一夜漬けと十分な睡眠は共存できない
さて、忠は既に夏休みの気分でいるようだが、その前に忘れてはいけないイベントがある。
「…夏休みになるまで学校来なくていいか」
「だめに決まっているだろ」
「テストやだあああああ!」
そう、学生の天敵、期末テストである。
僕の学力レベルでいうと、この学校の平均くらいであり、ひうりはその少し上。そして、僕の目の前で項垂れている忠は、平均よりも結構下なのである。忠が夏休みの予定を、随分と早く企画していたのは、現実逃避してテストのことを忘れようとしていたのも理由の一つだろう。
日々の勉強をしていれば特に問題はない。期末試験と言えど、今までに学習した範囲から出るのだから、全く解けないなんてことにはそうそうならないのである。
目の前の、日々の勉強を怠った奴を除けば。
「なんでテスト一週間前になって項垂れてるんだ?」
「項垂れるだろ!テストだぞ!親の仇ぞ!」
「お前の親はどっちも存命だろう」
忠は勉強ができないわけではない。むしろ、きちんと勉強すれば僕よりも良い成績をとれるくらいだ。
そんな忠がごちゃごちゃ言っている理由は、忠の勉強嫌いにある。
どうやら昔から、両親に考古学的な探究を繰り返し行わされた結果、学習に対して苦手意識を持ってしまったらしい。もっとも、忠は考古学が好きらしいので、苦手意識だけ残った感じだが。
「一樹よー、勉強を教えてくれよー」
「僕は人に教えられるほどじゃないよ?」
「それでもいいってー。楽しく勉強できればー」
なので、誰かと一緒に勉強をしたり、楽しみながら勉強したりすれば、忠も平均以上の成績がとれるのである。
とはいえ、僕も教えられるような立場ではない。日々の勉強をしていても、僕自身の要領が悪いので、理解度的にはまだ半分と言ったところなのだ。
ではそれをどうするかと言うと、今の学年になってからのとっておきを使うしかない。
……
「次この問題ね」
「うん」
夢の中、いつもの白い空間じゃなくて、自習室に僕とひうりはいた。
僕には頼れる先生、佐倉ひうりがいるのである。夢の中とはいえ、僕の記憶はきちんと引き継がれるので、ここで勉強することはそのまま現実での学力として反映されるのである。
勉強道具は、ノートとシャーペン、そしてひうりに作ってもらった問題集である。
現実の問題集を持ってこれたらいいのだけど、流石にそこまで詳しく内容を覚えていないので、具現化することができなかったのだ。出しても、表紙だけがある、中身があやふやな問題集だったのだ。
なので、ひうりに問題を作ってもらって、それを解いている。ひうりに負担が大きいのは心苦しいのだけど、ひうりは楽しそうにしているので、それに甘えている。
「うん、この単元は良さそうね。数学はちゃんと点数が取れるんじゃない?」
「そう?なら良かったよ…」
数学の問題集を解き終え、取り敢えず一安心。ひうりが言うのであれば信頼できる。
「んー、一樹くんは」
「ん?」
「去年はどうしてたわけ?私はいなかったでしょ?」
去年の僕には、この夢の中という言わばチートはない。
ではどうしていたかと言うと…
「もうひたすらに問題集をやったよ」
「一夜漬けじゃないでしょうね」
「それはしないよ。僕が寝るのが早いのは知ってるでしょ?」
学校で買った問題集をただひたすらに解きまくったのである。
僕の就寝時間は、去年も今年も変わらず早いので、徹夜とか一夜漬けに向かないのだ。なので、起きている時間をひたすら勉強に費やした。テストに出てくる問題が、どれも知っている問題になってしまえば解けるだろうというある意味脳筋的な戦法である。
「よくそれで解けるわね…」
「実際ちゃんと平均はとれてたからね。まあ負担がすごいし、ひうりに教えてもらう方が良い点が取れる気がするけど」
それでもやはり、平均までしか取れなかった。ちょっと特殊な応用が出ると、それだけで解けなくなってしまうのだ。
国語などの、応用がない教科ならいいのだけど、理科系科目にはどうしても弱くなってしまう。
その点、ひうりに教えてもらうのであれば、理解力が高まるので応用も解けるようになる…はず。
「本当は、問題集を出現させることができればいいんだけど」
「現実のものを持ってくる方法ってないのかしら」
「うーん…」
夢の中の僕も、ひうりも本人だ。しかし、この体は本物ではない。本物の肉体は、今も自分の部屋で寝ているのだ。
夢の中には、この意識しか持ってこれないのである。
「ま、今は勉強をしましょ。一週間なんてすぐよ」
「…そうだね。ご鞭撻、よろしくお願いします、先生?」
「もう、揶揄わないでよ。さ、次よ」
……
一週間後、テスト当日である。
忠の要望に応え、三回ほど、忠と一緒に勉強をした。それもあってか、今日の忠はちょっと元気である。
「はぁ…」
あくまでちょっとである。ため息をついているけど、何もせずに迎えたテストに比べると、今日の忠は元気な方である。
「一樹はなんかやる気ありそうだな。自信があるのか?」
「正直言うと、ちょっとあるかな」
この一週間、毎晩ひうりに勉強を教えてもらったのだ。夢の中で勉強しても、フィードバックされるのは僕だけなので、ただ一方的に教えてもらうだけだったけど、そのおかげで結構理解できていると思う。
国語や社会科目の勉強は去年と同じ勉強だったので、同じくらいの点数だろうけど、理数系は去年よりも点数がとれるはずだ。
これも、夢の中というチート空間があったおかげである。睡眠をしつつ、勉強もできるなんて、世の学生であれば誰もが羨ましくなる環境があったからこそだ。
試験監督が教室にやってきて、クラスメイトは静かになる。
姿勢を崩していた忠も、今はきっちりと座っている。僕も、緊張してきた。
問題用紙と解答用紙が配られる。科目は国語。ひうりと勉強した科目ではないけど、毎日別途で勉強した科目だ。
「はじめ!」
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