京都のパワースポット、まじですごい
朝ごはんを食べて、準備をして、ホテルを出た。
今日は京都市内を自由散策する日だ。昨日博物館を回ったときの班で、京都市内を自由に歩くことになっている。お土産などを買いたいなら、この日に買っておくのが最もいいらしい。今後のスケジュールで、買い物タイムが用意されているか不明だからだ。
「さてと、相当な時間があって、スケジュールも完璧だ」
「スケジュールを書き出したのは私ですけど」
「森本さん、感謝だ!」
一日中京都市を散策するうえ、昼食も各自で選んで食べることになっている。班によっては昼食を食べずに歩き回るところもあるらしい。
倒れても知らないぞ。
「まずはどこだ?」
「ここから近いのは伏見だけど…私たちは最初から金閣寺まで行くわ」
「その心は?」
「だって、みんな伏見神社に行くじゃない」
今回の自由散策は、最終的なゴールがこのホテルに設定されている。つまり、時間までにここに戻ってくる必要があるのだ。
そのため、人が集まる今行くよりも、午後の人が減ったタイミングで帰路の途中で寄る方がよい…らしい。スケジュールの大半は森本さんが決めてくれたので、信用しよう。
「嵐山に行きたいって人はいなかったから、金閣寺まで行ったら戻ってきながら色々見る感じね」
「忠、嵐山に行かなくてよかったの?」
「どういう意味だそれ」
だって忠って雰囲気は…睨まれたのでやめておく。大丈夫、実際は優しい人だってわかってるから。
「金閣寺ならここからバス一本ね」
「さっさと移動しようぜ」
僕たちは金閣寺を目指してバスに乗った。
……
京都は年中観光客で溢れている。
たとえ同じ学校の修学旅行生を回避したとて、観光スポットである以上人は多く、荒波に揉まれることとなるのは仕方ないことなのである。
「うーん…これじゃあ少しスケジュールを変更しないといけないわね」
「やっぱりこの時期は人が多いな」
そもそも、別の学校の修学旅行生だって来ているのだ。人数が増えてしまうのはどうしようもないのだ。
「はぐれんなよー」
「佐々くん、大丈夫?」
「うん…」
金閣寺の人が多い!
金閣寺を見て回るための順路が存在しているのだが、マナーの悪い観光客がたまに逆走してくるので猶更動きづらい。順路って書いてあるんだからそのまま歩きなさい!
しかし、僕にはここの景色を記憶しておくという使命があるのだ。ひうりと一緒に見て回れない分、夢の中で見るのである。
そのためにも、景色はしっかり見て、可能ならば写真も撮りたいところだ。
「一樹、こっちだ!」
人混みの中を進み、やっと少しだけ空間がある場所に来た。一応金閣寺は見えるが、見えにくいからあまり人がいないのだろう。
「一樹、はいチーズ」
そこで突然写真を撮られた。不意打ちだったため、僕も一緒にいた佐々くんもなんとも言えない表情で写っていることだろう。
「智花、はい」
「ありがとう」
森本さんたちも写真を撮っているらしい。思い出、大事。
とはいえ、人の流れがあるので写真を撮ったらさっさと移動しないといけない。移動に時間がかかるのに、目的地になったら早く移動しないといけないなんて矛盾している。
「ふぅ…」
「なんだか最初から疲れたー」
エリアの外に出たとき、僕たちは既に疲れ切っていた。人混みの体力の消費量が凄まじい。
「早速休憩したいな」
「移動しながらにしましょう。市街地に戻るわよ」
森本さんの先導で市街地に戻るバスに乗る。
金閣寺の近くで買えるものは、大抵市街地でも買えるらしい。京都市街の中心からそんな離れてないし、流通が多いのかな。
人が多くて休憩にならないバス移動を挟み、市街地まで戻ってきた。
「お土産っていつ買うんだ?」
「荷物を増やすと移動しづらいので午後に買うの。このまま市街地は通り過ぎて銀閣寺に行くわ」
金閣寺と銀閣寺は、それなりに離れているのだ。移動だけでそれなりに時間を費やすことになる。
「ちょっと休みたいんだが…」
「午後は空き時間を多めにしてるから休めるわよ」
森本さんはしっかりしており、スケジュールがあるならその通りに動く。あまり自分を曲げたりしないのである。
「バスは…これね」
……
その後、銀閣寺、清水寺を周った僕たちは、市街地まで戻ってきていた。時間は二時で、遅い時間だけど軽くご飯を食べる予定だ。
本来は昼食の時間に食べる予定だったのだけど、それぞれの観光地でやたらと時間を奪われたせいで、スケジュール通りに動けなかったのが悪い。
でも、午前中だけで三つも周るスケジュールはそもそも悪いような気がするんだけど、気のせいだろうか。
「さて、ここからは適当に時間をとってるから、自由に歩きましょ」
「ああ…そうだな…」
流石の忠も、何度も人混みに呑まれ塗れ流されたので疲労している様子。佐々くんと中谷さんはもっと元気がない。
そして、スケジュールを組んだ森本さんも疲労しているみたいだ。そして、僕も疲れている。
このように、班員全員が疲れているときに市街地を周る元気などなくて…
「もうそこらへんのレストランかファミレスに入ろうぜ…」
「…そうね」
「…うん」
「…座りたい…」
「…僕も」
散策もなく、バスターミナル近くの飲食店に入ることになるのだ。
どのみちランチタイムは過ぎているので、どこに入ったところであまり変わらない。京都らしい料理は普通のところでも出るだろう。
入ったのは、少し老舗感のあるお店。ここなら何かしら珍しいものも食べられるだろう。
「なんか、昼を過ぎて疲れたからあまり食欲ねえな」
「昼食がずれたのは申し訳ないわ。銀閣寺から清水寺が近かったから…」
京都の観光スポットとなると、金閣寺、銀閣寺、清水寺の三つが特に挙がるだろうけれど、実のところ金閣寺だけが遠いのだ。地図上で見ると分かるのだけど、銀閣寺と清水寺はそれなりに簡単に移動できる距離にあるのである。
「責めてるわけじゃねえよ。適当にサンドイッチにしようっと」
「私も」
「僕は…」
うーん、普通の料理しかないなぁ…というか、京都らしい料理って料亭とかじゃないとないのかもしれない。となると別にこだわる理由はないし…
「鯖寿司にしようかな」
一応京都らしい料理ということで、鯖寿司にする。これも京都の料理なのは間違いないので、ここで味わっておくことにする。
「もしかしたらホテルの料理で出るかもしれないぜ?」
「まあその時はその時だよ」
ちょっと古めの店だからこそ、鯖寿司もあるのだろう。少なくともチェーン店とかだとメニューにはならない。
「なら僕も鯖寿司にしようかな…」
「いいわね。私もそれにする」
佐々くんと中谷さんも鯖寿司にするらしい。
何も食べないよりも、何かしら食べた方がよく、それでいてあまり食べすぎると夜ご飯が食べられなくなるので、ちょうどいい量だろう。
……
鯖寿司、思ったより大きかった…
「大丈夫か、一樹」
「うん…お茶買わせて…」
多分あれ単体で食べるやつじゃない。何かしらと一緒に食べるのだと思う。ついでに言うと、一人一個という計算で作られていないような気もする。
「えっと…じゃあ、あとは京都タワーでも見ながら伏見稲荷神社に向かいましょうか」
尚京都タワーはここからでも見える。
京都のランドマークであり、あまり高い建物がない市内だととてもよく見えるのだ。
「あ、そうそうお土産も行きながら買いましょ」
「りょうかーい」
今までの三つの観光地を見るに、お土産を持っていたら大変だっただろう。そう考えると、森本さんは慧眼だったとも言えるだろう。
伏見稲荷も人は多いだろうけど、タイミングはここくらいしかない。
「んじゃ市街の方通っていこう」
「そうだね」
忠の提案で、市街地の中心通りを歩く。道の向こう側には京都駅も見える。
この道にはお店も多く並んでいるので、買い物には良い。京都駅を見るのが一番お土産を探しやすいとかは禁句だ。
僕が買うお土産は大抵お菓子。キーホルダーで喜ぶような親ではないし、ひうりのためにもお菓子は買わねばなるまい。
「なんだこれ、妖怪?」
たまに変な商品も置いてある。やはり平安時代の影響か、妖怪とかの商品も多い。唐笠って普通に売ってるんだ。
あとデフォルメされたお化けなんかは妖怪とも関係ないと思う。でも、妖怪の商品よりも減っているみたいだから、売れてるんだろうなぁ…
「お化け…いいわね」
「森本さん、妖怪とか好きなの?」
「え?うーん、そうね。幽霊は好きよ」
こういう人がデフォルメお化けを買っていくのだろうか。京都で買う理由はないような…いや、思い出とかもあるので、お土産の内容に色々言うのは無粋だろう。
誰もあまり大きなものは買わず、持ってきているリュックなどに入れられるだけを買ったら、伏見稲荷神社へ。
「おお!これが鳥居!」
「鳥居はどこにでもあるよ」
「おい、伏見稲荷でそんなツッコミはいらないだろ」
伏見稲荷神社の名物、長く連なった鳥居はとても写真映えする。うん、ここは夢の中で再現しよう。
「人も少ないから、今のうちに集合写真でも撮ろう」
「スタンド持ってるの?」
「いや、誰かに撮ってもらう」
忠はそう言うと、そこらへんを歩いていた観光客とコミュニケーションをとり、和やかに会話をしたあとカメラを渡した。
コミュ力高いなぁ…
「ほら、みんな集まれ」
パシャ
忠はお礼にその観光客の写真を撮って、戻ってきた。
「忠のコミュ力、見習いたいよ」
「おうよ。しっかり見習っておけ」
僕たちは神社を進んでいき、とうとう本殿へとたどり着いた。人が多いけど、少しずつ進んでいるので参拝をしよう。
こういうときはご縁と五円をかけて、五円玉がいいというけど…
「五円玉ばかりだと両替代が高くつくらしいから、百円玉とかの方が神社は嬉しいらしいわよ」
「森本さん、そんなことまで調べたの?」
「近所の神社の神主さんが言ってたわ」
そういえば学校の近くに小さい神社があったような…それなりにぼろい神社だったと思うけど、まだ神主さんとかいたんだ。
ご縁はひうりで間に合ってるし、感謝を込めて百円玉を投げておこう。
「ガラガラする鈴もあるんだな」
「鳴らしていいよ」
僕は百円を賽銭箱に投げ入れた。
二礼二拍手一礼…今後もひうりと仲良くできますように…
強く念じて、他の人はどうかと顔を上げてみると…
「え、ここどこ」
僕の夢の中のような、謎の白い空間に立っているのだった。
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