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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の僕らの話
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学年末の教室がちょっとピリピリしている感じは慣れない

 バレンタインで浮ついていた学校も、そこから数日もすれば校舎内はピリピリしてくる。理由は簡単で、学年末試験が近づいてくるからだ。

 尚、三年生の教室は更にピリピリしているので、下級生は近づかない。来年には、僕たちもあのような雰囲気になっているのかと思うと…少々憂鬱な気分だ。


「一樹、勉強会するかー?」

「そうだね、一年を総復習をしてもいいと思うよ」


 今年から始まった僕たちの勉強会は、現在も続いている。最近では忠もひうりたちがいる状況に慣れて、いい感じに勉強に集中することができている。

 忠はひうりたちにいいとこを見せたいという一心でやっているので、こうして集中することができている。ただ集まればいいというわけではないのが忠の面倒で悪いところだけど、ひうりたちがいたら集中するというのは、忠の単純でいいところだ。


 ただ、その状況も最近改善されてきており、修学旅行のときに一緒だった佐々くんや夏に遊んだ神田くんたちとも勉強会をして、ちゃんと集中ができている。

 どうやら忠、最近、そもそも成績が悪かったら見てもらえないということに気が付いたらしい。惜しいかな、高校二年の最後にやっと気づいても、もうチャンスはあまりない。


「うしっ、じゃあ今週末に、いつものところでな!」


 とはいえ、成績が上がっているのは喜ばしいことであり、まだあまり結果は出ていないけれど、高三になったら否が応でも勉強することになるので、今のうちに学習する習慣をつけておくのはいいことだ。

 模試を受けることも増えて、勉強会をする時間はあまりないかもしれないけれど、自分で勉強できるようになったのなら、忠は大学受験もきっと大丈夫。


「忠、不安な科目は?」

「英語。あと数学」

「どっちもひうりが得意な科目だな…」


 まあ、ひうりはどれも成績いいけど。その中でも、特にこの二つは成績がよく、時によっては学年でも三位以内に入るような成績を出している。

 僕?真ん中くらいだよ。


「じゃあ黒棘姫とマンツーマンで…「僕が教えるよ」……おう」


 食い気味に、忠の言葉に被せて言う。

 僕は別に得意というわけでもないけど、忠とひうりが二人で勉強するのを許すつもりはない。僕が勉強して教えればいいだろう。少なくとも、忠よりも成績はいいし。


……


 夢の中で勉強を始めるのは、いつも緩い雰囲気からだ。


「んー、一樹くん、勉強する?」

「やる?」

「やった方がいいとは思うわよ」


 ここで、ひうりは僕に強制をしてこない。強制させるような勉強では、身につかないということを理解しているからだ。ここで僕が拒否すれば、ひうりはいつも通り甘いお菓子を食べながら僕と駄弁るだろう。

 ただ、ひうりはこの話を振ってきたときは、それが最適なタイミングだからである。早すぎず、遅すぎず、試験範囲を全部見直せる時間を取りつつ、忘れたりパンクしたりしないだけの期間だけで勉強できる、いいタイミングなのである。


「じゃあ、やろっか」

「ふふ、じゃあやりましょうか」


 僕は、ひうりと一緒に建てた家や夢宇神社を消して、塾の教室のようなところを出現させた。家は、何気に娯楽品などをおきっぱにしているので、誘惑があるのだ。

 夢の世界ということもあって、雑音が全く聞こえないこの世界で、勉強をするととても集中できる。ある程度雑音があった方が集中できるっていう人には、向かないかもしれないけど。


「夢宇、バケツプリンあげるから、ちょっとおとなしくしててね」

「キュン!」


 夢宇は、僕らの言葉を理解しているので何もなくてもおとなしくしてくれるけど、いつもお利巧なので、こうしておやつを渡してから距離を取っている。

 バケツの持ち手を咥えながら歩いて行った夢宇を、ひうりが羨ましそうに見ている。もしかして、バケツプリン食べたいのかな。


「じゃあ何から始める?」

「英語と数学で」

「おっけー、任せてちょうだい」


 忠に教えるためにも、頑張って僕が勉強をする。ひうりが他の男子と勉強するのを阻止するためなんて、とても女々しい理由かもしれないけれど、僕にもある程度の独占欲があるってことで一つ。

 ひうりの教え方はとても上手で、やはり先生に向いていると感じる。僕が教えるよりも、ひうりが教えた方が忠のためになるだろうけど…忠の成績よりも、彼女の方が大切なので是非はない。


「んー、リスニングに関しては私が話してもいいんだけど、現実でやった方がいいと思うから…」

「じゃあリスニングは後回しで。数学やろう」

「はいはーい」


……


 勉強会になると、忠はいつも以上のやる気を出す。

 だが、今日はどうにも集中できていないようだった。


「うーん…」

「どうしたんだ、忠」


 忠はいつもと違い、机に突っ伏しており、ペンが進んでいるようには見えない。一応教科書を眺めてはいるので、勉強に飽きたというわけでもないみたいだけど、いつものようにどんどん演習をするやる気が出ていないようだ。


「進藤くんはどうしちゃったのかな」

「僕も知らなくて…」


 忠の状態に林さんも気になったようだけど、僕も知らないので答えることはできない。

 忠に聞いても、大丈夫としか言わないし、どうしてしまったのだろうか。体調が優れないのであれば、別日にするとか、少なくとも今日は帰るとかした方がいいんだけど…


「忠、見られてるぞ」

「おーう」

「だめだこりゃ」


 やる気がないというか、覇気がない。忠の、人を引っ張るような元気を感じないのだ。

 まるで風邪をひいてしまったかのような雰囲気に、僕は心配になるけれど、忠から答えは返ってこない。無理やり帰すのもなぁ、と思っていたら、神無月さんが強めの口調で言った。


「集中できないのであれば帰宅することをオススメします。このままここにいても、時間の浪費でしかない」

「…だな」


 神無月さんの言葉に、忠は素直に従った。荷物を片づけ、さっさと部屋を出ていく。


 いつもの忠とは全然違うその様子に、僕は少々面食らってしまう。


「彼、どうしたのよ」

「いやー、本当に僕も知らなくて」


 一体どうしてしまったのだろうか。その答えは、テスト当日まで分からないのだった。

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