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第8話 役へのこだわり

「この役、納得できませんね」


挿絵(By みてみん)


 リバス撮影の打ち合わせで、撮影所の一室で台本の打ち合わせをしていた。会議に使われる長机とパイプ椅子しかない殺風景な部屋だ。よく監督や俳優たちが打ち合わせをするのに使われている。

 その一人、五味秀一ごみ しゅういちが台本を読みながら異議を唱える。

 彼はやや悪そうな顔だが、でも整った顔の二枚目である。また、バランスの取れた長身にてスタイルもいいほうで、やや垂れ目の、綺麗な二重で瞳の色はブラウンだ。純の日本人だが、ハーフに見えるほど彫りが深い。黒い髪の毛はそれほど長くなくて、額を出していた。


 彼の役割は笠置静夫かさぎ しずおといい、警視庁の警視だ。五味自身大物俳優の五味新太郎の息子で、エリートをやらせればぴか一と呼ばれている。しかし本人は親の七光りを嫌っており、あえて悪役を演じることが多かった。


「どうしてかな、五味ちゃん?」


 紫色のコマチヘアーを被った三十代の女装男が訊ねた。監督の河井実雄かわい みつおである。

 他には榎本健美えのもと たけみ巡査部長役の倉木理亜奈くらき りあなと、警視総監、水谷主水みずたに もんど役の野田栄一郎のだ えいいちろうがパイプ椅子に座っていた。


挿絵(By みてみん)


「恐らく五味くんは役柄が気に食わないんだろうな。このままだと笠置静夫は口が悪いだけのツンデレキャラだ」


 野田が答えた。彼は伊達賢治と協同代表でクリスタルエデンを立ち上げた。俳優だが監督業もこなしている大ベテランである。


「その通りです。それに笠置が警視総監をかばうのも気に食わない。もっとやりようがあると思いますがね」


 五味は嫌味たっぷりに言った。だが河井は動じない。実際のところ五味の役には疑問を抱いていた。

 第20話では五味は天使ナリキルの襲撃を受けるのだ。狙いは元リバスである水谷の暗殺である。リバスは後遺症で人の心が読めるようになるが、ナリキルは憑依した人間の心になりきり、体は別に動かせるという設定だ。ただの警官がいきなり総監の部屋に押し入り、水谷を射殺しようとする。それを笠置がかばう展開なのだ。それを五味が否定した。


「野田さんの言う通りです。私もこの展開には疑問を抱いてましたね。何かいいアイディアはありませんか?」


 河井が皆に訊ねた。倉木が手を上げる。


「視聴者としては意外性が必要だと思います。思い切って笠置をナリキルにした方がいいかもしれませんね」


「それいいね倉木ちゃん!! 決めた!! 笠置はナリキルにとって代わられたことにしよう!!」


 河井はポンと手を打ち、破顔一笑した。そして台本を書き直す。


「なら撃たれるのは私がいいですね。心は読めるけど、ナリキルの心が読めなかった展開がいいかもね」


「野田さんもいいね!! やっぱりみんなでわいわい決めたほうが面白いや!!」


 野田の言葉に河井はウキウキしながら台本を書き直していた。

 五味は書き直された台本を読み納得する。その様子を倉木が見ていた。


「五味さんは悪役を好んでますよね」


「ああ、主人公や英雄のような役柄は誰でもやりたがる。その気になれば誰でもできるのさ。でも、薄汚れた悪役は雰囲気から悪さを出さなければならないから非常に難しいと考えているんだ。だからこそ若いうちに、そういった悪役を進んで請け負いたいと考えているですよ」


 五味の言葉に倉木は感心した。野田もぱちぱちと拍手する。


「さすがだね。若い頃の苦労は買ってでもしろを実践しているねぇ。若いうちに主役を張って目立ちまくると晩年に脇役をやる苦痛に耐えかねて自殺する人が多いんだよ」


 野田は腕を組みながら、目をつむり唸る。芸能生活が長い彼は様々な俳優が生まれては、死んでいく姿を何度も見てきた。畳の上で大往生する者は珍しく、大抵は家族に見捨てられて老人ホームで孤独死したり、薬物依存の挙句自殺をする者もいた。

 華やかな芸能界は一種の麻薬だ。脳から足のつま先まで汚染されると、仕事が干されたときに地獄の苦しみに変わる。贅沢が忘れられず安物を一切受け付けなくなるのだ。

 野田は謙虚に生きており、家庭も良好だ。伊達賢治は独身貴族だが女性関係は意外に堅い。倉木とは愛人関係にあるとマスコミは囃し立てるが、実際は倉木が母親で伊達が手間のかかる子供といった関係だ。


 二世俳優だからといって成功するわけではない。二世にあぐらをかき、そのまま埋没するケースがほとんどだ。

 五味秀一はその中でも別格だと野田は考えている。


「その間は主人公の大安喜頓おおやす きーとんに嫌味を言い続ける展開ですが、問題ないです。あっと驚く展開になりますね」


「ありがとう五味ちゃん!! 君のおかげでリバスは盛り上がるよ!!」


 河井は五味の両手を握り、ぶんぶんと振った。五味の顔は迷惑そうであった。

 その様子を倉木と野田はほほえましく見ていた。

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