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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の彼女の話

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54/84

移動時間の方が長いのは精神的に疲れる

 修学旅行三日目。明日はほとんど帰るだけのスケジュールなので、楽しめるのは今日までということになる。

 今日は京都を少し離れて、奈良の奈良公園まで行く。移動時間はおよそ一時間だ。


「一樹、奈良って何があるんだ?」

「大きな仏像とか…鹿?」

「鹿かー」


 鹿が人間に慣れすぎてて、普通に道路とかを歩いているらしい。奈良には行ったことがないので、楽しみである。


 僕の夢の世界では、人間を再現することができない。人形みたいになってしまって、不気味なものとなる。それと同じように動物を再現することもできないのだ。

 夢宇が来てくれたおかげで動物が増えたけれど、普通の動物と触れ合うにはこうして直接出会いに行くしかない。


「大仏は興味ない?」

「興味あるように見えるか?」

「いや、ない」


 でも、博物館とは違って見ごたえがあるので、忠でもそれなりに楽しめるような気がする。

 忠はアグレッシブなものが好きなのだ。修学旅行ではレジャー施設に行く予定がないので仕方ないが、忠にとっての理想コースは遊園地である。


 この修学旅行に大阪のUSJに行く予定があったら、もっとテンションが高かったのだろうけど…


「ま、鹿を愛でてやるかー」

「一応神の使いみたいなものだからね、あれ」


 鹿は数がいっぱいいるせいで、どうしても夢宇とは違って凄さみたいなものはないけれど、神の使いとして保護されてきたのは間違いない。

 スマホで調べてみたところ、昔神様が神鹿に乗ってやってきたとかなんとか…よくわからないけど、鹿は神聖な生き物らしいということが分かった。


「ほへー。でもこれって鹿は結局ペットだったんじゃね?」


 僕のスマホを横から覗き込む忠がそんなことを言う。


「うーん…でも蔑ろにしていい理由にはならないよ」

「まあそうだけどな」


……


「まじで鹿いっぱいいるな…」


 バスの長い移動のあと、僕たちは奈良公園までたどり着いた。


「きゃあ、バッグ食べないで!」


 早速誰かが鹿にバッグの紐を食べられている。

 ここの鹿は人間慣れしていて、野生感は少しないけれど、それでも野生の鹿なのだ。目の前に動くものがあれば、すぐに食べてしまう。


「鹿に気を付けながら東大寺に行きますよ」


 ここでは自由行動ではなく、団体行動で移動する。チケットとかの関係上、今日行くところは基本的に団体行動だ。


「あ、鹿せんべい食べさせてる」

「美味しいのかね、あれ」

「忠も買って食べてみたら?」


 色んなところで売ってるし、鹿が食べられるものなのだから人間にも害はないだろう。


「鹿せんべいは味もないし後味も悪いから食べることはお勧めしないわよ」

「森本さん、食べたことあるの?」

「そんなわけないじゃない。伝聞よ、伝聞」


 鹿せんべいは食べない方がいいらしい。


「へー、むしろ食べてみたくなったな」

「忠、そういう趣味…?」

「ちげーよ!好奇心だ」


 まあ本当に食べるというのであれば止めはしないけれど。鹿せんべいを食べる前に飲み物を用意しておくことを注意しておこう。


 しばらく歩くと、大きな建物が見えた。大仏が奉納されている、東大寺である。


「おー!写真撮ろ」


 東大寺は見るからに大きな建物であり、写真映えする。他の生徒たちも写真を撮影しており、観光客たちも写真を撮っている。

 写真を撮っている人が多すぎて、ここで集合写真を撮るのは難易度がとても高いだろう。


「中に入れるのか?」

「ここまで来て外観だけ見て帰るなんてことはないよ」


 先導に従って東大寺の中に入る。そこにはとても荘厳な大仏がいた。


「凄いなこれ。写真撮ろ」


 過去の修学旅行生の中には、スマホの写真容量がいっぱいになってしまって泣く泣く撮影を諦めた人もいるらしい。修学旅行の撮影事情は複雑なのだ。

 今ではスマホの容量も上がっているし、そうそういっぱいになることはないだろうけど…


 とはいえ、東大寺の中はそこまで見るものもないので、生徒たちはすぐに外に出てしまった。近くで見るよりも遠くから見た方が迫力もあるし、写真も撮りたくなる。

 撮りたくなるのだけど…


「鹿の方が写真撮られてね?」


 忠は途中でその事実に気が付いてしまった。

 勿論東大寺を撮っている人は多いのだけど、それと同じくらい鹿を撮っている人が多いのだ。あまり鹿を間近で見る機会などないから、物珍しさに撮影している人も多いのだろう。


「でも鹿ってよく見るとかわいいのな」

「そうだね」


 それに頑張れば背中に乗れそうだし、神の使いという役割はしっかり果たせそうだ。


『きゅーん!』

「え?」

「どうした?」


 僕の声に忠は振り向く。

 今夢宇の声が聞こえたような…


『きゅーんきゅーん!』


 あ、頭の中に声が響く…まさか、寝ていないときは僕の頭の中に夢宇はいるというのか。だとしても突然泣き出してどうしたのだろうか。


『きゅやーん…』


 …もしかして、僕は鹿を褒めたから抗議してるのだろうか。使者の間に因縁があるとは思えないけど…神様事情はよく分からないので推測で話すべきじゃないな。


『えっと…ごめんね』

『きゃーん!』


 頭の中で考えると、夢宇から返事があった。そして静かになった。

 どうやら僕の頭の中にいることは確実らしい。うーむ、今までで一番不思議生き物の一面を見た気がする。


「どうしたんだ、一樹」

「あ、ごめん。虫にびっくりした」

「お前なぁ…つかお前の服食われてるぞ」


 下を見ると、僕の服の裾を鹿が食べていた。美味しくないよそれ。

 しばらくモグモグしたあと、美味しくないことを理解して離れて行った。うーん、食べられたところがベタベタしている。


「災難だったな。虫にも鹿にも襲われて」

「襲われたわけではないけどね」


……


 東大寺を見終わったあとは、少しだけ移動して五重塔までやってきた。

 奈良の都は代表的な建物が多すぎて、奈良を代表する~って表現をすると行くとこ全部をそう表現する必要が出てくるから大変だ。


「お、五重塔だ。写真撮ろ」


 今日の忠はカメラマンらしい。見る建物をすべて保存しておくつもりだろうか。


「あ、中野く…」

「おーっと!こっちの画角が完璧だ!」


 そしてここでも、忠のひうりディフェンスは続行中だ。ひうりが近づいて来ると、うまい具合に僕とひうりの間に挟まってくるのだ。

 そのおかげで、僕は未だに修学旅行の中でひうりと喋っていない。


 とはいえ、流石にわざとらしさがある。とうとう、ひうりディフェンスを続ける忠に声がかかった。


「進藤くん、ちょっといいかなー?」

「え、あ、林さん、うすっ」


 林さんに凄まれて、忠は動きを止めた。ひうりを大切に思っている林さんからすると、ひうりの邪魔をする忠は許せないのだろう。

 林さんに連れられて、忠は隅っこの方に連れてかれた。きっと尋問が始まるのだろう。


 忠が林さんに連れてかれた結果、忠はひうりディフェンスをすることができない。ひうりはこの隙に僕に話しかけようとする。


「えっと、中…」

「中野くん、ちょっとこっち来て」


 ただし、ひうりディフェンスを面白がっているのは忠だけではない。

 初日のバスの中で、忠のひうりディフェンスの話を聞いて同調した人がいる。それが、中谷さんだ。中谷さんに腕を引っ張られて、佐々くんの横に並べられる。


「写真撮るよー」


 中谷さんがスマホを構えて、写真を撮る。それが中々長く、途中でひうりは諦めて去っていった。


「ふぅ、こんなもんかな」

「中谷さん…」

「ひうりちゃんの困った顔、いいね。面白い」


 少し悪い顔をしている中谷さん。あまり話したことのなかったけれど、こんな人なのか…


 しばらくすると、林さんと忠が戻ってきた。


「いいね、私もするー」

「え、林さん!?」

「よし、仲間を増やしてきたぜ!」


 なぜか林さんもひうりディフェンスに参加することになっていた。同じクラスの同じ班である林さんが参加すれば、それこそひうりの行動をすべて止められるようになるような…


「ひうがしたいことは分かったからね。私もせざるを得ないでしょ」

「そうなの…?」


 僕は未だにひうりの目的がわかっていないのだけど…


「じゃあ、修学旅行中はひうりを彼氏くんに近づけないようにしよー!」

「「おー」」


 謎の団体が形成されつつあった。

面白いと思ったら評価や感想をお願いします。作者は奈良のことを書くためにいっぱい調べました

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