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妄想する日常  作者: 積 緋露雪
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 皆、奇妙にひん曲がった相貌をしながら、此の世の森羅万象はぶつくさと彼方此方で独白してゐるに違ひなく、其の独白群は風音としてしか常人には聞こへぬが、中には其の森羅万象の独白群に此の世の箴言を聞き取ってしまふ何とも生き辛き宿命にあるものもゐるのである。

――毒を呷ってこそ、初めて未来が顔を拓く。

 何のことはない言葉ではあるが、そんな言葉に真実を見てしまふ困った癖あるものは概して此の世は艱難辛苦でしかない筈だ。さうしたことでしか前を向けぬものは、此の世界といふものに対する恨み辛みはかなり深刻で、己の存在が因となり己を腐食すると言ふ自滅の道へと歩を進めながらでしか生を繋げぬ茨の道を敢へて歩くことで、やうやっと精神の平衡を保ってゐるものである。そのものにはそんな茨の道以外目に入らず、別の道など蜃気楼の如く、逃げ水の如く近くにあると思へども近づいてもそのものとの距離は一向に縮まらずにぼうっと眼前に見えるのであるが、周りがそんなものばかりだと狂はずして生を繋ぐことは不可能であると言へ、その状況でも正気を保てるもののみが立像の如く此の大地にしっかと立ち得るのであった。そして、さういふものたちは総じて狂人のやうな顔付きをしながら奇妙な嗤ひを発しては眼窩の奥の目付きのみは異様に鋭き眼差しで、世界を睥睨するのであった。

 しかし、その当の世界はといふとそんなものなどちっとも相手にせずに素知らぬ顔で平気の平左なのである。世界はいつでも泰然自若なのだ。恨めしげに世界に敵愾心を燃やしつつも為す術なく虚ろに街を彷徨ふのが関の山の魂魄を摑み損ねた皮袋こそあれ魂の抜けしそんな輩の群れは、そんな世界に対して嫉妬に身を焦がしては尚更に世界に対して敵意を抱く外ないのであるが、いくら敵意を剝き出したところで世界が相手をする筈もなく、結局は苦虫を噛む思ひで、奇妙にひん曲がった相貌をして、外の森羅万象とともにぶつくさと独白しながら、やがてはどうあっても世界の顚覆を成し遂げねばならぬとの思ひに駆られる羽目になる。だからどうしたといふのであるが、独り狭い部屋で真夜中起き続けながら電燈の下、考へに考へ倦ねてどん詰まりに至ったときに狂気がむくりと頭を擡げる刹那が訪れる。その時である。世界が其の凶暴な一端を見せるのは。世界は世界に狂気で以て向かって来るものには容赦なく其の魂魄の抹殺をするのだ。其の手際の良さと徹底ぶりは流石としかいひやうがなく、未だに世界が森羅万象に君臨してゐられるのはそのためであった。


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