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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の僕らの話

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神社に祀られている神なんて八割は知らない

 僕の学校の近くには小さい神社がある。噂によると神主もちゃんといるしっかりとした神社らしいのだけど、生憎田舎にある神社だからか、その見た目は貧相という他ないらしい。


 ただ、そこが神社として機能している以上、僕は少し興味をそそられた。誰が祀られているのかは不明だけど、ちょっと会ってみたいと思ったのだ。

 そういうわけで、休日に僕はひうりを連れてその神社までやってきた。看板が掠れていて、神社の名前は分からない。


「本当に神様に会えるの?」

「僕は会えるけど…ひうりが会えるかは分からない。でも、多分大丈夫」

「私を一人にするつもり?」

「体感だと一秒も経たないから大丈夫だよ」


 夢宇のお礼を言うために、いつか宇迦さんに会いに行きたい。その時は、ひうりと一緒に。

 そのために、この名も知らない神様で実験するのである。罰当たりかもしれないけど、いざ宇迦さんのとこに行くときにひうりが来れなかったら嫌だから仕方ない。


「おや、参拝客ですか」

「本当にいるんだ、神主さん…」

「ええ、実在していますよ」


 神社に入ると、すぐに神主さんに見つかった。境内の掃除をしていたようである。

 田舎だから敷地は広いものの、設備は古びていて、いかにもな神社である。そういう意味では厳かな雰囲気というのを感じることはできるかもしれない。


「ここって何という神社なんですか?」

「ここは地定神社、大国主神を祀っている神社だよ」

「大国主…」


 前に神様を調べたときにいたような…確か、出雲大社に祀られている神様と同じ神のはずだ。

 まさかこんな神社でも同じ神を祀っているとは…


「彼は国造りの神でだけでなく、農業の神でもあるからね。そして、土地を安定させる神だとここらへんでは信じられているんだ」

「なるほど、ちゃんと意味があるんですね」


 そういった信仰がずっと続いているからこそ、この神社が残っているのだろう。


「参拝はご自由に」


 それだけ言うと、神主さんは建物の中に消えてしまった。倉庫のように見えるけど、何の建物だろう。

 それはともかく、ひうりを連れて参拝箱の前まで来る。いくら入れようかな…


「今は特にご縁は求めてないし…」

「百円でいいんじゃない?文句があるなら神様に直接聞きましょ」

「まだ神様に会ったことないのにひうりは豪胆だね」


 財布から百円玉を取り出して、賽銭箱に投げ入れる。箱の中で小銭同士がぶつかった音がしたので、思ったよりも参拝客がいるのかな?


「祈ったら飛ぶのね?」

「僕の場合はそうだね。目を瞑って、開けたときには神のところにいるよ。もうちょっとひうりは僕に近づいておいた方がいいかも」

「ふーん、なら服でも掴んでおくわ」


 二礼二拍手…本来は祈ったあとに一礼をするのだけど、僕の場合は一礼をするまでに時間がかかる。


 二礼の後に目を瞑り、顔を上げて目を開けると、そこは白い空間だった。やはり、こんな小さめの神社でも神のところへと飛ばされるようだ。

 横を見ると、そこにはひうりがいた。やはり、ひうりはこっちに来れるらしい。


「ひうり、来たよ」

「…そうみたいね」


 なんだか微妙な顔をしているひうり。どうしたのだろうか。


「私、夢の方のひうりよ」

「あ、そっか。これが寝るのと同じような現象だとすると、ひうりは夢の方の意識で来ちゃうのか」

「そうみたい。現実で私が寂しそうな顔をするから覚悟しなさい」

「そっかぁ…」


 夜の夢の中での出来事を覚えていられないように、神の世界での出来事もひうりは覚えていられないのだ。なんというか、かわいそうである。


「キュン!」

「夢宇もいるのね」

「夢宇は僕の精神にくっついているみたいだからね。こういうところにも付いて来るんだ」


 僕がこの世界に来ると、夢宇は基本的に足元にいる。そして、鳴いて僕たちに知らせてくれるのだ。


 周囲を見渡すと、何もない。宇迦さんのところみたいに近くに茂みがあったりもしない。さて、どこに行けば神様に会えるのだろうか。


「キュンキュン!」

「あっちみたいよ」


 夢宇が鳴いて前に出る。

 夢宇が僕たちの前を歩いて先導してくれるらしい。神様探知能力でもあるのかな。


「向こうにいるみたいね」

「行ってみよう」


 夢宇に導かれるままに白い空間を進む。

 神の空間は僕の夢とは違うので、僕が何かを出現させることができないので、進む道中にできることと言えば喋ることしかない。


 まあ、喋るだけでも時間はいくらでも過ごせるけどね。


「これって現実でも時間は過ぎていないのよね?」

「そうみたいだよ。宇迦さんと同じような空間ならね」

「なら現実の私が寂しく感じることはないかしら…」

「でも現実のひうりは行けてないと思うから…」

「なら寂しく思うかもしれないわね」


 ずっと白い空間なのでどれくらい歩いたのかは全然分からないけれど、しばらくすると、白い空間の中に社が見えた。

 あれが大国主さんの社だろうか。


 夢宇が階段を登って社の中に入って行ってしまった。


「夢宇、大丈夫かしら」

「あれでも神獣みたいなものだから大丈夫だと思うよ」


 僕らが社に入ろうとすると、先に社の中から足音が聞こえた。


「おお、こんなところに訪問者とは、珍しいな」


 大柄の男性で、教科書に出てくる縄文時代の人物のような服装だ。そして、その手には夢宇が掴まれている。


「宇迦の狐が来たから、あいつが来たかと思えば、人間とは」

「失礼してます」


 宇迦さんとは違って標準語だ。神様によって見た目も喋り方も全然違うんだなぁ…


「そりゃ神とて十人十色だからな!」

「あ、心読まれるんだった」


 僕の心の中の言葉に先に答えられた。宇迦さんと同じように大国主さんも心が読めるようだ。


「む、それは違うぞ。神とて心を読むことなどできない。あくまで、感覚でこんなことを考えているんだろうと予測しているだけだ。無論、宇迦もな」

「え、そうだったんですか?」

「宇迦は見栄を張る癖があるからな、無理もない」


 なんというか、神様像がどんどん壊れていくなぁ。このことを神主さんとかが知ったらどう思うのだろうか。


「ねえ、二人の間だけで分かったようなことを話さないでよ」

「ごめんごめん。あなたが大国主さんですね?」

「ああそうだ。長いからオークさんとでも呼んでくれ」

「いや、それはちょっと…」


 なんだか急にRPGに出てくる敵キャラみたいになってしまった。流石に神様をそう呼ぶことはできない。


「お前たちは?」

「えっと…ちょっと特殊な人間で、ちょっと会いに来ました」


 僕たちが何だと言われたら…何なのだろう。別に研究をしているわけでもないし、専門知識があるわけでもない…強いて言えば観光客だろうか。


「宇迦の使者ってわけじゃないんだな」

「その子は宇迦さんから預かったんです。僕たちのためになるからと」

「ふむ…確かに、お前らのためになっているようだな」


 大国主さんは夢宇を下した。夢宇はこちらに走ってきて、ひうりの影に隠れる。

 どうやら、大国主さんに捕まれたのが怖かったらしい。


「別に何か用があったわけじゃないんだな」

「そうですね…神様に会えるかという確かめ、ですかね」

「ははは!私は実験体か!」


 快活に笑う大国主さん。なんだかとてもフランクというか、普通の人と話しているような気分になる。


「お前ら、名はなんという」

「中野一樹です」

「佐倉ひうり」

「ふむ、覚えておこう」


 なんだかひうりの言葉に覇気がないなと思い、ちらっとひうりの方を見たら、なんだか少し青い顔をしていた。


「大丈夫、ひうり?」

「むしろなんで一樹くんはそんな平然としてられるのよ…」


 僕には感じられない何かがあるのかな。


 取り敢えず精神安定剤として、夢宇を腕に抱かせた。すると、少し落ち着いたようだ。


「一樹よ、そやつを神のもとへ連れてくるのはやめた方がいい」

「そうなんですか」

「ああ。そやつの魂はお前のものとは違って希薄のようだ。神の威光で消えてしまう」


 そういえば宇迦さんも、ひうりはちょっと僕とは環境が違うなんて言ってたな…


「これをやるから、早く帰るといい」


 大国主さんはこちらに何をを放り投げた。僕がそれを掴むと、それは小さい鈴だった。


「それは清純な響きのする鈴だ。きっと彼女の精神を落ち着かせるだろう。妻を多く持った私が言うんだ、間違いない」

「ありがとうございます」


 とてもきれいな色の鈴だ。試しに鳴らしてみると、確かにとてもきれいな音である。


 顔を上げると、そこにはもう大国主さんはいなくなっていて、ひうりの顔色は落ち着いていた。

 僕が安堵すると同時に夢宇の鳴き声が響く。


「キュウウウウウウン!!」


……


 気がついたら、元の神社の前に戻ってきていた。前のときも思ったけど、夢宇は僕たちのことを現世に戻す力があるのかな。

 宇迦さんのときは別の神に移動させられたけど…


 僕が顔を上げるとともに、ひうりも顔を上げた。僕の思慮が足りなくてごめん…と思っていたら、


「…あれが神なのね」

「覚えてるの?」


 なぜかひうりは夢の中のことを覚えていた。正確に言うと、大国主のことを覚えていたらしい。流石に神様の姿を忘れることはなかったらしい。


「帰りましょ。ちょっと、怖かったわ」


 そう言うと、ひうりは僕の腕に抱き着いた。近い…けれど、ひうりが怖がっているのは本当みたい。


 宇迦さんへのお礼参りは一人かな。

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