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王様の病気

作者: 小雨川蛙

「王様。食事にはお気をつけてください。あなたは偉大なる王様なのですから」

 王様は長生きが出来るよう健康的な食事を食べることが出来た。


「王様。睡眠はしっかりととって健康にはお気をつけください。あなたは偉大なる王様なのですから」

 王様は長生きが出来るよう十分な睡眠をとることが出来た。


「王様。心穏やかにお過ごしください。あなたは偉大なる王様なのですから」

 王様は長生きが出来るよう十分なリフレッシュが出来る余暇を与えられた。


 全ては王様のためだった。

 何故なら、王様は誰からも愛される偉大な王様だったから。

 強くて、賢くて、美しくて、優しくて、誰からも憧れる存在。

 そんな王様に誰よりも長生きをしてほしかったのだ。

 そして、王様もまたそんな人々の思いに答えるため、人一倍健康には気をつけた。

 一日でも長く生きて、人々を幸せにするために。


 長い時間が過ぎて。

 突如、王様が狂い果て国中の人々を殺し出した。

 優しかった王様が急にそのように変貌した理由は誰も知らない。

 悪魔に魅入られただとか、実は王様は既に殺されていて別人が王様に成り代わっていたとか、色々と囁かれていたけれど、結局誰も真実は分からなかった。



 後の世でも王様の変貌については明確な答えは出ていない。

 けれど、有力と呼ばれる説はある。

 それは現代では誰もが成り得る病気で、それでいてまだ治す薬が出来ていない。


 そして、私の母もその病気になっている。


「ねえ、私ってもうご飯食べたっけ?」


 母はそんなことを言いながら、昼も、夜も、ご飯を求めて引き出しやタンスを開ける。


「ねえ、もうそろそろ家に帰りたいんだけど」


 母はそんなことを言いながら、昼も、夜も、外を出歩く。



 かつて、王様がなった認知症。

 皆が王様と同じくらい健康で長生きする時代。

 自分が自分じゃなくなる病が珍しくもない現代は。


 果たして幸せなのかな、と私は時々考える。


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― 新着の感想 ―
本当の幸せとは、長生きとは。 決して他人事にはできない、考えさせられるお話でした。
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