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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の彼女の話

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努力は実を結ぶとは限らない

「よっしゃあああっ!」


 教室で忠が声をあげる。今日はテスト返しの日だ。


「見ろよ一樹、この点数を!」


 そんな忠の点数は五十点。正直なところそんな大喜びをする点数ではないと思うのだけど…まあ、いつもの忠の点数からすれば喜べる点数か。

 忠は共同テスト勉強会のときも集中していたので、この点数の伸びは納得である。


「前回から二十点も伸びたぞ!」

「よかったね忠」


 特にこの教科は赤点ギリギリだった教科なので、忠の喜びはすごい。


 対して僕は、そこまで喜んでいなかった。なんせ、伸びは言うて五点くらいだからだ。


「俺よりも圧倒的に点数がいいくせに喜ばないのは失礼だぞ」

「今回も頑張ったんだけどなぁ…」


 僕は忠や林さんたちとの勉強会の他にも、夜の寝ている間に夢の中のひうり先生と一緒に勉強している。なので今回こそは九十点を越えてやろうと考えていたのだけど…


「一樹数学苦手って言ってたじゃねえか。それで八十点はいい方だと思うぜ?」

「目標を高く設定しすぎたのかなぁ…」


 苦手教科を得意教科にしたいとまでは言わないけど、範囲が指定されているテストで九十点くらいは目標設定してもいいと思うんだけどな。

 範囲指定がされない学年末のテストでは、八十点くらいを目標にするけれど、途中のテストではもっといい点数を取りたい。夢の中のひうりに目標は伝えているので、今回またもや達成できなかったのは悔しい。


……


「あれ、彼氏くん元気ないねー」

「まあ、目標通りいかなかったからね」


 昼休み。勉強会を通じて今までよりも仲良くなった僕たちは、教室で駄弁っていた。勉強会前は距離を置いていた忠も、今回は一緒に話している。


「こいつは俺よりもいい点数なのに喜ばないんすよ」

「さては満点でも目標にしてたなー?」

「いや、目標は九十点だったけど…結果は八十点だったよ」


 因みに神無月さんはいるけど、ひうりはいない。先生に呼ばれたと林さんが言っていた。

 神無月さんは林さんに無理やり連れてこられたみたいだ。ただいざというときに林さんを止められるのは神無月さんなので、いてくれた方が助かる。


 そんな二人が僕たちと話しているので、周囲の男子からの視線が痛い。テスト前は僕だけに視線が向いていたのを、今日は忠にも向けられている。今後は忠も嫉妬対象になることだろう。


 ただ、忠が大勢の前で話しかけるという所業をしたので、林さんの男子友達は増えたらしい。あの後、忠のあとを追って話しかけた勇気ある者が多かったらしい。

 男子があまり近寄ってくれなかったから嬉しいと林さんは言っていた。


「林さんはどんな出来だったの?」

「ばっちり!」


 林さんはどの教科でも八十点以上で、ものによっては九十点以上らしい。

 勉強会の最初のころは、ずっとひうりに訊いていたことを考えると、この短時間でここまで理解でけいるようになるというのは驚異的だ。

 多分僕とは違って秀才型なんだろうな…


「ああ、元気出してよー。彼氏くんだって頑張ってるよ」

「大丈夫、落ち込んでないから…」


 僕と林さんの違いに打ちひしがれていると、ひうりが戻ってきた。

 本命が戻ってきたことで、周囲の視線はさらに険しくなるが、僕たちは気にせず会話をする。流石に僕たちはもう慣れた。


「ひう、彼氏くんを励ましてあげて」

「え?」

「目標到達できなかったから落ち込んでるんだよー」

「大丈夫だから。大丈夫」


 流石に現実でみっともないことはできないので、僕が遠慮しているとひうりが近づいてきた。


「落ち込んでるの?」

「いや、大丈夫」

「ふーん」


 僕がそう言うと、ひうりは離れた。

 ふう、緊張した。


……


「現実では遠慮するのに、ここでは落ち込むのね」

「まあね…僕が主に教えてもらったのはこっちのひうりだしね…」


 テスト返却の日の夢の中。

 僕はひうりと並んでクレープを食べていた。場所は写真で見た城の屋根の上だ。


「でも前は八十点にもいかなかったじゃない。範囲は毎回変わるけど、ちゃんと点数は伸びてるんだから落ち込むことじゃないわよ」

「でもひうりはどれも九十点以上でしょ?」

「それはそうよ。でもね、そもそも脳の作りが違うんだから人と比べるのはだめよ」


 これはよく言われる言葉だ。人と比べているうちは成績が伸びないと言われているくらいだ。

 それでも人と比べてしまうのは仕方のないことだと思う。特に学校みたいなすぐ隣に競争相手がいる環境だと。


「…一樹くんは撫でられるのは好きじゃないんだっけ?」

「ちょっと恥ずかしいかな」

「なら、こっちに来なさい」


 パクっとクレープを食べきったひうりに導かれて来たのは、城の中の一室。ベッドルームとされる、大きな天蓋付きのベッドが置いてある部屋だ。

 え、ここで何をする気で…


「ひうりさん?」


 僕が不安になっている間に、ひうりはベッドに座った。

 そして膝の上をポンポンと叩いている。


「えっと」

「膝枕よ。こっちなら、まだいいでしょ」


 膝枕も恥ずかしいんだけど…でも、ここまでされたうえで断るのは流石に無理だな。

 僕は諦めてひうりの膝の上に頭を乗せて、ベッドに寝た。


「あら、この距離って結構恥ずかしいわね」

「やっぱりこれも恥ずかしいよね?」

「でも、なんかちょっとポワポワするわ。一樹くんと触れ合っているからかしら」


 なんだか嬉しそうなひうり。うーん、そんな顔をされると起き上がれない。


「ほら、夢の中で寝なさい」


 さらには僕の頭を撫で始めた。あの、撫でられるのが嫌だから妥協したんですけど?


 僕は恥ずかしさが天元突破しながら、一夜を過ごした。

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