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第一話 お前はいつも唐突だよな

「これが次回作の企画書だよ」


 おしゃれな都会のBARにあるカウンターで、40代の美丈夫がコピー紙の束をぽんと置いた。

挿絵(By みてみん)

 相手は伊達賢治だて けんじ。クリスタルエデンの俳優であり、監督業も務める風雲児だ。

 現在はDROPOUT 林萌香の生きる道のドラマを手掛けている。スーツを着こなしており、実業家を彷彿させた。


 伊達の隣には頭一つ低い男が座っていた。名前は江川傑えがわ すぐるで、伊達とは同期だ。

挿絵(By みてみん)

 そして相棒でもある。元々伊達と江川は漫才コンビ、マジカルバブリーとして活動していた。漫才王GPの優勝者でもある。だが当時の事務所はトラブルがあり辞めてしまった。

 こちらは伊達と違いラフな姿であった。

 

 現在の事務所クリスタルエデンは野田栄一郎のだ えいいちろうとともに設立したものだ。


「裏返りのリバスだぁ? いったいどんな話だよ」


「特撮ヒーロー物だよ。リバスは悪魔の力によって、身体が裏返り、この世のものではない天使たちと戦う話なのさ。脚本家になろうGPでは速攻で没になったらしいが、俺は気に入ってね。今のドラマが終わったらこいつを作ろうと思っているんだ」


「……癖のある話だなぁ。優しくなでることで、天使を倒すなんてにっちにもほどがあるだろう。スポンサーなんかつかないし、受けも悪いと思うがなぁ」


 江川はコピーの束をパラパラとめくりながら言った。今のテレビは低予算に悩まされている。スポンサーがなければなりたたない。大手おもちゃ会社がスポンサーでも怪人の衣装は使いまわしが多く、特撮はすべてCGとなっている。昔はよかったと思われがちだが、当時は当時で問題があった。危険な爆薬などを扱い、けがをすることが多かったという。昔と今は別の問題に悩まされているのだ。


「安心しろ。放送するのは海外のネット専門チャンネル、ドレイクだ。すでに話はつけてある」


 ドレイクはアメリカに拠点を置くネット専門チャンネルだ。ドレイクはイギリスの海賊で私掠船として活躍していた。世界を一周した最初の男をモチーフにしているのだ。日本と違い予算は潤沢で、日本では無理な表現もある程度は許される。大麻所持で逮捕された芸能人が出演している番組も、放送中止にならなかったくらいだ。

 江川は伊達の行動の速さに驚きつつも、この男ならやりかねないと思っていた。


「で、こいつはお前が監督を務めるのか?」


「いいや、監督は河井実雄かわい みつおに任せたいと思う」


「河井……。監獄フィーバーシリーズを撮った若手かよ」


 伊達が口にした名前は江川も知っていた。監獄フィーバーとは、刑務所を舞台に主人公がダンスを踊る作品だ。あきらかな低予算映画だが予算のなさを逆手に取り、演技派の無名俳優を使い、口コミでヒットさせたのである。

 さらに人脈が豊富で、刑務所の署長を時代劇では斬られ役を何十年も務めた大岡千恵蔵を採用したのだ。ベテランだがギャラが安い。だがその演技力は圧巻だったそうだ。


「河井は特撮ヒーロー、解決髑髏マンという映画を撮っている。そいつを流用させるのさ」


「どんな映画だよ」


 江川が訊くと、伊達は懐から写真を取り出し、カウンターに置いた。

 それは不気味なデザインで、人体模型をモデルにしたようなものだ。


「こいつと、プラチナバットの怪人たちを天使のデザインにするのさ」


 プラチナバットは河井作品だ。のっぺりしたデザインが不気味なことで有名である。


「ドレイクなら予算は出るはずだ。なんでわざわざ流用するんだよ?」


「河井監督は若いが将来有望な男だ。だが大手は彼を小馬鹿にし、テレビに出演する監督ばかり重宝している。河井監督を徹底的に世に知らしめたいのさ」


 そう言って伊達はグラスのウイスキーを飲み干した。この男は大のウィスキー好きで、四六時中飲んでいる。このバーの客層は品がよく、伊達や江川のような有名人を見ても騒ぐ客はいない。そもそも実業家や芸能人が常連客なのだ。騒ぐなど無粋と思っている。


 マスターは無言で伊達の空のグラスに、ウイスキーを注ぐ。これが日常であった。


「主人公の大安喜頓おおやす きーとん如月奏きさらぎ かなでで、ヒロインの川田美晴かわだ みはるは綺羅めくるだ。喜頓の叔母、坊屋利英ぼうや りえ蒼月あおつきしずくだよ」


 他にも俳優陣の名前がずらりと並んでいた。伊達は天使ルシファーというボスキャラで、江川は天使アヤツルになっていた。

 

「すでにオファーして承諾を得ている。あとはお前が承諾すればいい」


「事後報告じゃねぇか!! まあやるけど」


 江川は怒ったが、いつものことだと怒りを引っ込めた。恐らく俳優陣はすべて承諾しているのだろう。

 伊達はクリスタルエデン一の稼ぎ頭だが、ある程度の人望はある。もっとも奇人ぶりも目立つが嫌われてはいない。


「あと河井監督を選んだのはもう一つ理由がある。秋本美咲あきもと みさきを出演させるためさ」


 秋本美咲は演歌歌手だ。白人男性の血を引いており、外見だけは白人女性である。だが歌うのは演歌という一風変わった女性だ。前の事務所はトラブルを起こして辞めている。辞めた事務所の影響力で彼女は芸能界から干されている状態だが、現在はネットが主流で、ワイチューバー《ワールドチューブ》として活躍している。

 音楽の祭典メテオシャワーフェスに出演しており、昔と違って大手事務所の力は弱くなっていることを証明したと言えた。


「別にお前がオファーすればいいだろう?」


「彼女は河井監督と同じ大学なんだよ。彼女は演歌サークルに所属していたが、よく河井監督の映画に参加していたんだ」


 そう言って伊達はウイスキーを飲み干すのであった。 

 裏返りのリバスはどうやって作られたのか?

 その裏側に迫ります。

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― 新着の感想 ―
成る程。 リバスはこうして作れたのか。 こういう風に舞台裏を覗く感じの演出が憎いですね。 それと懐かしい名前もあり、そこも嬉しい誤算です。
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