なんでも奪っていく義妹が最後に欲しがったのは私でした。
は、初めてメリバ? バッドエンド?の恋愛を書いた・・・・・!
「お義姉さま! そのドレス、わたしに譲ってくださらない?」
「お義姉さま! 私、その髪飾りが欲しいです」
「お義姉さま! リサを私付きにしてもいいかしら」
「お義姉さま! 私、お義姉さまの日当たりが良いお部屋が良いです! お義姉のお部屋を譲ってくださらない?」
お義姉さま! お義姉さま!お義姉さまお義姉さまお義姉さまーーーーー
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私が7歳の時に公爵家に養子として迎え入れられた2歳年下の義妹、ルルミナは、私から何でも奪っていった。
ドレスや髪飾りなどの物から、最後には人、部屋まで、もうこれ以上譲るものが無くなるまで、全てを奪われた。昔は可愛がってくれてた両親の愛も、数少ない味方の使用人も、着るものも、部屋も、全て。
代わりに与えられたのは、両親の私に対する嫌悪と、味方のいない孤独な環境、埃だらけの屋根裏部屋、ボロボロになった真っ白いワンピースだけ。
両親の愛情、キラキラしたドレス、可愛らしい広大な一人部屋、優しい使用人、全てに恵まれてキラキラと輝いていたあの頃の面影は、もう何一つ残っていない。
「なんで譲ってやらないんだ! お前はたくさんもってるんだから少しくらい譲ってやってもいいだろう!!」
「ほんとに可愛くないわ。ルルミナは来たばかりなのにどうして優しくしてあげられないの?」
お父さまお母様、違うんです。私は2人に買ってもらった大切なものを譲れと言われたから断っただけなんです。
「おまえに与える食事などそれで十分だ! 食べれるだけマシだと思え」
部屋が取り上げられ屋根裏部屋に移ってから私は、食事もまともに貰えなくなった。けれどルルミナは、両親の隙を見計らい嫌っているはずの私に何故かきちんとした食事を持ってくるようになった。
「お義姉さま。食事を持ってきましたわ」
「ルルミナ・・・・なんで・・・・・」
「お父様たちに悪気があるわけではないけれど、流石に死なれるのは寝覚めが悪いですもの。私は戻りますが、ちゃんと食べてくださいね!」
「でも・・・・・」
「死なれては私が困るんですの。明日もまた持ってきますから」
「・・・・・・ありがとうルルミナ」
「お気になさらないで。あくまで私のためですわ」
そう言ってルルミナはパッと花が咲くように笑い、去っていった。
この頃には、ルルミナは私より随分と背が高くなっていた。この間まで、ほとんど同じ身長だったのに。
それでも、愛らしさは変わらない。可愛らしい整った顔にいつも愛らしい笑顔を浮かべ、周りを魅了する。
ルルミナは、私を嫌っている。私が気に入らないから、奪っていく。
なのになんで、両親が与えないきちんとした食事を持ってきてくれるのか。
ルルミナは味方じゃないのか、そうなのか。
分からない。ルルミナのことがわからない。私が死んだら困るってどういうことなの? 嫌っているなら死んだって、困らないでしょう?
今日も今日とても、ルルミナは私に食事を持ってくる。
ほとんど屋根裏部屋から出ない私は、一日を屋根裏部屋に置いてある本を読んだり、窓から外を眺めたりして過ごす。食事まで粗食を与えられていたら、ほとんど動かない私はきっと今頃生きてはいなかっただろう。その点、私が今生きているのはルルミナのおかげだ。
「お義姉さま。食事を持ってきましたわ」
「・・・・・ありがとう」
「では戻りますね」
「えぇ」
朝の義務的な会話。ルルミナはあれから一度も欠かさず、毎日食事を持ってきてくれている。
なんでそこまでするのかわからないけれど、奪われるよりは、全然良い。たとえそれが、今まで全てを私から奪った妹からのものだとしても。
と、そこで、ルルミナがクルッと振り返り、言った。
「あ、言い忘れてましたけれど、今日で食事を持ってくるのは最後なので」
「え・・・・・・」
「なので残さずきちんと食べてくださいね。では」
え・・・・・・・?
私はルルミナが去っていく方向を呆然と見ていた。
その日の食事は朝も昼も、夜も喉を通りそうになかったけれど、無理やり口に含んで、吐きそうになりながらも飲み込んだ。
だがルルミナが持ってきてくれた夕食をたべ終わると何故か、急な眠気が襲ってきた。
「あ、れ・・・・・? なんで、急に・・・・・・・」
急な眠気に逆らえず、私は、そのまま意識を手放した。
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「う・・・・・・・・」
ぼんやりとだが、意識が覚醒する。
「あ、起きた?」
誰かが声をかける。声が高めだけれど、男の人・・・・・?
だが、ぼんやりとした意識は突如、はっきりとする。
ジャラッ
「えーーー?」
耳に響いた音に驚き見ると、ベッドの上で手と足を鎖で拘束されていた。
「な、なんで? 誰がこんなこと・・・・・! だ、誰かっーーー」
「どうかした?」
え?
顔を上げると、金髪に鮮やかな青い目の男性が立っていた。
「だ、誰・・・・・」
「あれ、わからない? それはそうか・・・・・じゃあこれならどうかな?ーーーーー『お義姉。お義姉のもの、譲ってくださらない?』」
目の前の男性は、男性の姿で、妹の声を発したーーーー
「ま、まさか・・・・・・そんなはず・・・・・だって、だって妹は、ルルミナは女の子・・・・・ッ!」
「察しが悪いなぁ、お義姉さまは・・・・・僕は歴とした男だよ。ただ今までルルミナに偽装していただけ。ね、お義姉さま」
「なんで・・・・ッ」
自分は男でルルミナだという男は、ルルミナと同じように、パッと花が咲くように笑う。
私は一体どこで間違ったのだろう。ルルミナが笑ってねだれば、たちまちみんな魅了され、ルルミナの願いを叶える。
ルルミナが来てから、私の居場所はなかった。私が少しでも、主張したら良かったんだろうか。違うの、私は譲ってと言われて奪われているだけだと。
まさかこんなことになるなんて・・・・・
でも、どうやってルルミナに偽装したのかも、どうしてルルミナが来てから両親も使用人たちもみんな変わってしまったのかも、目的は何なのかも、聞いてはいけないと本能が警告している。
「知りたい? それはね、初めて公爵家に連れてこられたとき、お義姉さまに一目惚れして、ほしいなぁって、ね」
「やめて・・・・聞きたくない・・・・・」
「たまたま魅了の力があったから、それでみんなに女だと錯覚させて、操って。お義姉さまを孤立させて。僕に依存させることはできなかったけど、まぁ、囲って一生一緒にいれるようにすればいいかなって」
「やめて・・・・」
「それからあの2人は領民に対する過度な課税と、税収の私利私欲のための使用を行ったとして爵位と領を没収されたよ。ただ、僕が爵位を引き継げば、爵位は伯爵に落ちるけど領も返すと言われたから、今の当主は僕」
「やめて! 聞きたくない・・・!」
「お義姉さまを養えるくらいの金はこれから十分稼げるだろうし。」
言いながらルルミナが近付いてくる。
「ーーーーね、お義姉さま。僕に、お義姉さまをくださいな」
そして、そう一言。高めだけれどちゃんとした男性の声で、私の耳元に囁いた。
「あ・・・・・」
頭がなんだか、ぼうっとしてくる。
ーーーー気付いたら、私は首を縦に振っていた。
「うん。よろしくねーーーーシェリア」
そう言って、私の妹だった男は、薄っすらと微笑むと私の唇に自らの唇を重ねた。
これってメリバなんでしょうか。それともバッドエンドなんでしょうか。
すくなくともハッピーエンドではないですよね?
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