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右手の火傷

右手の火傷





私が幼稚園に上がる前のことだ。

なぜ時期が断言出来るかというと、母がその日のことをはっきり覚えていたからだ。


その日、私は実家で1人で遊んでいた。

ふとアイロンが目についた。

「とってもきれい!」

と心を奪われた。

アイロンのツルツルしたグレーの面が、美しく見えたのだ。


だから、触った。

私は右利きなので、右手のひらをアイロンに押し付けた。


ージュッ!


とものすごい音がして、目の前が白っぽくなった。今思うと、水蒸気だったんじゃないか。

見る見るうちに手が腫れてきた。

大火傷だったと思う。


「きゃあああ…!」


泣き叫ぶ私の前に、突然、女の子が現れた。

私の右手首をつかまえて、洗面所に連れて行った。

脇に避けてあった踏み台をずらして、私を乗せてくれた。

蛇口から水を出して、右手を冷やしてくれた。


「あついものをさわったときは、こうするんだよ。」

と、教えてくれた。

「そうなの?」

「そうなんだよ。もう、だいじょうぶだよ。」


私は、そっかあ、もうだいじょうぶなんだと思った。

その後の記憶は、無い。





数年後、母が教えてくれた。


あの日、母は、午前中にアイロンをかけたそうだ。

子どもたちには、いつも、アイロンには決して触っちゃダメだよと言っていた。

でも、ほんの少し目を離したすきに、私の様子がおかしくなっていた。


母が私を見つけた時、私は母の部屋の隅で丸まり、ブルブル震え怯えていたそうだ。

「どうしたの?」

と問いかけても、縮こまるばかりだったと言う。


(これは、何か悪いことをしたのね。)

と思って、母は私の腕に触り、体の向きを変えさせた。

そこで、パンパンに腫れている右手のひらを見て、私がアイロンに触れたことを理解した…


私の右手のひらは、腫れてはいたものの、初期対応が正しかったため、ちゃんと治った。

元通りになった。痕も残ってない。


母は、「アイロンを触って火傷したはずなのに、なぜ右手が冷えているのか」不思議だったようだ。この日のことは、よく記憶していてくれた。


私は、この女の子の存在に、全く疑問を持っていなかった。


だいぶ大きくなって、ちゃんと説明ができるようになってから、この日のことは母と話し合った。

母は、「そんな女の子はいなかったし、家にあげてもいない。」と言い切った。

母はその日が平日で、近所の少し年上の女の子たちはみんな幼稚園に行っていた時間だったということまでも、しっかり覚えていた。


私は病気がちで、よく熱を出したり、吐いたりしていた。

もしかして、覚えていないだけで…

あの女の子は、よく私のところに来て、励ましてくれてたのかもしれない。

右手をつかまれた時、全く怖くなかったからだ。知らない子、という感じがしなかった。


あの女の子と私は、頻繁に遊んでいたのかもしれない。


火傷で死んでしまう子だっているし

水泡が潰れてバイ菌が入って病気になる子もいる。


大袈裟じゃなく、私は、彼女に命を救ってもらったと思っている。



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― 新着の感想 ―
[良い点] よく聞くイマジナリーフレンドでななさそうで… しっかり存在した女の子なんでしょうね。 凄いなぁ… そんなにはっきりした女の子なら、座敷童子とか、ご先祖様系とか…? とにかく、その存在は…
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