなかった。ただ、静かにHK P7をホルスターに戻すだけだった。


「さて、次の獲物はどうする?」


カイルはそう言って、ジェットに目を向けた。


ジェットは、端末のディスプレイに表示された賞金首のリストを眺める。


「そうだな……面白そうな奴がいるぜ」


ジェットはそう言って、ディスプレイに一人の男の顔写真を表示させた。その男の顔には、不気味な笑みが浮かんでいる。


「こいつは、海上を荒らす詐欺師だ。腕は立つが、臆病なタチらしい」


ジェットはそう言って、カイルに情報を提示する。


カイルは、男の顔写真を見つめた。


「詐欺師か。それはまた、厄介な相手だな」


カイルはそう呟くと、再びスティングレイの整備に戻った。


広大な海は、彼らにとって、終わりのない狩場だ。今日もまた、レガシー号は新たな獲物を求めて、大海原へと繰り出す準備をしていた。

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