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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の僕らの話

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今の世の中、遠く離れてもすぐに話せる

 テスト返却日。忠は、なんとも複雑な表情をしていた。

 テスト勉強に集中できていなさそうだったので、きっと悪い点数だったのだろうと覗き見ると、そこには今までにないほどに高得点を取っている忠の解答用紙が。


「忠、どうしたの?」

「…はは、なんでも」


 いつもの忠であれば、手を挙げて喜びそうなものだというのに、解答用紙を見た反応は薄い。既に解答用紙は見ておらず、窓の外をぼーっと眺めている。

 そのいつもと違う雰囲気の忠に、周囲のみんなもなんだか心配そうだ。ここまで明らかに雰囲気が変わるのも、そうそうないことだ。


 だが、僕が何を尋ねても、忠からはなんでもないという返答しかない。

 どうみても忠の様子がおかしいのだけど、本人から何か言ってもらえないとこちらも自体を把握できない。家族に何かあったとか、そういった不幸があったのかもしれないけど、せめて少しだけでも説明してほしい…と思うのは、部外者だからなのだろうか。


……


「進藤くんね。確かにずっとおかしいわ」

「どうしたらいいんだろう」


 夢の中で、二人で大きめのパフェを食べながら話し合う。

 現実でどうにかならないときの逃げ場として、最近夢の中でひうりと相談することが多くなってきた。勉強の悩みや進路の悩みも、ここでずっと二人で話し合っていることが多い。


 やはりなんでも出せるというのが強みなのだと思う。悩み行き詰まったら、すぐに別のことを始めて気分転換をすることができるのだ。


「でもまあ、彼から何か話してもらうまではすることないんじゃない?無理に聞き出すことじゃないわよ」

「それは…そうだけど…」

「私だって、家族のことを無理に聞き出してもらいたいとは思わないし」


 ひうりには、ずっと皆に隠していることがある。なので、忠の気持ちが分かるのだという。


 気分が落ち込んでいるということは、何かあったのは確実。ただ、それを無理に聞き出してほしいと思うような人はほとんどおらず、時間が解決するのを待った方がいいとのこと。

 ひうりがそうであったように、自分から言うような勇気が持てたらほとんど解決だと。


「忠があんなふうになってるの、クラスの皆が心配してるんだよね」

「それはそうでしょうね。彼の持ち味はあの底抜けの元気だもの。それが突然あんな寡黙みたいな雰囲気になったら、変に思わないほうがありえないわよ。でも、だめよ。一樹くん、ちょっとお節介なところあるから」


 ひうりからの直接的な制止をかけられた。

 僕は忠のことをとても心配しているのだけど、ひうりからすればそれは一過性のものであり、僕は急ぎすぎだという。だめだな、この件に関してはひうりの指示に従った方がいいと分かってるんだけど…


「はぁ、一樹くん。そういう節あるわよね」

「え?」

「そんなに気になるなら、遊びにでも誘いなさいよ。あなたから誘うことはないんでしょう?学校っていうパブリックなところじゃ話しにくいことも、二人きりなら話してもらえるかもしれないわよ」


 そういえば、ひうりが秘密を現実で話してくれた時、僕とひうりが二人きりの状態だったことを思い出す。たしかに、周囲に誰かいる状態で秘密を話すような気にはなれない。

 ひうりのアドバイスを元に、忠との遊びのプランを立てる。ひうりも言ったけど、僕から遊びに誘うことなんて滅多にないから、ちょっと緊張してしまう。


「内容は聞かないから、結果は教えなさいよ」

「もちろん」


……


 その次の土日、僕は忠のメッセージを送り、遊びに誘った。

 もしかしたら断られることもあるかもしれないと思ったけど、忠からは二つ返事で了承を得た。そして、僕と忠は現在駅に集合していた。


「よう、一樹」

「元気そうだね、忠」

「お前から遊びに誘ってもらうなんて、そうそうないからな!」


 学校で見せた雰囲気と違って、実際にテンションが上がっている様子。しかし、その表情に含まれた少しの影を見逃さない。

 ひうりを観察しているうちに、その人の表情からなんとなく影を感じることができるようになっていたのだ。いつ使う特技かもわからないけど、人との距離感を計るのには使えそう。


「それで、今日はどこ行くんだ?」

「テスト終わったし、気晴らしに。ゲーセンでも行こうよ」

「いいぜ!」


 そうして二人で電車に揺られ、大きなゲーセンがある街へ。

 日頃はあまりしないけれど、音楽ゲームや格闘ゲームなども置いてあるゲーセンなので、忠の気晴らしに使えるだろう。


 僕たちは本気で遊んだ。音ゲーにあまりの難易度に忠が転げ、格ゲーで僕が忠にボコボコにされた。クレーンゲームではそれぞれ五百円をただ費やしただけに終わり、シューティングゲームで僕がハイスコアを達成した。


 そうして、三時間ほどゲーセンで時間を過ごしたのち、僕たちはカフェまで移動していた。流石に、ずっとゲーセンで遊び続けるには、僕の体力が足りなかったのだ。忠はまだまだ元気そうだけどね。


「さてと、一樹」

「うん?」

「何か話があるんだろ?わざわざ、こんな風に誘ってくれてさ」


 忠が神妙な顔つきになって、僕の顔を真っすぐ見る。

 忠は、こういった察する能力が非常に高い。だから、僕はいつも忠に助けられているのだ。


「いや、話があるのは俺の方か。最近元気がない理由を教えろってんだろ?」

「よく分かるね」

「むしろこれで分からない方が察しが悪い。一樹から振りにくい話は、俺からな」


 注文したサンドウィッチを一口食べて、忠は話し始めた。


「そんな大したことじゃないんだが…俺、高三になるタイミングで引っ越しすることになってさ」

「えっ」


 まさか、引っ越しだとは。高校生活の最後の一年だし、そもそも大学に行くならもう本当にたったの一年だというのに。

 近所に大学がないので、大学に通うなら必ず引っ越して一人暮らしをすることになる。なのに、高校最後に引っ越しをすることになるなんて。


「受験とかどうするの?」

「通信制を受けることになってる。俺も一応反対したんだけどな…俺の親、どっちも考古学バカだからさ。祖父のところに皆で引っ越しだ」

「一人暮らしとか…」

「祖父のところ、大学が近いんだよ。考古学の学科もあるし、俺はそこを受けるつもりだ。だから、一人暮らしをする理由がない」


 どうやら、忠の意思はそれなりに固まっているようだ。それに、これは僕が介入できるようなものではなく、忠の家族の問題。僕がアドバイスできるようなことはない。


「だからまあ、最近元気なかったのはただの哀愁だよ」

「そっか…寂しくなるね」


 だから、僕は別れを惜しみ、そして告げるのだ。


「元気でね」

「おうよ。つっても、三月末まではこっちいるし、そんなしょげるなって」

「でももう一か月しかないよ」

「ネットがあるだろ。それに、一応県内だから、会おうと思えば会えるって」


 忠が笑い飛ばす。僕の気は晴れない…だけど。


「また、遊ぼうね」

「当たり前だ。お前は親友だからな」

「親友…そうだね、僕たちは親友だ」


 金輪際会えなくなるわけではない。僕が最終的にどこの大学に行くかは分からないけど、もしかしたら会えることもあるかもしれない。

 なにも、寂しがる必要はない。


「しんみりしちまったな。またゲーセン行くか」

「食べ終わったら、遊ぼう」


……


「そう、解決したのね。事情は聞かないけど、一樹くんが元気そうだから、私も嬉しいわ」

「ありがとう、ひうりのおかげだよ」

「私は関係ないわ。だって、私とよりも、進藤くんとの方が仲いいじゃない。大切な友達は、大切になさい」

面白いと思ったら評価や感想をお願いします。そろそろ後日談も終わりです

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