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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の僕らの話
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考え事をしすぎると混乱を越えて虚無になる

 クリスマスパーティーの後の朝。

 なんとか落ち着いた僕とひうりは、一緒に朝ごはんを食べていた。


「…」

「…」


 ひうりは昨日の夜に、僕に言えないことをしたらしくて、その影響で無言だ。

 対する僕は、昨日の夢の中で見たひうりの姿をどうにも思い出してしまって、目を合わせることができない。勿論、無言。


「「…」」


 朝ごはん用にあらかじめ買っておいたパンを、二人で静かに食べる。途轍もなく気まずい空気だ。


『キャン!キャン!』


 脳内の夢宇から、何か喋れと鳴き声が聞こえてくるが、今の僕にできることはない。正直夜の一連の件、僕に非はないし。

 ひうりから何かを話してくれないと僕だって話しにくい。というか、僕から話すとして何を話せというのだろうか。


「…一樹くん」

「…うん」


 パンを食べきったところで、ひうりが口を開いた。それに僕は応答する。

 口を開いてから十秒のほどの間隔が空いたのちに、ひうりが更なる言葉を紡いだ。


「その、えっと、もしかして、夢の私に何か聞いた?」

「…何かされたのは聞いたよ。何をされたのかは教えてくれなかったけど」


 顔を赤くして、噛みながらもひうりが質問する。

 前のひうりであれば想像もつかない焦り具合ではあるけれど、最近のひうりは僕の前だとこうして緩いというか砕けた対応をしてくれるので、珍しいけれど変ではない。


「じゃあ…もしかして、夢の中の私が何かやらかした?」

「どうして?」

「いえ、その、一樹くんの反応がちょっとおかしいから…」


 夢の中のひうりのあれこれな部分を見てしまって、まともにひうりに対して向き合えないというのは事実だ。そういう意味では、夢の中のひうりはやらかしてしまったと言うべきだろう。

 だがしかし、あれはひうりの責任ではない。いや勿論、前もって言っていたにも関わらず襲ってきたひうりが悪いのだけど、そこで僕はあまり抵抗しなかったのだ。責任という意味では、僕にもひうりにもあるだろう。

 そして、それを見ていたのに何もしなかった夢宇にも。


『キャン!?』


 冗談だよ。


「まあ、そうだね。やらかしては…いるかもね」


 僕が少し言葉を選びつつ、しかし、選ぶ言葉もなく直接伝えると、ひうりは一気に顔を赤くした。


「そうよね!私、なんかそういうことしてる記憶があるんだもの!一樹くんの上に覆いかぶさってる記憶が!テンションが高まってる記憶が!」

「ひうり、落ち着いて!」


 顔を真っ赤に、今までにないほど真っ赤にしたひうりが錯乱する。

 夢の中でも、とても衝撃の大きい行動というのはひうりの記憶に残ることがある。目が覚めたときに、なんとなく夢の記憶があるあれだ。


 僕は近くにあったミカンをひうりの口に突っ込むことで、ひうりを落ち着かせる。錯乱したひうりには、基本何かを食べさせると落ち着く。


「もぐもぐ……ううぅ…なんでああなったのよぉ…私たちってそういう関係なの…?」

「いやぁ、あれは夢の中のひうりの暴走というかなんというか…」


 なんでひうりがあんなことを知っていたのか全くの不明ではあるのだけど、どうせ林さんが原因だ。神無月さんのいないところで、ひうりにそういうことを教えまくったのだろう。

 あの人のせいで、ひうりのテンションが上がりすぎたときの姿が歪んだ気がする。林さんには罪を償ってもらう必要があるかもしれない。


「じゃあ、私って実はそういう性格なの?本当は私って淫らだったりする…?」

「そんなことないと思うよ。多分全部林さんが悪いし」

「…確かに、りんりんにそういうの教わった気がするわ」


 やはり林さん。林さんは悪い人だ。

 ひうりを大切にするとかなんとか言っていたけど、ひうりが歪んでしまった原因もまた林さんだ。どこかで尋問しないといけない。


「はぁ…将来が不安だわ…」

「でも夢の中のひうりと現実のひうりが全く同じとは限らないから」


 まるで子供を案ずる親のようなことを言うひうり。


 実際、夢の中のひうりが言った通りに現実のひうりが動かないこともある。どうやら僕との関わり方によって、ひうりは行動が変わるらしく、夢の中のような関わり方をするとああなるけれど、現実ではもっと違う結果になると思う。

 夢の中のひうりほど、お菓子やらなんやらで甘やかしてないしね。


「分からないじゃない。私、自分の性格に少し問題があることも自覚してるわよ」

「そんな言うほど問題があるかなぁ…」


 性格というよりも、もっと何か本質的な何かには問題があるかもしれない。多分、それはもっと小さいときの育ち方で変わるような、それこそ情緒とも言えるような何かだ。


 俗的な知識に関しては、どれも林さん経由でひうりが学んでいるのが問題な気もする。あの人、平気で冗談とか言いそうだもんなぁ…


「なんだかすべての元凶は林さんのような気がしてきた」

「りんりん?もしかして、私ってりんりんに何か吹き込まれてる?」

「だいぶ」


 少なくとも、性的な知識は林さんが教えたものらしいし…もちろん、学校の授業で習う内容ではあるけれど、林さんが大部分を担っていると言える。

 ひうりって頭はいいけれど、社会的経験が不足しているせいで、そういう学校では学べないことについての知識に疎いのだ。


「さてと…今日はもう戻るんだよね」

「ええ。もう親は家にいないはずよ」


 昨日ひうりがこの家に泊まったのは、ひうりの家に親が帰ってきていて、ひうりが帰ることができなかったからだ。例年はホテルに泊まっているらしいけど、それがこの家に変わっただけである。

 そのため、今日までひうりが泊まる必要はない。


「まあ…一樹くんが許してくれるなら、今後もここで過ごしたいけど」

「流石に厳しいかなぁ…」


 ラノベなんかじゃ、高校生の男女が二人で一軒家で過ごすみたいな作品もたまに存在するけれど…実際のところ、そんなのは家が相当なお金持ちかつ奔放主義でもないとできない。

 僕の家は困窮はしていないけど、裕福とまではいかないし、ひうりの家は言わずもがなだ。


「せめて大学生になるまで待ってね」

「大学生になったら同棲しましょうね」

「なんでそんなにやる気満々かなこの子…」


 どうにも最近ひうりがグイグイ来るけれど…まあ、特に何も問題がなければ二人暮らししてもいいだろう。大学生になれば、責任問題に関してもある程度解決するし。


「ああ、でも、私は大学には行けないかも」

「そうなの?」

「高校はなぜかお金を出してくれたけど、大学にまでお金を出してくれるとは思えないのよね。父にあってないから、どういうつもりなのかは知らないけれど」


 ひうりのお金は、すべて父親が働いて稼いだお金である。ひうりの父親は、ひうりの母とひうりにそれぞれ多額のお金を渡しているのだ。

 とはいえ、大学の学費ともなれば費用は跳ね上がる。流石にそこまでの学費は出されないだろうというのが、ひうりの予想というわけだ。


 もし大学に行けないのであれば…ひうりは就職だろうか。ひうり、社会経験が少ないけど何ができるかなぁ…


「もし大学に行かなかったら、一樹くんの専業主婦になるからね」

「専業主婦なの?」

「昼間はバイトして、あとは家事かしら」


 専業主婦って言うのは、片方が働いているという前提がないと成り立たない気がする。めちゃめちゃお金を節約すれば…いや、うーん、難しいと思うけど。


「ひうり、夢を語るのはいいけど、やっぱり難しい気がするよ」

「…ごめん、少し浮かれてたかも」


 若干トリップしていたひうりが戻ってきた。

 まだあと一年あるし、その時に考えればいいだろう。ひうりの親の問題は、まだ何も解決していないわけだし。


「さてと、じゃあ出かけよっか」

「そうね。今日もデートよ」


 昨日クリスマスデートをした僕らだけど、今日もデートをすると決めていたのだ。

 恋人とできる限り長くいたい僕たちの決定である。年末年始は、現実じゃ会う機会がなさそうだからね。


「じゃ、行きましょ」

「うん」

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