表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

踏んではいけない

踏んではいけない







私の実家はとにかく大きかった。

門を抜けて、しばらく歩き、母屋に着くと上がり框があった。

夏、サンダルで足が砂だらけになった日なんかは、祖母が井戸からブリキのバケツに水を汲んできてくれた。上がり框に座らせてもらい、その冷たい水で足を洗ってから、家の中にあがるのだった。


玄関をあがってすぐ右に、お茶の間があった。大きな掘りごたつのある、広いお茶の間だった。

「唐傘天井」と言う、まるで唐傘を広げたのを内側から見上げているような、特殊な装飾の天井を持っている部屋だった。


今日は、このお茶の間や玄関、上がり框について話したい。


熱い夜だった。私はまだ小学校の低学年だった。

お茶の間から出て、お台所に行こうとした。

お茶の間から廊下に出る時、つい襖の敷居を踏んでしまった。

その途端に真上から、水が「バシャーッ!」と降ってきた。


瞬間、

(これはにんげんじゃない。)

と理解した。


私の首から背中にかけては水に濡れて、あっという間に体が冷えた。


玄関や上がり框の方が、暗く闇を持っていた。とてもじゃないが、そちらを振り向くことが出来ない。

私の上方、後方、それから左側は、絶対に向きたくない。

お台所のある方へ、明るい方へと私は小走りに向かった…


お台所には、ダディがいた。

一生懸命に説明して、一緒にお茶の間の襖を見てもらった。

結果、襖も敷居も全く濡れていなかった。

私の背中だけがびしょびしょだった。


「大丈夫。うちにそんな悪いものはいないよ。」

と言ってくれたが、私は怖かった。



数日後、今度は私はお台所でぼーっとしていた。

私は体が弱かったので、外で遊ぶことはあまりたくさんは出来なかった。家の中で遊んだり、家の中から庭を眺めることが多かったのだ。

お台所の真ん前の床の間は、襖が開け放たれて、ずっと向こうの縁側までよく見えた。

真夏の日差しが、庭の松を貫いていた。


と、その瞬間、いきなり手前の床の間の襖が、「タァンッ!」とひとりでに閉まった。

閉まる力が強すぎたのか、反動で跳ね返り、細く開いたほどだった。

私は驚いて、声が出なかった。

(にんげんじゃない。)

とだけ、思った。

もちろん、床の間には家族は誰もいなかった。


ダディにまた言ってみた。でもやはり、

「大丈夫。うちには悪いものはいないよ。」

と言う。


本当は、私は、分かっていたのだ。

畳の縁や襖の敷居を踏むくせがなかなか直らない、私が悪かったってこと。

私が、何かに怒られたってこと…





それ以来、私は和室に入る時は、畳の縁や襖の敷居は、絶対に踏まないようになった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 怒り方・しつけが昭和っ!!(水ばしゃーとか) 現代ではやっちゃいかん怒り方ですね!!(違うそうじゃない 畳のふちなんて、数え切れないほど踏んでましたよ…… 実家は台所以外ぜんぶ畳。でもその…
[良い点] ご実家が素敵そうで憧れます! そして、ほんわか、おっとりしつつも繊細な鰯田サマの秘密がわかった気がします笑 守られつつも、影響を受けやすいのでしょうね うちの母方の実家も大きく古かったの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ