ホテルは大きいほどよい。ただし高い
博物館を後にして、僕たちはホテルに移動することになった。
京都市内にあるホテルに泊まることになっており、三泊の拠点がここになる。奈良などに移動することはあっても、夜にはここに戻ってくるらしい。結構厳しいスケジュールな気がするけど…
「夜は俺と一樹は別の部屋だな」
「そうだね」
忠は進藤の『し』で、僕は中野の『な』なので、五十音順に並べるとそれなりに離れてしまうのだ。宿泊班は名前順で決まっているので、同じ班にはなれなかった。
「とはいえあまり部屋で生活時間は長くないからな」
「寝るときくらいだよね?」
「ああ。そもそもホテルは飯食うのと風呂入るだけだからな」
大部屋なので、一部屋に六人泊まれるようになっている。
だが、ベッドが部屋の大部分を占領しているので部屋で遊ぶことなどできない。もちろんベッドの上で遊ぶのならその限りではないのだけど、まあ部屋でできることなど限られてくる。
それに風呂に入ったら結構すぐ就寝時間なので、先生に見つからないようにドキドキしながら遊ぶ人以外はさっさと寝てしまう。
「取り敢えず、ごはんの時に」
「うん、またね」
尚同じ班である佐々くんは忠と同じ部屋だ。どちらもさ行なので当然とも言えるだろう。
「ふぅ…」
部屋に入って荷物を置く。
ほかの人たちがどんどん自分のベッドを決めていくので、僕は余ったベッドになった。まあどこでもいい。
ふと、夢の中でひうりと出会ってから、自分の家以外で寝ることは初めてであることを思い出した。旅行に行くような家庭でもないので、自分のベッドじゃないところは相当久しぶりだ。
ここでもひうりに出会えるのだろうか。それとも、あれは家で寝るときだけなのだろうか。それを試すいい機会ともいえる。
「んじゃ飯行こうぜー」
「うぇーい」
部屋の男子が夕食の会場である大ホールに向かう。
ここの部屋はオートロックではなく、普通の鍵穴式なのでみんなが出ないと扉を閉めれないので、僕も遅れないようについていく。
大ホールは貸し切りだ。都市部から離れた高校とはいえ、それなりの人数がいるのだから当然とも言えるだろう。借り切り代はいくらなのかな。
「久しぶりだな一樹」
「まだ三十分も経ってないよ」
忠とも合流。夕食の席は各自自由ということになっている。
京都のホテルということもあってか、結構豪華な夕食だ。いくつも並べられたテーブルには、様々なものが並んでいる。ただし、僕の知識が足りなくてなんという名前の料理なのかはわからない。
夢の中で再現するのに名前は必要ないのだ。
「肉か、いいな」
「忠は肉が好き?」
「嫌いなやつなんてそうそういねえよ」
僕はあまり肉は好きじゃないけどな。ひうりの影響か、最近は甘いものの方が好きだ。
「あの、中野く…」
「おっと、一樹、飲み物を取りに行くぞ!」
いつの間にか後ろにいたひうりに話しかけられたが、忠に腕を引っ張られてすぐに離脱。この反射神経はどこから生まれているのだろうか。
「ちょっと強引じゃない?」
「話をぶった切るなら強引が常套手段だろ。お前が甘い」
そりゃ好きな人には甘くなるでしょ。忠はひうりのことが好きではなかったのだろうか。少なくとも、現在進行形でひうりからの好感度が下がっている気がするんだけど。
飲み物が置いてあるところは、少し離れたところにある。ひうりから離れる口実にはなるけど、タイミングが怪しすぎる。
「まあお前が悪くみられることはないんだから安心しろ」
「そうかもしれないけど…」
忠の徹底ぶりがすごい。本当にひうりと話すことなく修学旅行が終わるかもしれない。
「おっと、先生が来たな。姫も戻っただろうし、席に戻ろうぜ」
ひうりの席は僕たちと離れているようだ。今のひうりは、もしかしたら近づいてくるかもなと思っていたので、少し意外でもある。
「いただきます」
「いただきまーす」
夕食はめちゃ美味かった。
……
風呂にも入り、あとは寝るだけ。一応一日の感想みたいなのを書く宿題があるのだけど、それは移動中に終わらせた。なんせ、博物館以外に発見はないのだ。博物館からここに来る途中で書き終わる。
僕の懸念点は、ここでもあの夢が見られるかどうかだけど…見れなくても、それはそれで普通に夢が見れていいかもしれない。
僕は目を閉じて…
…
「やっぱりここに来るんだ」
いつもの白い空間にいた。どうやら、家以外でも寝るだけでここに来れるらしい。
「あ、一樹くん!」
しばらくしたら、いつも通りひうりが来た。
本当にいつも通りだ。修学旅行中なのを忘れてしまいそうだ。
「ぎゅー!」
「うわっ」
と、現れたひうりはそのままこちらに抱き着いてきた。
「急にどうしたのひうり」
「あら、一日彼女を放置したんだからいいじゃない」
放置したのはひうりの指示だろうに…それに、忠に引っ張られただけなので僕は無実だ。
ただ、一日放置されて寂しかったのか、ひうりは甘えモードになっている。かわいいけど僕の精神が保つか不安なモードだ。
「でもこのままでいいわ。順調よ」
「そうなの?」
「ええ。進藤くんのあれはちょっと強引だけど…むしろ大丈夫そうだから、進藤くんにも頑張ってもらって」
どうやら現実のひうりからの好感度は下がっているけど、夢のひうりからの好感度は上がっているらしい。出会うことができない方のひうりの好感度を上げるなんて、忠はすごいな。
「それにしても、修学旅行中でもここに来るのね」
「僕も思ったよ。どうやら家で寝なくても、この夢は見るみたい」
半ば別世界と化しているこの白い部屋は、僕とひうりを繋いでいるものだ。
今では現実でも話す機会はあるけれど、やはり完全な恋人としてひうりと触れ合えるこの空間は貴重なのである。
「じゃあ修学旅行中は、特に甘々なことをしましょ」
「え!?」
「今がチャンスなのよ。というわけで、もっとハグしてちょうだい」
何がというわけで、なのだろうか。ひうりの考えが未だによくわからない。
とりあえず、手を広げて待っているひうりを優しくハグする。夢の中だから性欲とかは極端に抑えられるけど…まずいかも。
「さ、じゃあ今日はパフェよ」
「ああ…うん…」
デザートを求める声で正気に戻る。
僕は健全な男子なんだ。うん、よし、大丈夫。明日も頑張ろう。
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