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第4話 綺羅めくるの妹 綺羅めくれない

「なんなのかしらね。これ」

挿絵(By みてみん)

 綺羅きらめくるはとある喫茶店で待ち合わせをしていた。店の名前はシュバリエといい、老夫妻が経営している。モーニングがおいしいと評判の店だ。

挿絵(By みてみん)

 現在、女優の蒼月あおつきしずくが厨房に立ち、演技指導を受けていた。彼女はこの店のマスター、坊屋利英ぼうや りえ役を演じるのだ。店はひと月近く休ませてもらう。その間の保証はネット専門チャンネルドレイクが保証することになっていた。それ以前に老夫婦も高齢であり、売り上げも伸び悩んでいるので、最後に花を添えたいとのことだ。


 めくるは窓際の席に座っていた。彼女の役は川田美晴かわだ みはるといい、この店のウェイトレスだ。さらに悪魔アスモデウスという役柄でもある。

 DROPOUT 林萌香の生きる道でもウェイトレスを演じていたが、こちらでも同じ役になるとは思わなかった。あの作品では自分は人間に化けた狸ということになっている。二作品続けて人外を演じるのだ。

 幸いDROPOUTは人気があるし、この異色のヒーロー物もそれなりに受けると思われた。だがめくるには納得できない部分があった。

 

 悪魔アスモデウスは銀髪の褐色肌で、黒い煽情的なレオタードを着ている設定なのだ。銀髪はかつらでごまかせばいいが、褐色肌は難しいだろう。いちいち日焼けサロンに通うわけにもいかないし、ドーランを塗るのもきつい。今回はその件で河井実雄かわい みつお監督と話をすることになっている。

 

「あら、めくるさん。ご機嫌斜めですね」

挿絵(By みてみん)

 声をかけてきたのは褐色肌の女性だ。黒い髪に黒いスーツを着ており、目がクリッと大きく、唇も少し厚くセクシーに見える。倉木理亜奈くらき りあなといい、黒人の血が入っている。日本では珍しい黒人女優だ。クリスタルエデンの伊達賢治だて けんじとは愛人関係と噂されているが、それは間違いだろう。

 普段の伊達と理亜奈は小学生の男女のような付き合いだ。子供っぽい伊達に、大人の理亜奈がたしなめる関係である。


「ああ、理亜奈さん。これ見てくださいよ。この絵。私がこんな格好をするんですよ」


 そう言ってめくるはアスモデウスの絵を見せた。それを手に取った理亜奈は絶句する。


「これはきついですね。毎回日焼けサロンに通うのも難しいですね」


「まあ、それは撮りためるだろうけどさ。事務所的にはゴーサインを出しちゃってるんですよ」


「ネット専門チャンネルだからある程度は敷居は低いのでしょうね。外国では子供と犬猫を殺さなければ何をしてもオッケーって感じですから」


 ため息をつくめくるに対して、理亜奈は慰めた。彼女の役柄は刑事、正確には巡査部長だ。

 このシュヴァリエにも足を運ぶ設定故に、こちらに来ている。


 そうこうしているうちに河合監督がやってきた。ピンクのコマチヘアーを被った女装マニアであった。

 後ろには銀髪の黒ギャルが歩いている。彼女を連れてきたのだろう。

 実雄はめくるの目の前に座った。黒ギャルも左側に座る。


「たせおま~。めくるちゃん、おまちた~? あっ、しずくちゃんも演技指導がんばってね~」


「はい、ありがとうございます」


 実雄は挨拶すると、厨房にいるしずくにも手を振った。彼女も手を振ってこたえる。


「でこちらがヒロインの一人である綺羅めくるちゃんよ。そして今日アタシが連れてきたのは、めくるちゃんの妹、綺羅めくれないちゃんよ」


「どうも~、綺羅めくれないだよ~、えへッ♪」


 黒ギャルはピースサインを頭に当て猫耳風にしてから挨拶する。声はめくるそっくりであった。

 めくるは怒るより驚きが勝った。よく見るとめくるとかおがそっくりなのである。髪形もめくると同じであった。


「正確には元ものまね芸人であり、AV女優の加藤豊海かとう とよみです。よろしくお願いします」


 素に戻った彼女は礼儀正しく頭を下げた。

 加藤豊海は25歳で、高校卒業後はものまね芸人として活動していた。しかしまったく売れず、親や頼れる親戚がおらず、金に困っていた。それ故にAV業界に入ったのだが、これが大当たり。

 コスプレ物の作品ではアニメやゲームのキャラを完璧に演じられたのだ。さらにこのキャラならこう演じるだろうと積極的に監督と話し合ったという。

 現在は黒ギャルのコスプレ物のために日焼けしたのだが、実雄に誘われたのだ。彼女の事務所も承諾したそうである。


「彼女には悪魔アスモデウスを演じてもらうことにしました。めくるちゃんが日焼する必要はないからね」


 実雄はカラカラ笑っている。さすがにめくるが日焼するのは非現実的と思っていたようだ。

 めくるはほっとした。さすがにもろ肌を晒すのは躊躇していたからだ。


「でも演技は大丈夫ですか? いくらものまねがうまいからといって演技ができるかわからないし……」


 さすがのめくるも演技に関しては不安を抱いている。ものまねを否定する気はないが、自分はものまねできるほどの人間なのか不安になってくるのだ。そもそもものまねは真似しやすい芸人が選ばれる。昭和時代の芸人なら特徴があり、わかりやすかった。今はほとんどが無個性で個性派の俳優が少なくなっている。

 現在ではものまね芸人はワイチューブくらいしか活躍していない。テレビでは受けが悪くなったからだ。さらにアニメのキャラを真似する芸人が増えてきている。子供でもわかりやすいからだ。


 めくるは自分が真似されるほど知名度が高いとは思えない。それ故に豊海に対して不信感があった。


「綺羅めくるさん。私をなめないでほしいですね。ものまね芸人は相手の癖を知り抜いてこそ、初めてなしえるのですよ。私はめくるさんの出演したテレビ番組や、ドラマをすべて研究しました。私はあなたを演じ切ることを約束します」


 豊海の目は真剣であった。その目で見つめられるとめくるも気おくれする。迫力のある眼であった。


「そうなの。ならあなたに任せてもいいかもね」


「というか演じるのはアスモデウスだから、めくるちゃんを演じる必要はないと思いますが」


 厨房にいたしずくが答えた。なるほどそうかもしれないと、めくるは思った。


「今回は近藤勇美こんどう いさみちゃんはスケジュールの都合でこれませんでした。彼女は天使ミカエルを演じるけど、あちらは完全に顔を隠しているからスタントでも大丈夫なんだけどね。今日は新たな姉妹、綺羅めくると綺羅めくれないの初めての会合だね!!」


 実雄が笑いながら言った。


「でも綺羅めくれないはないと思う」「私も」


 めくると豊海はきっぱりと否定した。

 悪魔アスモデウスは綺羅めくる本人ではなく、代役の加藤豊海が演じていることにしました。

 名前の由来はAV男優の加藤鷹氏と、AV女優の豊丸さんをもじったものです。

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― 新着の感想 ―
モノマネ芸人か。 しかもセクシー女優。 さて果たして成果は出るのか? しかし個性的なキャラが多いですね!
∀・)めくれないってメッチャ笑ったわ(笑)(笑)(笑) ∀・)ドロップアウトが人気作って表記で嬉しかったりも。 ∀・)いや、しかし江保場さんはメディアの裏側をよく分かっておられる感じがしますね。め…
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