おもちゃの鉄砲
おもちゃの鉄砲
私がまだ母と一緒のお布団で寝ていた時のことだ。
シングルのお布団に母子で眠っていたから、絶対に幼稚園に上がっていない。
母は寝付きが非常に良い人だった。おやすみのキスの後は、いつも母の方が早くに寝てしまった。
その日も私は、母の寝息を聞きながら寝た…
母の部屋の電気は、いかにも昔のおうちらしい照明器具だった。
今のように天井に埋め込まれている、ツルッとした形の電気ではなかった。天井から1本太い線が伸び、照明本体がそこに吊る下げられているタイプだった。
つまり、電気の傘があるタイプだった。
電気をつけたり消したりする際には、照明本体から床へと伸びる紐を引っ張って操作するのだ。
電気がついている状態で、1回引くと照明は少し暗くなる。2回引くと、こだま電球になる。
その日も、いつも通り、こだま電球のオレンジ色の明かりの中で眠った。
夜中、ふと目を覚ました。
電気の傘から、小さな女の子が私を見つめていた。
なぜだか、その時の私は全く怖くなかった。
全然おかしいと思わなかった。
しかし、そんなところに小さな女の子がいるのはもちろんおかしいことで…
他にも、おかしい点はいくつもあって…
まず、女の子の体が透けていた。
天井の見慣れた染みがちゃんと見えていた。
次に、女の子の目が異常に大きく、顔の大半を占めていた。
全部がいわゆる黒目で、白目部分が無かった。
そして、電気の傘から、下にいる私を見ているのに、髪の毛が下がってこず、きちんと彼女の体に沿っていた。
髪の毛はおかっぱ頭で、服は着物を着ていた。
全く怖くなかった私は、枕元に置いてあった、おもちゃの鉄砲を取って、彼女に向けて差し出した。
このおもちゃの鉄砲は、すごく小さなサイズのもので、たぶん、ぬいぐるみや人形用の鉄砲だったと思う。
差し出したおもちゃの鉄砲は、私の手から自然と離れた。
スーッと、おもちゃの鉄砲が宙に浮かんで…
女の子の袂まで飛んで行った。
同時に女の子はヌウッと下がっていって、しまいには頭の先が電気の傘に隠れてしまった…。
女の子におもちゃの鉄砲をあげた私は、安心して眠った。
数日後、母は、おもちゃの鉄砲が無いねと言ってくれた。
でも、まだ小さかった私は、女の子にあげたことをうまく説明できなかった。
また、女の子が着物姿だったことをちゃんと認識できたのは、私が七五三をやった直後だったからなどではない。
私の実家自体が着物に非常に縁が深く、物心着いた時から洋服と着物を区別できていたからだ。
何年かして、その照明は壊れた。
母屋から離れた屋外の隅に、ゴミの日まで保管されることになった。
照明器具は横向きに立てかけられていたが、雨ざらしで打ち捨てられていた。
なんとなく、
ーもうあの電気に、女の子はいない。
ーもう会えない。
ーもう、うちにはいない。
そう思った。
その後、立て続けに家族が亡くなったり、病気になったりした。
今も、あの子にはもう絶対に会えない気持ちがしている。