チュートリアルをしよう
「す、すごい……」
彼女は噴水の前で立っていた。周りは中世の街並みで、現実と遜色ない世界が広がっている。それももう一つ大事なことがあった。
「立ててる! 凄い!」
地に足を付け、確かにそこに立っているのだ。片足立ちや歩くことも出来る。彼女からしたら奇跡に等しいだろう。
しばらく噴水や周りをぐるぐる歩いたら、小さくジャンプして感覚を楽しんだりした。なおこの時、初心者の女の子が可愛いと少し話題になったとかならなかったとか。
「あっ、チュートリアル忘れてた……えっと、これだよね」
メニュー画面を辿々しく開き、クエストの詳細を確認した。
チュートリアルクエスト:街を歩こう
達成条件:道具屋、武具屋、冒険者ギルドを見つける
失敗条件:無し
報酬:1000ルーブ
説明:この街は初めて? なら探索してみよう。お金も得れるから損はない。もしかしたら思わぬ出会いがあるかも。
「ふむふむ、とりあえずこれをやれば良いんだね」
頷いて画面を閉じると、彼女は歩き始める。十年以上歩けない状態だったにも関わらず、戸惑うことなく歩けていた。
幾ら最新技術による補正があるとはいえ、VR空間への適正が彼女にはあるようだ。そんなことは知らず、最初に武具屋を見つける。
「武器とか防具を買う時はここに来れば良いんだよね、また後で来てみようかな」
武具屋を一旦後にして、また少し歩くと冒険者ギルドへと辿り着く。他の始めたてらしきプレイヤーもここを出入りしていた。
「クエストの受注とか、魔物?を倒した時に出るアイテムを買い取ってくれるって言ってたよね」
そう呟いて、彼女はまたその場を後にする。そして最後に道具屋へと着いた時にクエスト達成の表示が出た。
「ルーブってこの世界のお金のことだよね、少し何が売ってるか見てみようかな」
道具屋と看板が出たレンガの建物へと入った。中はガラス瓶に入ったポーションや、草のように見える植物にロープや雑多な物が置いてある。
買う時は店の奥に居る店員に商品を持っていく形なる。万引きした時は衛兵がすっ飛んでくるので悪さは出来ない。
そんな中で一つ一つ興味深そうに見ていると、ある物が彼女の目に入った。
「タロットカード、ここにもあるんだ。値段は……うぅ……」
タロットカードと書かれた、六芒星が刻まれた小さい黒色の木箱が売り物としてあったのだ。しかし値段を見ると800ルーブもしてしまう。
「でも気になるし……よし、買っちゃおう!」
所持金の八割が消し飛ぶが、タロットカードには我慢出来ず買ってしまった。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございます……中身はどんな感じかな?」
店員のNPCにお礼を言い、店から出て箱を開けると……。
「中身がない……?」
中身が入っていなかったのだ。首を傾げつつも現実を受け入れられず、木箱の中身をもう一度見たり裏側を見ると、小さく文字が刻まれてるのを見つける。
「ノヴァル占い館? そこに行けば中身について聞けるのかな……」
そう書かれてあったのだ。彼女は首を傾げつつも、ノヴァル占い館を探しに向かうのだった。
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