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第12話 視聴者は 面白いドラマなら なんでもいいのさ

「み~なと、く~ん」


 おさげの女生徒が如月湊きさらぎ みなとに声をかけてきた。同じクラスで舞台俳優を志望している。これでも数多くの舞台に立っており、将来はミュージカルの女王と呼ばれてもおかしくないだろう。

 学校での彼女は地味で、目立たないようにしていた。

 

「裏返りのリバス、観たよ。とても面白かった。荒唐無稽な展開がくすぐったよ」


 金髪の王子様キャラである湊は笑顔で答えた。彼の通う芸能科は芸能人の卵が多いが、ミーハー気分が抜けていないものがいる。魑魅魍魎が跋扈する芸能界を泳ぎきるには、息抜きが必要なのかもしれない。


「ありがとう。俺も演じていて面白かったよ」


「俺も観たよ。DROPOUTとは違った演技で新鮮だったな」


 湊が話すと、隣の黒髪の男子生徒が声をかけた。葉月陽翔はづき ひなたである。港と陽翔の二人はジストペリドというデュオを組んでいた。現在は大人気の二人である。


「DROPOUTもやってて面白かったな。まあ、監督の伊達賢治だて けんじさんのおかげでもあるかな」


「伊達賢治さんて、お笑い芸人なんだよね? それでドラマの監督もできるからすごいよね」


 湊の話におさげが割り込んだ。伊達賢治の名声は芸能界のあらゆる場所に広がっている。彼女が上がった舞台の台本を伊達が書いたのだ。


「けど裏返りのリバスはすさまじいな。容赦ないグロ描写だけど、逆に笑えて来る。シナリオも勧善懲悪というより人間の黒い部分を見せつけられてゾッとしたな」


「DROPOUTに出演していた人が多いけど、リバスだと全然違うよね。同じ喫茶店で働いていても演出が違うと、別物だよね」


「DROPOUTはどたばた劇で、リバスはシリアスよりだな。その分、人の殺され方がコミカルだから笑えて来るよ。北〇〇拳みたいな感じだな」


 陽翔とおさげは笑いあった。彼女だけでなくクラスメイトたちはリバスに夢中だ。配信のドレイクチャンネルでも週間1位を記録していた。日本の深みがあるシナリオに、味わい深い特撮技術が受けているようだ。さらにゲスト俳優たちも演技力が素晴らしく、なぜテレビドラマに出れないのか不思議なくらいである。

 特にリバスこと大安喜頓おおやす きーとんがヤクザの娘である羽磨真千代わすれ まちよに攫われたあと、叔母の坊屋利英ぼうや りえがヤクザの屋敷にカチコミにいくなど急展開すぎた。

 そこでアビゲイル所属の芸人たちが待ち構えていたのだから、完全に漫画の世界である。

 SNSではマイナーである漫才コンビ、バニラアイスと母娘丼、ワンダーボーイズの名が挙がったくらいだ。


「だけどSNSではDROPOUTやリバスが非難されているですよ」


 おさげが悲しそうな顔になった。

 SNSでは一部の芸能人がDROPOUTというか如月湊を非難しているのだ。

 彼は相棒の葉月陽翔とともに出演していない。ジストペリドは二人で表裏一体なのに、事務所は何を考えているのか。ジストペリドでない如月湊に価値などない。このドラマが失敗が約束されているから。絶対に見ないように、と投稿されたのだ。

 

 さらにDROPOUTやリバスはヒットなどしていない。ジストペリドが出演していないドラマが面白いわけがない。伊達賢治の陰謀だと主張する脚本家や監督などがSNSに投稿しているのである。

 だがそういったものはみんな炎上していた。視聴者を馬鹿にするなと非難されたのだ。

 それでも馬鹿は現実を認めず、DROPOUTやリバスはヒットしていないと言い張るのである。


「なんなんだろうな? 俺が出ていないだけでヒットしないなんて誰が決めたんだ?」


 陽翔は首をひねっていた。彼は演技が下手なのだ。別のドラマで二人は共演したが、陽翔はあまりにも大根役者すぎるので、事務所も彼を出さないことに決めたのである。

 湊は俳優業よりも歌手として活動したかった。DROPOUTとリバスはすでにクランクインしており、来年の1月からジストペリドは本格的に活動を再開する予定である。


「悲しいかなドラマにとって有名人は宣伝なんだよ。ジストペリドは格好の宣伝塔だ。それをやらないうちの事務所はさぞかし以上に映るんだろうさ」


「確かにそれはありえますね。でも実力がない人が上がっても観客は騙せません。以前監督の愛人というだけで主役になった人がいましたが、あまりに下手すぎるので監督共々下ろされたんです」


「今だテレビは最強であり、自分たちは一番偉いと思い込む人が多いんだよ。DROPOUTとリバスのヒットはそいつらにとって認めたくない現実なのさ」


 湊の言葉におさげは暗くなった。芸能界は過去の成功例というか前例にこだわりすぎていた。現在はネットの方が主流になりかけている。若者たちはテレビの前で釘付けにされるより、スマホやパソコンで自由にドラマやアニメを楽しみたいのだ。

 ドラマにしろバラエティー番組にしろスポンサーのご機嫌を取らねばならず、突飛なことはまったくできなくなっている。逆にネット番組だと多少の無茶はできるので、視聴者はそちらに向かうのだ。


 だがテレビを愛する業界人はそれを認められない。自分たちは絶対正しいと盲目的になっているのだ。

 ちなみにDROPOUTはテレビ帝都系の深夜枠で放送されている。普通なら放送できない内容だが、伊達はあるコネを使ったため、放送が可能となったのだ。

 実際は監督である伊達に放送権をどうこうできないのだが、それを実行するのが伊達賢治なのである。


「伊達さんはなんでお笑いやってるのかって、思う時があるんだよね。行動力が半端じゃないんだよ」


「ああいうのを時代の寵児というんだろうな。俺みたいにただ歌を歌うだけの人間には縁のない話だよ」


 湊の言葉に陽翔は両腕を後ろに組みながら伸びをした。


「今度、リバスの打ち上げ会をやるんだよ。伊達さんはレギュラー陣だけでなく、ゲスト俳優たちやスタッフを呼んで大騒ぎするんだ」


「すごいですね。いったいどこでやるんですか」


「確か尚美学園だったかな?」


 尚美学園。演歌の女帝、横川尚美よこかわ なおみが所有する屋敷である。

 次回最終回です。

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