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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の彼女の話

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風邪は思わぬトリガーとなる

 次の日。

 早めに寝かせたものの、今日ひうりは休みになってしまった。


「黒棘姫、休みらしいぜ」

「そっか…」


 それを知ったのは、学校に来てから。忠に教えてもらってからである。

 夜の間は、一晩中眠らせたけど、結局回復しなかったらしい。睡眠でよくなればと思ったが、やはり肉体的な回復には至らなかったようだ。

 夢の中で薬を飲ませて、プラシーボ効果を狙った方がよかっただろうか。


「珍しいな。姫が休みになるなんて」

「そうだね。休みなしとか言われてなかったっけ?」


 確か、ひうりは高校に入ってから一度も休みなし、いわゆる皆勤賞だったはずだ。

 そんな彼女が休みになるなんて…原因が風邪っぽい、ということは分かっているけれど、そもそも、なぜ風邪を引いたのかは不明だ。

 今まで休みになったことがないならば、日頃の生活もきっちりしていたと思うけど…まあ、本人が思いもよらなかったタイミングでなるのが病気か。


「あぁ、目の癒しがなくなってしまった…」

「そんな残念?」

「そりゃそうだ!学校生活に彩りを与えているのは、彼女だと言っても過言ではない」


 過言だよ。

 かわいいのは認めるけど、そんなオーバーになるほどじゃない。それに、ひうりは、僕のだ。


「ほら、担任が来たよ」

「うぇーす…」


 いつもよりテンションが低い忠。

 僕が思ってより、ひうりってこの学校に影響力があるのだろうか。


……


「やあ、中野一樹くん!」


 僕が、昼休みに外で弁当を食べていたら、誰かが話しかけてきた。


「…その顔、まさか忘れたわけではないだろう?」

「あー、忘れてないですよ。先輩」


 顔は覚えている。先日、ひうりに告白して見事にフラれた先輩だ。

 ただし、名前までは覚えていない。ひうりに告白するために僕に近寄ってくる人は何人もいたので、その全員の名前など覚えていないのである。というか覚える気もない。


「加賀だ!」

「ああ、加賀先輩ですね。覚えてますよ」


 思い出しただけなので、忘れてたわけじゃない。


「佐倉ひうりはどこかね。姿を見ていないのだが」


 え、まさかこの人、諦めてなかったの?

 というか、学校の中でひうりを探し回るなんて…この人ストーカーです!あとで先生に言っておいた方がいいかもしれない。


「佐倉さんは休みです」

「…なああああああ!!」


 地面に頽れる加賀先輩。なんかブツブツ言いながら泣いてる。


 僕は関係ないということでその場を離れた。その間も加賀先輩はずっと泣いていた。

 ひうりがいないだけで、こうも男子陣は崩れるものだろうか。僕は、ひうりが彼女じゃなかったとしても、ここまではならない気がする。


「はぁ」


 加賀先輩のせいで移動することになったので、僕はため息をついた。

 僕に関わってくる男子は、その多くがひうりとの繋がり狙いなのだ。それを求めようとしない忠とは、ちゃんとした友好関係なのだが、そうでないとやはり嫌悪感がある。

 まあ、忠もひうりとの仲は狙っているんだけど…僕との友情もちゃんとしてくれるからいいのだ。それに、忠がひうりに接触しようとするときは僕を介そうとはしないので。


 僕が弁当を食べ終わる頃、またもや誰かが話しかけてきた。

 また加賀先輩かと顔を上げると、そこには女子。しかも同じ学年、同じクラスの学級委員が立っていた。


「森本さん、どうしたの?」

「中野くん、佐倉さんの家は知ってるかしら」


 この人は、森本智花(もりもとともか)さん。僕のクラスの学級委員という役職で、雰囲気から委員長という渾名がある女子だ。

 その人が、なぜ僕にひうりの家を?ひうりは隣のクラスのはずなのだけど…


「それがね、どうも隣のクラスの誰も、佐倉さんの家を知らないみたいなのよ。で、じゃあ最近よく佐倉さんと話してる中野くんならばと思って」


 どうやらひうりは、同じクラスの誰にも家の場所を言っていなかったみたいだ。

 今時、家に集まって遊ぶってことは少なくなってると思うし、家の場所を知る人が少なくてもおかしくはないけど、一人くらいは伝えておいた方がいいと思うよ…


 僕は、確かにひうりの家の場所を知っている。夢の中で、ひうりに直接教えてもらったからだ。

 なんなら、ひうりの記憶を元に、家を夢の中に再現したこともあるので、家の形も知っている。とはいえ、隣のクラスの誰も知らない家の場所を僕が知ってるのは変ではないだろうか。


「…どうして?」

「明日提出するプリントがあるのよ。誰かが渡しに行かないといけないから」


 それは重要だ。


 最近は、時間があるか聞いてくるくせに、理由を尋ねるとその理由を言ってくれないような人もいるので、僕が理由を聞いて話してくれた森本さんには好印象。


「知ってるよ、佐倉さんの家」

「そうなのね!プリント、持っていってもらえるかしら」

「いいよ」


 僕は深く考えずにプリントの入った封筒を受け取った。

 本当は、僕が家を知っていることが一番問題だったというのに。


……


 放課後、僕はひうりの家の前まで来た。


「…僕が家を知ってるのは、まずくないか」


 そう、ひうりの家を場所を教えてもらったのは夢の中。現実のひうりは、僕に家の場所など教えていないのだ。

 だというのに家の場所を知っているとなると、現実のひうりからするとストーカーに捉えられもおかしくはない。


 これで僕がひうりと同じクラスなら、まだ教師から家の場所を聞いたとかでなんとかなるのだけど、僕は隣のクラスだ。先生も、わざわざ隣のクラスの僕に頼む理由がない。


「どうしよう、これ」


 僕は手元の封筒を見る。

 最初は、郵便受けに入れておくことも考えた。でも、このプリントが明日提出ということなので、気付かれなければ意味がない。それに、ここまで来て、挨拶もせずに帰るというのは、失礼だと思った。


「よし!よし!」


 自分で自分に勢いをつける。

 どうせここまで来て帰ることなどできないのだ。ひうり自身に何か言われようとも、夢の中で弁明することにしよう。多分、大丈夫!


ピンポーン


 インターホンを鳴らす。

 親が出てくれる…かと思ったら、出てきたのはひうり本人であった。


「佐倉さん!風邪は…」

「ふえぇ…大丈夫よ…」


 なんかフワフワしている。まるで、僕の夢の世界に初めて来たときみたいだ。


「えっと、佐倉さん、プリントを持ってきて…」

「一樹くん、入って入ってぇ」


 ぐいぐい腕を引っ張られる。

 というか今、ひうりが僕のことを名前で!?


 僕はひうりに引っ張られるままに、家の中に連れ込まれたのだった。

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