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天皇陛下
天皇陛下
「てんのーへーかのわるぐちをゆーと、ころされるの。」
これが、2歳〜3歳頃の私の口癖だったそうだ。
理由は分からないのだが、私はそう強く思い込んでいた。
天皇陛下なんて言葉、教えられたことはない。家族も教えていない。
だから、初めて私がパニックを起こした時、家族の方が動揺していた。
飛行機が音を立てて空を飛んでいく。
伸びていく白い飛行機雲に見向きもせず、私は頭を抱えてしゃがむ。
「こわいよぉぉぉ。」
「みんな死んじゃうんだぁぉぁ。」
という言葉を叫びたいのを我慢して、頭を抱えて小さくなった。
とにかく自分を守りたくて必死だった。
とても怖かった。
でも、現代の一般家庭だから…
ー防災頭巾がない。
ー抱きしめてくれる『あの人』もいない。
ー…『あの人』って、誰だっけな…
とぼんやり思ってた。
飛行機の音が聞こえなくなるまで、いつも縮こまっていた。
 
私は自分を、戦争で早死した子供の生まれ変わりだと思っている。




