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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の僕らの話

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正月に気まずさを感じたくはない

「っていうか、一樹もひうりちゃんもそんな服どこで手に入れたの?」

「友達から…」


 母が近寄って、僕の服を触る。

 僕がわざわざ和服をレンタルするような性格ではなくて、勿論この家にはないのを知っているからこその質問だろう。それに、朝のタイミングでは普通の服だったからね。


「それで、何をするつもりだったのかしら?」

「ひうりにおせちを食べさせるだけだよ。余りだけど」


 別に変なことをしようとしていたわけではないと説明すると、母は目を輝かせて言った。


「なら作ってあげるわ!ひうりちゃんには存分に食べてほしいもの!」

「そ、そんな。お母さま、わざわざ作ってもらうようなものでは…」

「いいのよ。一樹はあまり食べなくて作り甲斐がないから」


 あまり理由になっていない理由でキッチンに移動する母。


 母は猛烈にひうりに甘い。クリスマスのお泊り会の説明でひうりを紹介したときから、母はやたらとひうりを甘やかしている。ひうりの家の事情を聞いたときに、母の何かのスイッチを刺激したのだろう。

 ひうりはひうりで、母からの愛というのに慣れていない。そのため、こうなった母に対して何を言えばいいのか分からなくなるのである。


「ああなったら僕も止められないし、ありがたくもらおう」

「一樹くんが止めないからああなってるんじゃないの…?」


 そういう責任を求めるなら、僕以上に父に責任がある。尚僕以上に父は母を止めない。


 リビングに移動すると、ソファに座っている父と、キッチンで既に何か料理を始めている母の姿があった。時間がかかるものは無しとして、すぐに作れるものを母は作るようである。


「おかえり一樹。それと、いらっしゃいひうりちゃん」

「お邪魔します…」


 実のところ、ひうりと父は初対面。ひうりはちょっと緊張している。

 とはいえ、父の方は特に気にする様子もなくテレビに視線を戻した。どうやらひうりよりも正月番組のほうが興味があるみたいだ。


 息子の彼女よりもテレビを優先する父親というのも珍しい…と、思う。他の家族を知らないので、基本的な父親像もよく分からないけれど。


「お父さんはああいう人だから気にしないで」

「う、うん」


 緊張しながら椅子に座るひうり。うーん、前に来た時よりも緊張してるなぁ…

 僕はひうりを落ち着かせるために、ひうりの手を握る。ひうりが一瞬ビクッとしたけど、すぐにギュッと僕の手を握り返した。


 ひうりはまだ少し緊張しているけれど、表情は柔らかくなった。この反応が初々しくてとてもかわいい。


「お母さんの前で見せつけるわけ?まあいいけど」


 母が大きな皿を持ってきた。若干イチャイチャしていたので、母にはすぐにばれてしまい赤面。


 母の持ってきた皿の上には様々なおせちが並んでいた。なんなら僕の見たことのないものまで乗っていて、こんなのも作れたのかと感心してしまう。


「ほら、たんとお食べ」

「ありがとうございます。いただきます」


 ひうりが数の子を口に運び、美味しそうに食べる。僕も試しに食べてみると…うーん、美味しいかなぁ。


「やっぱり作り甲斐がない息子ね。ひうりちゃん、一樹のことは気にせずにいっぱい食べてね」

「あら、一樹くんはおせち嫌いなの?」

「嫌いじゃないんだけど…別に、そこまで美味しいかなぁって」


 母親の味が、というよりもおせち自体への感想だ。

 そもそも、現代社会のジャンクフード的な味付けとはかけ離れた、日本の味付けをしてるし、その中でも特に日本独特な味付けをしているので、口が慣れない。


「一樹くんには好き嫌いがないものだと思ってたわ」

「嫌いじゃないって。ただ…」

「そんな風に言い訳を連ねている時点で、嫌いって言ってるようなものよ」


 ぐぬ…


 言い負かされた僕は箸をおき、ひうりがおせちを食べる姿を眺める。ひうりがごはんを食べている姿はいくらでも見れる。


「ちょっと一樹、変態みたいよ。やめなさい」

「えっ」

「いいんです。一樹くんがこうして私を見てくるのは嬉しいので」


 無性に恥ずかしくなって、僕は目を逸らす。

 父が見ているテレビでは、芸能人が着物を着てトークをしていた。正月特番って、みんな和服を着ているけれど、動きにくくないのだろうか。


 僕は今日一日着ただけで、結構体力を持ってかれたよ。


「一樹くん、こっち見てよ」

「いや、いいかな」


 母の視線を感じて、僕はテレビから目を外せない。特に興味もない番組なんだけど、親の前でひうりをじっと見つめるのはもうできそうにない。


「それで、おせちを食べた後はどうするの?」

「特に決めてないけど…ひうり、どうする?」

「え?んー、特に考えてないわね」


 初詣に行くという目的も、おせちを食べるという想定外の目的もどちらの達成している。何もないからお別れするつもりもないのだけど、特に予定もないのは事実である。

 僕たちがそう言うと、母はどこからかカメラを取り出してこう言った。


「なら、その姿をきっちりとしたカメラで撮りましょ」


 僕たちはまだ和服のままだ。家に入るときに少しだけ緩めにしたけど、着たままなのは変わらない。


 母が取り出したのは一眼レフカメラ。父も母も写真を撮る暇なんてないはずなのに、なんで一眼レフカメラなんてあるんだろう。僕もその存在知らなかったんだけど。


「不思議そうな顔をしてるわね。これは貰い物よ」

「一眼レフカメラ貰うとかある?」

「あるのよ」


 貰って来たのは父らしい。一体どういう付き合いをしたら一眼レフを貰うことになるんだろう。詳しいことは知らないけど、一眼レフカメラって高価なものじゃなかったっけ。

 

 とはいえ、写真を撮ることについては拒否することは何もない。ひうりを見ると、何も文句はなさそうだったので、午後は写真撮影に時間を使うことになりそうだ。

 ひうりが満足するまでおせちを食べるのを待ち、少しだけ休憩。


「いっぱい食べたね」

「うぅ、正月太りしちゃうわ…」

「僕も一緒に運動するよ」


 十分に休憩したら、和服をきっちりと着なおして外に出る。

 撮影場所はどこにするべきだろうか。


「やっぱり神社じゃない?」

「でもどこの神社も人が多いんじゃないかな…」

「だったら近所のあそこにしましょう。あそこはどうせ人がいないわ」


 失礼なことを言う母と共に近所の神社に移動する。例の、大国主さんが祀られている神社である。

 父はついてこないようだ。息子が恋人を連れていたら少しなりとも興味がわくと思うんだけど、徹底的に僕たちに干渉しないつもりのようである。


 ひうりが緊張するので、そちらの方がありがたかったりする。


「やっぱりいない。神主さーん、写真撮影に使うわよ」

「皆さん、あけましておめでとうございます。ええ、かまいませんよ」


 挨拶もなしに神社に入る母。

 僕たちは神主さんに挨拶をすると、神主さんは素敵な着物ですねと褒めてくれた。用意してくれたのは林さんだけど、嬉しくなる。


 境内の撮影ってそれなりに厳しいような気がするんだけど、神主さんは二つ返事で答えてくれた。大国主さんは怒るような人じゃないと思うから、多分誰にも怒られない。


「よし、じゃあ二人とも並んで」


 僕とひうりは鳥居の下に並ぶ。神主さんは空気を読んで奥の方に入っていってくれた。

 僕はきっちり、ひうりはお淑やかに立つと、母は不満そうに口をとがらせる。


「もっとくっつきなさいよー」

「ええ?」


 なんだか、母というよりも友達にいじられている気分になる。それこそ、忠に撮影を頼んでも同じことを言われそうだ。

 僕たちは腕が触れ合うくらいの距離になってから、やっと撮影が開始された。


 母の撮影の腕がどれくらいのものなのか僕は知らないけど、あれほど自信満々なのだから多分きっと大丈夫。僕がちゃんと笑えてるかの方が不安だ。

 数枚撮影すると、母は更に指示を飛ばしてきた。


「抱き着きなさいよー」

「流石にお母さんの前でそれは恥ずかしいって」


 何が好きで母の前でイチャイチャしないといけないのだろうか。ただでさえ先ほどいじられたばかりで、ちょっと遠慮がちになっているのである。

 ひうりも顔を赤くしていて、恥ずかしがっているのは明らかだ。どうしようかと考えていると…


「抱き着いた瞬間、きちんと撮影してるからー」


 まだ何もしていないけど、母がカメラを構える。まるで、早くしろと急かしているかのようだ。

 僕が困っていると、ひうりがこちらを向いた。


「…一樹くんからするのは、恥ずかしいものね」


 ひうりが呟くと同時に、僕の体にひうりが抱き着いた。その瞬間シャッター音が鳴る。

 僕に抱き着いたひうりが上目遣いで見上げてきて…なんだこのかわいい人。もう君が優勝でいいよ。


「うーん、いいわねぇ。流石よ」


 顔を真っ赤にしたひうりに親指を立てる母。


 僕も同じだけ顔を赤くしているだろうけど、その姿を見て母は満足そう。こんな母からどうして僕が生まれたのだろうか。


「あと数枚撮ったら終わりましょうか」


 母がまたカメラを構える。まだ撮るのか。

 撮影回数的には十分だと思うのだけど、母的にはもう少し欲しいらしい。スタジオじゃないんだからそんなに同じ画角で撮影しなくてもいいと思うんだけどなぁ…


 僕がそう思っていると、ひうりがこちらを見て呟いた。


「あれって、もっとイチャイチャしてるのが見たいってことかしら」

「いや、そういうわけでは…んむっ」


 ひうりが僕にキスをした。頬ではなく、マウストゥマウスのキスである。


 母がキャーと黄色い声を上げる間、長い口づけが続く。約十秒ほどキスをしたら、ひうりは僕から離れた。


「これでどうかしら、お母さま」

「もう最高よ!一樹、羨ましいわー」


 テンションがおかしくなっている母を後目に、頬を少しだけ赤らめているだけのひうりを見る。抱き着くよりもキスの方が恥ずかしくないってことなのだろうか。


「ひうり、キスって…」

「私たちが今できるのってここまででしょ。それにキスは…ちょっと落ち着けるから」


 どうやらひうり基準では、ハグよりもキスの方が落ち着くらしい。僕の感性と真逆だし、その感覚はまったく理解できない。

 普通キスの方が恥ずかしいものじゃないの?身体的接触量は確かにハグの方が多いかもしれないけど、キスってもっと深い付き合いにならないとしないようなものだから…


「ほら、一樹、帰るわよ」


 母の先導で、ひうりに手を引かれながら帰宅。その間、僕の頭の中はぐるぐるしていた。


……


 夢の中。

 なぜか狐のお面をつけた夢宇と遊んでいると、ひうりがやってきた。


「今日は楽しかったわね」

「だね」

「まあ今日の感想は現実で散々やったからいいとして…」


 写真撮影のあと、夜ご飯までひうりと一緒にいて、その後僕がひうりを家まで送った。

 その道中、今日の感想を言い合い、ついでに一度のキスをしたあとに家に帰したので、現実でしたいことは本当にすべてやり切ったといった感じ。


「…なんで夢宇、狐のお面付けてるのよ」

「知らない」


 僕が具現化したわけではなく、僕が来たときには夢宇は狐のお面をつけていた。顔につけるというよりは、頭にかけるって感じなので邪魔そうには見えないけど…

 夢宇自身は特に気にしていないようで、外そうとはしていない。もしかしたら夢宇自身が望んだことなのかもしれないので、外さずにそのままにしてる。


「まあいいわ。さて、去年、ラインを超えた今年の私は強いわよ」

「どういうこと?」

「まだ正月にやってないこと、あるでしょ」


 うん?何かあったっけな…

 一日を振り返り、また先日ひうりと話し合った内容も思い出す。スケジュールしていたものはすべてやったと思うんだけど…


「姫始めよ」


 ひうりが、服をはだけさせる。ライン超えたってそういうこと!?


「また林さんの入れ知恵でしょ!ひうり、落ち着いて」

「落ち着いてるし正気よ。それと、姫始めに関しては私が自分で調べたときにたまたま見つけたことだからりんりんは関係ないわ」


 まさかの能動的な検索だった。見つけたのは偶然らしいけど、だとして実行するのはおかしいんじゃないかなぁ…


「現実のひうりも言ってたけど、こっちのひうりはちょっと淫らだね」

「開放的なだけよ。それに…その…結構恥ずかしいんだから」


 見れば、顔は普通だけど耳は真っ赤だ。別に僕は求めてないんだからやめればいいのに。


「今やめればいいのにって思ったでしょ」

「うん。恥ずかしいくらいならしない方がいいと…」

「現実でできないこと、したいもの!」


 ひうりがじりじちと近づき…そのまま僕に覆いかぶさった。

 姫始めって、女性から襲うものだっけ?

面白いと思ったら評価や感想をお願いします。現実のひうりさんはまともです

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