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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の彼女の話

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53/84

自由自在と謳っていても、何かしら制限があることが多い

 夢の世界にやってきた。

 今日宇迦さんから受け取った狐の姿はないけれど、どこにいるのだろう。


 そう思ったら、足元に衝撃を感じた。見下ろしてみると、そこには宇迦さんからもらった狐がいる。


「どこにいたの?というか、僕が起きてる間はどこにいるの?」

「キューン」


 神域にいた狐だし、概念的な存在なのかな。まあ、問題なく生活できているようなら大丈夫のはずだ。蔑ろにしたら宇迦さんから怒られそうだし。


「今日はたい焼きにするから…先に君にあげるよ」


 僕はたい焼きを具現化させて、狐の前に置いた。

 狐はクンクンと匂いを嗅いだあとに、ムシャムシャ食べだした。地べたにあるものを食べている割にきれいに食べるんだなぁ…


「一樹くん、こんばんは」

「あ、ひうり」


 いつの間にかひうりが目の前にいた。

 狐はひうりに気が付いて、そちらに近づき足元にすり寄る。宇迦さんは僕に狐が懐いてるからと言っていたけど、あの子は誰にでも懐くのではなかろうか。


「ひゃあ、この子は?」

「えっと…」


 僕は今日の自由行動中に、伏見稲荷神社で宇迦の御霊に会ったことを話した。

 普通なら信じられるような話ではないけれど、この夢の世界からして信じられない話なので、ここのひうりにはすぐに信じてもらえた。


「それでこの子なのね。名前は?」

「え?うーん、知らないけど…」


 名前、あるのだろうだろうか。宇迦さんもこの子とかこやつとしか呼んでなかったし、もしかしたら固有名はないのかもしれない。


「君、名前あるの?」

「キューン」


 まあ返事はないけれど。


「狐ってコンじゃないのね」

「それは僕も思った」


 コンという鳴き声はどこから生まれたのだろうか。少なくとも、実際の狐の鳴き声からコンという擬音は生まれないような気がするのだけど。


「じゃあ私たちで名前を付けましょ。今後はずっとここにいるんでしょう?」

「みたいだよ。宇迦さんから返してって言われない限りは」


 僕たちの足元でお座りをしている狐。見た目は普通の狐だけど、実際は神の使い。しかしながら、ここのペットになりそうだ。


「オスなのかしら。メスなのかしら」

「知らないや」

「一樹くん。動物を預かるのに何も聞いてこなかったの?」


 いや、だって狐を貰う話になったら、すぐにあの男性が来て戻ってきてしまったし…


「狐のオスメス判断ってどうするのかしら」

「それはやっぱり…」


 僕は狐を抱き上げて、お尻を見た。

 尻尾に隠れて見えないけれど…メスみたいだ。


「じゃあ…仙子にしましょう」

「それは別のところから怒られるかも…」


 狐の女の子ではないけれど、狐の仙子さんは多方面に怒られる。


「なによそれ。なら…夢宇(むう)はどう?」

「宇夢?」

「宇迦の御霊からもらった夢の狐でしょ?なら夢宇よ」


 なるほど…人間ならキラキラネーム扱いになるだろうが、ペットにつける分にはかわいいかもしれない。


「君はそれでいいかい?」

「コヤーン」

「いい、のかな」


 顔をぶんぶん縦に振る夢宇。いまいち人間の言葉を理解しているのかどうかわからないな。

 宇迦さんの言葉もあまり理解している様子ではなかったし、なんとなく雰囲気で人間の言葉を判断しているのかもしれない。


「それで…夢宇って何をするの?」

「何も。いてくれるだけでこの世界が安定するとかなんとか…」


 一応何かしらの力があるはずなので、その効果で夢宇がいるだけで夢の世界は安定するはずだ。


「じゃあただのペットなのね」

「神の使いに対してペットって言うのもどうかと思うけど…端的に言えばそうだね」


 それこそ宇迦さんの信仰が根深い地域とかに連れて行けば、神獣として崇め奉られると思うけれど、別に僕たちはそこまで信心深いわけではないので、ただのペットとなってしまう。

 撫でても逃げないし、ごはんなどは僕の創造でいくらでも作れるので、現実で動物を飼うよりもよっぽど飼いやすい。


「なら夢宇のために家具を用意しましょ」

「クッションとかってこと?」

「ええ」


 狐の生態に詳しくないので、何が必要なのかは不明だけれども、取り敢えず夢宇が眠れそうな動物用のベッドを作り出した。イメージは犬のベッドだ。

 夢宇はベッドの匂いを嗅いだあと、その上で眠りだした。飼い猫などは警戒心からか、新しいものにはあまり寄り付かないと聞いたけど、狐はそんなことないのかな。


「あ、ひうり、今日はたい焼きだよ」

「あらありがとう」


 籠の中に色んな味のたい焼きを出した。見た目では何味かわからないので、楽しみながら食べられるというルーレットたい焼きだ。


 そんなたい焼きを食べながら、ひうりはこう言った。


「そろそろ私たちの家を作らない?」

「僕たちの家?」

「そう。いっつも白い部屋に来るから、ここを私たちの理想の部屋にしない?安心感が欲しいのよ」


 僕たちが今いるのは白い空間だ。この白い空間は、僕たちが初めて夢の世界に来た時からずっとデフォルトで存在していて、いつもここから学校とか浜辺とかを投影して景色を作っている。


 だが、確かに安心感はない。宇迦さんの神域も白い空間だったので、ここが神域モドキって言ってたこともこの白い空間に関係があるだろうけど、ずっと白い空間というのも落ち着かないかもしれない。


「それに、夢宇のベッドがポツンと置いてあるだけなのも寂しいじゃない」


 この白い空間には、元々時計を置いてある。そこに夢宇のベッドが追加されたわけだけど、寂しさは薄れない。むしろこの二つが浮いてしまっている。

 この二つが馴染むには、もっと物を置かなければいけない。それこそ、家とまで言えるくらいには。


「それもそっか…じゃあ部屋を作ろう」

「やった!理想のマイホームを作りましょ」


 どんなゲームよりも自由にクリエイトできる家だ。理想の家も作れるだろう。


「まずは部屋の大きさをそれなりにしましょ。壁があった方が嬉しいわ」


 白い空間の壁は、あったりなかったりする。あると思えばそこに壁ができるし、ないと思えば無限に進めるのだ。

 そこに物理的な壁を用意する。家ってことだし、木の壁でいいかな。


「いいわね。ここはリビングにしましょ。夢宇をあっちにして…」


 ひうりの指示で部屋を作っていく。

 夢宇のためのスペースも用意した。ベッドを移動させるときも起きなかったので、用事がないとき以外は寝ているのかもしれない。


「一樹くんもちゃんと要望を出しなさいよ」

「いやぁ、僕は特に…」

「だめよ。ちゃんと要望を出しなさい」


 久しぶりに夢の世界で気の強い面を見た。ひうりが彼女になってからは、久しく見なかったものだ。


「じゃあ僕はここらへんに本棚を…」


 二人で一緒に部屋を作っていく。


「リビングはこんな感じね」


 最後にソファを用意して、リビングが完成した。玄関口も存在しているけれど、外は未だに白い空間のままだ。

 外から見たら、大きな箱があるように見えるだろう。まだリビング以外は作っていないからだ。


「一樹くん、ちゃんとこの部屋を覚えてちょうだい」

「分かってるよ」


 いつでもこの家を作れるように、記憶していく。

 とはいえ、完全記憶持ちじゃないので、次回からはひうりに間違いを注意してもらいながら覚えていくことになるだろう。


「今日はこれで終わり!」

「あれ、家を作るんじゃなかったの?」

「一日一部屋にしましょ。疲れちゃうわ」


 リビングだけでも安心感があるし、いっか。

 それに正直ほとんどリビングしか使わないだろう。別の部屋はフレーバー的な部屋にしかなるまい。


「…寝室は最後ね」

「え?」

「なんでもないわ!」


 残念ながら僕は難聴系主人公ではないので、普通に聞こえてしまったけれど、寝室って言った?しかも最後って…僕は健全だ。


「えっと、えっと…夢宇、おいで」

「キューン」


 寝ていた夢宇はすぐに起き上がり、ソファに座るひうりの膝の上に乗った。


「住人が増えて、にぎやかになるわね」


 話を逸らすひうり。逸らされてあげよう。


「そうだね。夢宇、これからよろしくね」

「コン!」


 あ、コンって鳴いた。

面白いと思ったら評価や感想をお願いします。夢宇の見た目は一般的な狐となんら変わりません

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