気が強い高嶺の花は現実でも僕の恋人
『一樹くんと、もっと仲良くなれました』
『よかったね、ひう』
『おめでとうございます』
……
「私と一樹くんの恋愛成就を祝して、乾杯!」
「か、かんぱーい」
「キューン!」
夢の中で、僕たちは乾杯していた。
ひうり曰く、やっとの思いで成したことだから祝うのは当然とのこと。
「本当に長かったわねぇ…」
「そうだね」
僕たちは炭酸ジュースを飲みながら、カップケーキを食べる。この二つはひうりが求めたものだ。なお、夢宇には普通のジュースとケーキにしている。
「それにしても、なんでここまで現実と夢でひうりの感覚が違うんだろう」
「やっぱり気の持ち方だと思うわよ?だって、夢の中の私たちはもう何か月も一緒にいるわけだし…現実でやっと恋を知ったばかりの私と考え方が違うのも仕方ないと思うの」
現実との乖離のせいで、何度ひうりに振り回されたことか。終わりよければすべてよしなんて言葉はあるけれど、そこに遺恨が残らないというわけではないのである。
まあ、許すけど。
「これで現実でもイチャイチャできるわけね」
「イチャイチャしたいの?」
「うーん…現実の私はどちらかと言えば安心したいから…一方的に甘えるかもしれないわね」
夢の中のひうりは結構アグレッシブだ。やりたいことがあればすぐに実行するし、僕に色々と要求してくる。
僕もそれを楽しんでいるのでいいけれど、それはやはり夢の中ならではの行動なのかもしれない。
「まあ、どっちの私も愛してくれるなら大丈夫よ」
「それは勿論」
どっちの方が大切とか、そういう話はしない。なぜなら、どっちもひうりであって、どっちも大切だからだ。
夢の中だからって、このひうりを蔑ろにすることはないし、過ごした時間が短いからと言って現実のひうりを遠巻きにするわけでもない。そも、どちらかを優先しないのは、今までと同じなのだ。
「よろしくね、一樹くん」
……
朝起きて、自分の教室に来ると、そこにはひうりがいた。いつも通り、僕の席の近くにいる。
「おはよう一樹くん」
「おはようひうり」
昨日はあれだけ色々あった僕たちだけど、それさえ乗り越えればいつも通りだ。そんな甘い空気を出すようなタイプでもないしね。
とはいえ、先日のひうりの名前呼び事件から明らかに雰囲気が違う。それに対して男子たちが最初こそは騒いだものの、そのあとは何の音沙汰もないのは不自然だ。
今も、僕たちが挨拶している間、男子たちは普通に朝の雑談をしている。
「ひうり、やっぱり男子たちの反応おかしくない?」
「絡んでこなくていいじゃない。きっと皆私に興味を失くしたのよ」
絶対にそれはない。一種の暴徒みたいになってたし、様相だけで見るなら熱狂的なファンとも言える男子たちがそう簡単に興味を失くすとは思えない。
そんなことを思っていたら、忠がやってきた。
「よう、一樹」
「おはよう忠。男子たちの反応、何か知ってたりする?」
「さあな。興味を失くしたんじゃねえの?」
忠があっけらかんにそんなことを言う。忠は面識が広いし、何も知らないってことはないと思うんだけどなぁ…
「進藤くんもそう言ってるし、気にしなくていいわよ」
「うーん…まあ、確かにそうか」
実害がないので、放置でいいか。また廊下拉致みたいなことがあれば困るけど、何の反応も示さないなら問題はないと思う。
先日はあれほど取り乱していた忠が通常運転に戻っているので、何かあったら忠を頼ることにしよう。忠は忠で怖いんだけどね。
「そうだ、一樹くん」
「うん?」
「今日からは一緒に帰りましょ。私が一樹くんについていくわ」
ワクワクした様子で言うひうり。なんだか、今までよりも少女らしい反応をするようになったなぁ…
「いいよ。でも大丈夫なの?」
「大丈夫よ。遅くなっても誰も何も言わないわ」
警察に補導されるほど遅くなると親に連絡が行くので面倒なことになるが、そうでなければひうりはいつ帰ってもいい。ひうりを怒る親がいないのだ。
怒る親がいないので、僕が代わりに怒るのだ。
「だめだよひうり。ちゃんと早めに帰らなきゃ」
「…しょうがないわね…」
不服そうに言うひうりが、なんだか幼い子供に見える。
容姿も勉強も運動もどれも優れているひうりだが、親からの教育があまりないせいで、たまに子供らしくなるのだ。
僕はそういった面でもひうりを支えなければいけない。甘えさせるだけでは足りないと思いますまる。
「そうそう一樹」
「うん?」
「お前と佐倉さんは恋仲ってことでいいんだよな?」
急にそんなことを言ってきた忠。僕が返答に詰まっていると、代わりにひうりが答えてくれた。
「ええ、そうよ」
「やっぱかー…教えてくれてありがとうございました」
それだけ言うと、教室を出て忠はどっかへ行ってしまった。
なんだったんだ一体。
「一樹くん、これからよろしくね」
「こちらこそ、よろしくね」
解決してないこともあるけれど、僕とひうりは現実でも恋人になったのだ。ひうりを支えるためにも、僕が頑張ろう。
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