最終回 宴の後
「いやー、面白い現場でしたねぇ」
陰賀桜芳役の尾花風郎はビールを飲みながら笑っていた。スーツを着ており、ほがらかな笑顔を浮かべている。
ここは都内にある演歌歌手横川尚美が所有する建物だ。尚美学園と言い、小学校並みの広さを誇っている。げんざい多目的ホールで打ち上げ会をしていた。立ち飲みパーティ形式で、尚美の教え子たちが給仕をしている。テーブルの上にはビール瓶や缶ハイボール、日本酒や焼酎、白ワインに赤ワインなどが並べられていた。さらに教え子たちの作るおつまみの皿が所せましと置かれている。
リバスに参加した関係者は背広やドレスなど着飾っていた。
尾花の言葉を同じ事務所の禿げ頭の中年親父である恵比寿優が笑って答えた。見た目は気さくなおじさんに見える。
「まったくだな。特に尾花くんはおいしかったね。だって自分の死に様を特撮人形で見たんだろ?」
「ええ、悪役として死ぬのはよくありましたが、自分そっくりの人形がねじれて死ぬ様は何とも言えませんでしたね」
「ですが迫真の演技でしたよ。びっくりです」
横から口を挟んだのは地味な少年で、天使ネジレルを演じた九尾津利男だ。役柄で尾花を殺している。
「悪役は演技力がなければ成り立たないんだよ。僕なんかまだまだだね」
自称気味に答えた中年男性は天使ツブセル役の火炉潮だ。二人とも舞台に上がることが多い。石像のように地味な二人だが舞台では生き生きしていた。
「悪役には悪役の役割がありますからね。九尾津くんや火炉さんのような役も大事ですよ。テレビで見ましたがとても不気味で怖かったですね」
「そうですか? 舞台はお客さんだけしか見ていないから、よくわからないですね。反応が悪ければ白けるだけですし」
尾花がいうと九尾津は自称気味であった。まだ若いゆえに自分の役割が不安定なのだろう。
「経験を積むのが大事だよ。誰も経験なしでうまくいくなんてありえないからね」
「自分の武器を見つけることだね。私らは主役にはなれないけど再現ドラマや映画の端役にはたくさん出られるからね」
火炉と恵比寿は笑いあった。尾花と九尾津も笑いながらビールとジュースを飲んでいた。
☆
「近藤勇美さんと出演できるなんて夢のようでした。一緒の宝ですね」
地味な顔立ちの中年が答えた。漫画に出てくるひ弱な秀才タイプで眼鏡をかけている。近藤勇美が演じた山茶花玖子の夫役である山茶花八兵衛役の浦賀内蔵である。彼は天使モヤセルも演じていた。
「わしも面白い役に出られてよかったわい。役者人生の最後に花を飾れたのう」
八兵衛を殺したヤクザ、八木茂千明が モヤセルによって萎んだ姿として出演した紙本光三である。吹けば飛びそうなやせこけた老人であった。こちらはパリッと舌背広を着ており、背筋もピンと伸ばしていた。
「しかし八木茂役の石原さんは秋本美咲さんの個人事務所の副社長でしたよね。あの人が演じた八木茂はすごかったですね」
「役者生活50年じゃが、ああいう俳優は昔からいたのう。己のうちに別人を宿しておるのじゃ。数分だけの出演じゃが、よい思い出になったわい」
紙本は紙コップに注がれたビールを飲み干した。彼は脇役専門の俳優だった。河井実雄監督の常連俳優だったが、体を壊してしまい、俳優生活を廃業することにしたのだ。老後は小説を書くことにしている。実は現役時代に何本も作品を出しており、それなりに売れていた。本職よりそちらの方が実入りが多いらしい。
「俳優としてはうらやましいですが、この業界は演技力だけでは売れませんからね。河井監督は今後も私に出演オファーをくれましたが、それだけに頼らないようにします」
そう言って浦賀も紙コップに注がれたビールを飲んだ。
「あ、よろしいでしょうか?」
小太りの人のよさそうな30代の男が声をかけてきた。古川太郎役の萩島順一だ。
後ろには50代のプロレスラーのような体格の男が立っていた。どこか無骨そうである。古川五郎役の山岸匡だ。
「おお、萩島さん。まさかあなたも出演していたとは驚きです」
浦賀が感心した。萩島は舞台を中心に活躍しており、名が売れていた。
「しかしあの山岸秀代の息子とは驚きですね。山岸さんも弟さんとは驚きですよ」
「当時は母の名が売れてましたからね。実力がないうちに七光りに頼るとろくなことになりませんから」
「そうじゃのう、わしも二世俳優とか多く見てきたが、思ったよりパッとせず消えていったものが多かったわい」
浦賀と萩島の会話を、紙本がつぶやいた。脇役がほとんどであったが、大物俳優と接することが多かった。それ故に芸能界の腐った部分を多く見てきた。
「プロレスも似たようなものですよ。二世だからと言って親の代用品扱いする体質もどうかと思いますね」
山岸がうんうんと頷いた。彼は悪役レスラー、ゼンゼンマンとして活躍してきた。昔と比べてプロレスは目立たなくなっている。それでも水面下では動いていた。
「お二人もそうじゃが、山岸秀代さんと一緒に首が飛ぶシーンは、残酷というより笑えたな」
「私も同じですね。姉さんも台本を読んでノリノリでしたよ。ドラマでもこういう役はまったくやったことがないから、喜んでましたね」
「今は俳優のイメージにうるさいからのう。というか今も昔もあのようなシーンはありえんと思うがね」
紙本が言っているのは、山岸秀代と萩島順一、山岸匡の三人が互いに首を切り落とされるシーンのことだ。作り物の首がポンと飛び、血しぶきが上がるシーンは、残酷というよりギャグにしか見えなかった。
「長い俳優人生で、このような役を演じたのは初めてじゃ。新鮮な気持ちを抱けて嬉しかったのう」
「私も同じ気持ちですね。最近のドラマは冒険を一切しませんから」
「芸能界は冒険こそ大事なのですが、不景気故に守りに入ってしまってますからね」
「プロレスも同じだな。今回のようなドラマはとても面白かった。伊達賢治さんに感謝だな」
4人はうんうんと頷き合った。遠くで騒ぎ声が聞こえている。笑い声が上がっていた。
「あちらで漫才をしているそうじゃな。アビゲイルとかいったか」
「あの二人は2話で刑事役に出演して、次にヤクザの用心棒を演じたからね。なかなかのものだよ」
「蒼井企画の芸人たちが勢ぞろいしてますよ。見に行きますか」
「お笑いもプロレスも魅せることには変わりないからな。いい勉強になる」
こうして4人は漫才を見に行った。
☆
「なんで私たちここに来ているのかな?」
中学生くらいの少女がぼやいた。山田エヴァ万桜の中学生を演じた忠賀久世である。彼女は一話限りのゲストとして出演していた。万桜とは彼女が羽磨真千代の母親、佐千三役で接している。今回はブレザー制服を着ていた。クラス委員長をやってそうな真面目な少女に見える。
「いいじゃないの。私なんてセリフなしで出演したけど、呼ばれたわよ。それに子役くんや円ちゃんも呼ばれたみたいだしね」
答えたのは黒人少女だ。縮れ毛を後ろにまとめている。緒方真黒といい、父親がジャマイカ人である。母親の勧めで子役俳優として活躍していた。今回は倉木理亜奈が演じた榎本健美の中学生時代を演じたのだ。もっともセリフはなく、同級生にいじめられ、やりかえすだけの役割だったが。
彼女が視線を向けた先は、子役の子役武人と羽磨照代の幼稚園児役を演じた羊地円である。喜頓の幼少時を演じた武人はともかく、羊地はろくにセリフはなかったが、打ち上げ会に招待されたのである。彼らは子役故にお菓子とジュースがふるまわれていた。
喜頓の幼少時を演じた子役は残念ながら病気のため、欠席である。あとでサインのまとめ書きをプレゼントする予定らしい。
「ここには主役を演じた如月湊さんや、綺羅めくるさん。倉木さんに五味さん、伊達さんや野田さんと芸能界の重鎮たちが集まっているわ。顔を売らなきゃ損よ」
「真黒さんは打算的だよね。なんか自分の実力とは無関係だと思わない?」
「久世ちゃんは真面目過ぎるね。コネは悪じゃないよ。横のつながりを大事にしない人に、神様はチャンスなんかくれないから。まあ、ここでの神様は伊達賢治さんだけどね」
真黒はジュースを飲みながら笑っていた。彼女は河井監督や他の俳優人たちに売り込みをかけている。黒人の子役という物珍しさを売っているのだ。そのバイタリティーの高さに久世は感心していた。
「おやおや打ち上げに来て、売り込みかね。最近の子供は大人びているな」
「まったくですな」
久世に声をかけたのは60代の大仏みたいな男だ。俳優の小平透である。彼は背広を着ていた。彼は羽磨輝海役で出演していた。
隣にいるのはすらりとした長身の70代の男だ。脇役専門の大岡千恵蔵である。こちらも背広を着ていた。彼は雄呂血妻三郎役で出演していた。
久世は二人に声をかけられて驚愕した。小平は大河ドラマによく出ているし、大岡も脇役として多くの時代劇やドラマに出演している。二人ともベクトルは違うが、尊敬すべき俳優だ。
「きょっ、恐縮です!! わたくし忠賀久世です!! 名前がちゅうがくせいと読めるので、いつもからかわれています!!」
「緒方真黒です!! 大ベテランのお二人に出会えて光栄です!!」
久世はがちがちに固まっており、真黒は挨拶を終えてこちらにやってきたのだ。
「はっはっは、かしこまらなくていいよ。わたしらは老害だからね。君たちみたいな若者が芸能界をひっぱってもらわないとね」
「えー、今の芸能界に価値がありますか? まあ反骨精神をむき出しにするつもりはないですけど」
小平が言うと、急に真黒は冷えたような顔になった。
「芸能界のすべては腐っていないさ。だがSNSのおかげで膿がひりだされているのも事実だよ。私はやってないけどね」
大岡が呵々大笑いした。
☆
「へへぇ、なかなかいいところね。素敵なところじゃない」
女優の岡三恵は感心しながら周りを見ていた。彼女は脇役がほとんどで母親役が多いが、彼女自身はすでに中学生の娘を持っていた。見た目よりも若く見えるため幼稚園児の母親役が多いが、Vシネマだとはすっぱな役が多い。今回は赤い胸元が開いたドレスを着ていた。それでいて場違いにならず上品に決まっている。
「ふん、脇役しか能がない女には目の毒だろうな」
嫌味を言ったのは根住宙助役の吉良吾輝だ。キツネ顔で成り金ぽい眼鏡をかけている。嫌味な役を演じさせたらぴか一だが、実際には嫌味な性格故に、俳優陣やスタッフから嫌われている。
「あなたはなんで強気なんですか? 横川先生もおっしゃっているでしょう、ADに嫌われたら将来仕事が来なくなるから親切にしているって」
苦言を呈したのは亀良満役の江鱚寅夫だ。作中では好青年を演じたが、現実でも好青年である。
「ふん! なんで俺が人に親切にしなくちゃいけないんだ。俺はいずれビッグになるんだ、その他の木端俳優やADなんかどうでもいいんだよ!!」
吉良は缶ビールをあおっていた。何本も開けたようでかなり酔っているようである。それを見た岡は呆れているようだ。
「寅夫くん、こいつの相手なんかする必要はないよ。どうせほっといても売れなくなって終わりだって。私なんか目立たないけどそれなりに仕事が途切れないからね」
岡は缶ハイボールを口にし、チーズとクラッカーを食べた。俳優活動が長いためか、人生の酸いも甘いも加味していているのだろう。
「……吉良さん、スケジュールがかなり開いているようなんです。俺は次の仕事があるんですけどね。俺より先輩で実力があるのに、どうしてと思ってしまいます……」
「そんなの横川先生の言葉通りでしょう? 後輩やADをいびるしか憂さ晴らしができない奴なんか採用したがる人はいないわよ。今は馬鹿なプロデューサーやディレクターがいるからいいけど、そいつらが辞めて、いじめたADが出世していたらもうおしまいね。でもあなたが気にする必要はないわ。自業自得だもの」
そう言って岡はハイボールを飲み干した。別のテーブルでは吉良が女性陣に嫌味を並べていたが、家主である尚美の筋肉に圧倒され腰を抜かしていた。それを遠目で見て、岡はため息をつく。その目は憐れみにあふれていた。
☆
「ああ、お腹が痛い。どうして私はここにいるのでしょうか?」
ダブルシニヨンヘアの地味な顔の女性がつぶやいた。豆類テレビのレポーター、益子美代である。彼女はちょい役として出演したが、ちょい役どころかサブレギュラー化しており、レポーターの仕事を疎かにしかけた。もっとも社内ではリバスの配信は好評だったらしく、次回作のドラマに出演する話が来ているらしい。
「あはははは。美代は大活躍だったじゃない。田舎のご両親も喜んでいたでしょ?」
声をかけたのは金髪碧眼の美女、秋本美咲である。ちなみに英語は苦手だ。美代とは大学時代の先輩と後輩だが、美咲が4年生で美代は一年生と接する機会は短かったが、無理やり連れまわされたため、それ以上の付き合いを感じていた。
彼女が底辺とはいえ豆類テレビに就職できたのは、美咲のおかげである。
「せやでぇ、お嬢ちゃんの演技は最高やったわ!! おばちゃんもびっくりやで!!」
50くらいの中年女性が豪快に笑っていた。どこにでもいそうな大阪のおばちゃんだが、彼女は横川尚美の弟子のひとり、演歌の女豹、山岸秀代である。作中では古川六葉役で出演していた。手には焼酎の瓶が握られており、水のようにカパカパ空けていた。
「あんたもなかなかだったねぇ。演歌よりも女優があっているんじゃないかい?」
声をかけたのは赤毛パーマの女性だ。70過ぎだが筋肉隆々で年齢以上に若く見える。演歌の女帝、横川尚美であった。
弟子の秀代の背中をバンバン叩くが、彼女は全く動じていない。ふっくらした女性だが中身は鍛え抜かれた筋肉が潜んでいた。拳一つでチンピラの顔を陥没するなど朝飯前である。
美咲はそんな二人を見て笑っているが、美代は演歌の重鎮たちに囲まれて神経を病んでいた。
「そもそも豆類テレビの私がドレイクの番組に出たこと自体、業界じゃあ問題視されているんですよ。さらに他のマスコミを作中で皆殺しにしたことで、さらに風当たりがひどくなっているんです」
美代は真剣な眼差しで言った。ドレイクは海外のネット配信チャンネルだ。ドレイクジャパンという日本支部があるが、こちらは本社を重視しており、従来の大手芸能事務所を無視している。というかオーナーの意向が強く、日本法人も板挟みになって悩んでいるそうだ。
そんな中で裏返りのリバスはドレイクジャパンで週間トップ1を維持している。日本国内だけでなく外国では日本のサブカルチャーが好きなオタクに受けているようである。アメリカやフランスでも人気が高いとのことだ。
それをマスコミが扱うことはない。なかったこととして扱っていた。さらに伊達賢治が監督を務めたDROPOUTは駄作だと懸命にワイドショーで訴える始末であった。SNSでは番組を叩かれているが、マスコミは無視し続けている。
美代はマスコミでありながら、リバス、海外のドラマに出演したことに難癖をつけられたのだ。SNSでは彼女を非難する声も強いが、擁護する声も多い。タレントや評論家はリバスは一切ヒットしておらず、大失敗に終わっていると投稿する者が多かった。大手芸能事務所に逆らう者が許せないというか、命じられているためであろう。
結果SNSではテレビが非難され、さらにテレビ離れを加速させていた。マスコミの批難もますます強くなるが、彼らは何事もないようにふるまっている。実際は身体が少しずつ腐っていき、やがて手遅れになるのだが、彼らは感覚がマヒしているため、破滅する日まで気づくことはないだろう。
「そうそう、私がゲスト出演したのは、実雄というより、伊達さんが熱望したみたいだね。うちは国際色が強いでしょ? 日本のドラマだけど、国際色も出したいから、うちらセイレーンのタレントを全員出演させたみたいね」
美咲が言った。彼女自身白人の父親と日本人の母親のハーフだ。
レベッカ・チェンは香港出身。
ナンシー・キャリー・ブラウンはアメリカ出身。
すべてにおいてファックユーのメンバーは、中野マーガレット愛衣はジャマイカ人のハーフ。
河合美菜子は在日韓国人3世。
末吉聡美は帰化したロシア人。
佐和田フリーダ陽子はドイツ人のハーフだ。
別に美咲は外国人を募集したつもりはないが、自然に集まったのである。国内の場合は美咲のそっくりさんばかりでまったく個性がないから省いただけだ。
「海外ではポリコレがうるさいらしいからね。リバスもうるさく言われたらしいじゃないか。契約しておらず、SNSで動画を流されただけで文句を言う輩だけね」
尚美が言った。彼女はハイボールを飲み干す。彼女はSNSの動向をチェックしていた。
「窮屈な世の中やわ。昔なら不祥事は芸の肥やしや言われたけど、今じゃ己の寿命を縮めてまうからやっかいやわ」
「秀代の世代で芸の肥やしなんて言葉ないだろう」
「SNSで知りましたわ。いやー宣伝に便利でんな」
秀代と一緒に笑い合った。
☆
「とても楽しいですね」
金髪の黒ギャルがビールを飲んでいた。綺羅めくるの妹である綺羅めくれない、ではなく、悪魔アスモデウス役の加藤豊海である。普段はAV女優として活躍していた。
「そうですね。スタントマンの私や裏方の人々まで全員参加しているそうですよ」
答えたのはすらりとした髪の短い女性だ。蒼月しずくのスタントマンを務めた須丹十万である。見た目は宝塚の男役に見える。ラフなジーンズ姿だ。彼女は缶ハイボールを飲んでいた。
「ですがこのドラマだけでしょうね。普段の現場は主役の芸能人以外興味はないですから」
「脇役なんか無視されますからね。今度こちらの作品にオファーを受けたら出演したいくらいです」
「実際に私たち河井監督作に出演できますからね」
二人は笑いあった。裏方の出演が多い二人だが、この現場の空気が居心地よく、初めてあったにもかかわらず、十年以来の友人のようにふるまっていた。
「やあ、元気そうで何よりだ」
声をかけてきたのは44歳の美丈夫で、伊達賢治だ。彼は撮影スタッフや美術スタッフなどリバスに関係した人間をすべて集め、あいさつに回っていた。
後ろにはひとつ頭が低い男がいた。相棒の江川傑である。
「伊達さん、今回は招待していただきありがとうございます。この手の打ち上げには来たことなかったんで」
須丹が頭を下げた。隣の豊海はけたけた笑っている。
「私もこういうのは初めてかな? そもそもAVの撮影で打ち上げなんかないしね」
「あんまり自分を卑下しないことだ。今回の撮影にはあなた方が必要だった、そして労うのは当然のことさ」
伊達は手に持ったウィスキーを飲んだ。なんでもないように答えている。
「まあリバスの撮影もなかなか苦労したね。大手芸能事務所の俳優は出演できなかったしな。DROPOUTもそうだったがわざわざ広島までロケに行く理由がわからないとぼやかれていたしな」
江川がぼやいていた。DROPOUTは広島市が舞台で、都内の俳優たちは長期ロケを決行していた。もちろん予算の確保に難儀していた。
スポンサーを買って出たのは横川尚美の弟子たちであった。ホテル北村グループから電機グループにコンビニチェーン店などさまざまである。
伊達は尚美とつながりを持ちたかった。彼女は承知してくれたのだ。もちろん同情ではない、確実にヒットすると確信していたからだ。ここ近年ドラマはつまらなくなった。スポンサーの顔色ばかりを窺い、監督や脚本家はリアルが一番と当たり障りない展開ばかりと来ている。
DROPOUTは少々荒唐無稽だが、逆に視聴者に受けると思っていた。事実、SNSでは大絶賛であり、DVDも売り上げが好調である。
「伊達さんたちは挑戦者ですよね。常に人のやらないことを進んでやるみたいな」
「でも前例しか認めない芸能界じゃ嫌われてますよね。漫才王になろうGPでも普通ならテレビに出れないコンビを出してたから」
須丹と豊海は顔を見合わせながら言った。伊達はにやりと笑う。
「なぜなら俺たちは挑戦者だからな!!」
「俺はそうでもないけどね」
今回で最終回です。
セイレーンのメンバーは敢えて出しませんでした。脇役たちを中心に出演させています。
伊達賢治に題名を言わせるのは、後から考えました。
仕事がきつくなり、思ったような内容に書けず申し訳ありません。
ですがこう書くのがベターとも思っています。
私は休みの日が長くてもあんまり書く性格ではないのです。
仕事が終わった後に書くことが多いですね。