『愚者』と『魔術師』と占いババア
「きゃあぁぁ?!」
「やっと資格を持つ者が来たと思ったら、これじゃ育つまでにわたしゃが死んじまうよ。扉蹴破るくらいの勢いを見せな!」
「な、なななんですかこれ……?!」
「これじゃわたしゃが子供を拐う魔女だ」
連れ去られた先、そこは妖しげな煙が漂う空間だった。周りには扉どころか壁すらなく、無限に広がってるように見える。
そんな中でボロボロの木の机を挟み込むように彼女たちはそこに居る。老婆は民族衣装の如何にも魔女らしい格好をしていて、老い先短いとは言えないほど活気に溢れていた。
急にそんな場所に飛ばされたミノは、訳も分からず混乱している。
「良いか、耳んなかかっぽじってよーく聞きな! お嬢ちゃんはわたしゃの力を受け継ぐ資格がある!! だけど全部あげたら身体が風船みたいに膨らんじまって死んじまうよ! だから今は『愚者』と『魔術師』だけ投げちまうよ!」
「愚者と魔術師ってあの」
「お嬢ちゃんが喋ってる暇はない! ほれ、さっさと受け取って招かれざる客の相手でもしてな! 使い方は猿でも分かるようにわたしゃがその頭に刻むから我慢しな!」
「ま、まっ」
「あとその木箱は無くすんじゃないよ! それとまたわたしゃに会いたきゃ目を皿にして探すことだね! そんときゃ茶菓子持ってくりゃ雑談くらいはしてあげるさ!」
それだけ言うと老婆は煙のように消えてしまった。すると二つのクエスト画面が現れる。
エクストラクエスト・大アルカナが示す旅路
達成条件:???
失敗条件:???
報酬:???
説明:アルカナが示す旅路よ。先ずはこの場を切り抜けろ。
エクストラクエスト・招かれざる客を倒せ
達成条件:敵の全滅か一定時間の生存
失敗条件:プレイヤーの死亡
報酬:【職業】旅人の取得
説明:貴女にアルカナの力が完全に刻まれるまでは時間がかかる。それまでに敵を倒すか生き残れ。
「敵って……魔物?!」
余談だが本来なら冒険者ギルドか街の外に出た時点で戦闘に関するチュートリアルクエストが開始される。
だが、それを先にやってしまうとこのクエストは発生しなくなるのだ。彼女は周りを見渡すと、緑の肌に布切れを着て、棍棒を持った敵が複数現れる。
「え、えっと、『鑑定』!」
まだ混乱しているが、ゲーム開始前のことを思い出し鑑定を発動させた。
【種族】ゴブリン LV3
【装備】武器〈木の棍棒〉
何か分かるかもと思ったが、分かったのはこれだけだ。
「名前以外に何も分かんないしこんなの無…り……?」
諦めようとしたその時、頭に何か呪文と複雑な魔法陣が浮かぶ。そしてこれを唱えろと言わんばかりに一つの言葉があった。
「……『アルカナドロー』」
「グギ……?」
今にも彼女を襲わんとしていたゴブリンたちが立ち止まる。彼女の周りにはニ枚のカードと三つの青色の魔法陣が浮かんでいたのだ。
「『アルカナセット・愚者』」
彼女はそれを気にせず、導かれるようにまた唱えた。すると少しな荷物を持った人間と、それについて行く犬が描かれているカードが浮かんでいる魔法陣の中央にセットされる。
「『アルカナセット・魔術師』」
そのカードには棒を振りかざす魔法使いの姿と、机の上に四つの道具が描かれていた。そのカードもまた魔法陣の一つにセットされる。
「これで合ってるみたいだけど……時間経過によるステータスアップ?と、武器の精製?」
気づけば彼女の手には、初期装備ではない小さめの渦が付いた木の杖と、銅の杯のようなものが握られていた。
「グギャ…グギギ!」
「グギャ!」
「く、くる!」
ゴブリンたちも痺れを切らし襲いかかってくる。しかもこの武器の使い方も彼女は何故か分かるのだ。
「『マジッククリエイト・石』!」
杖を翳し魔法を発動させるとバレーボール大の石が数個、無から作り出され先行するゴブリンたちへと襲いかかる。
「グギャッ?!」
「グギッ……」
誘導性能もあり、石はゴブリンを二匹撃ち抜いて倒した。地面に落ちた石はそのまま何もなかったように消えていく。
だが撃ち漏らしたゴブリンもあり、接近されるが……。
「『魔泥の銅杯』!」
「グ……ギ……」
銅杯から黒いモヤがかかった泥がゴブリンたちへと向かって撒き散らされる。その一部にかかったゴブリンは動きがかなり鈍くなった。
泥はそれなりの範囲かつ、射程も十メートルほどあり、彼女はその隙に距離を離すことに成功した。
「よ、よく分かんないけど、この魔法なら勝てるかもっ」
まだゴブリンの群れは生きているが、希望が見えたからか元気を取り戻している。残りのゴブリンを倒すために彼女は戦闘を続けるのだった。
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