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気が強い高嶺の花は夢の中では僕の恋人  作者: nite
夢と現実の彼女の話
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いくら精神論を唱えても治るわけではない

「ただいまー」


 僕の親は共働きで、僕が帰ってくるタイミングでは二人ともまだ仕事中のことが多い。

 その時、僕は出来る限りすぐに寝られるように、しないといけないことをこの時間にしてしまう。課題や掃除、風呂の準備など…僕ができることは、大抵すべてをしてから休憩する。

 夜ご飯は三人揃って食べることができるけど、その時間までは大体僕は活動中だ。

 夢でひうりと長くいるために、体を疲れさせているとも言える。少なくとも、ここまで色々と家事をするようになったのは、夜の夢の時間が生まれてからである。


「「「いただきます」」」


 親が帰って来れば、その時は結構すぐに夜ご飯。

 夜ご飯を食べれば、すぐに風呂に入ってパジャマを着て布団に入る。

 こんなに長く寝たら、生活リズムが崩れるんじゃないかって最初は心配してたけど、夢の中で遊んでいる間にちゃんと体は休めているらしく、ちゃんと朝はスッキリして起きれる。そうでないと毎晩ひうりと遊ぶなんてできない。


「ふぅ…おやすみなさい」


 僕はアラームをセットしてから目を瞑る。

 寝ている人間が起きるような刺激があれば、時間になればちゃんと起きれるからだ。ひうりと遊んでいると時間を忘れがちなので、一回遅刻しそうになってからはこうしてアラームをセットするようになった。ひうりが先に起きた場合は、僕も時間に気が付くので、その時はアラームの出番はない。


「ひうりは…まだか」


 目を開けると、そこにはいつもの白い部屋。

 朝に目を覚ましたときは、桜並木のままだったはずなのだけど、起きるたびにこの部屋はこの白い空間に戻るのだ。ひうりが来ていないときは、先にここで準備をすることも多い。


「今晩はどうしようかな…海?」


 現在七月の中旬ほど。昨日は桜を見たけど、それも春に一緒に見れなかったからという理由だった。この季節には、むしろ海の方が自然だろう。

 僕は脳内に海をイメージした。青い海と、白い砂浜と、白い雲…うん、いい感じ。

 目の前には、イメージした通りの海が広がっていた。


 その時ちょうど、ひうりがやってきた。


「こんばんは、一樹くん」

「やあ、ひうり」


 ひうりは周囲を見渡して、今日はどんな場所なのか確認する。


「今日は海なのね」

「うん。この季節にはちょうどいいかなって」


 晴天ではあるけど、日光は眩しくないし、この日光で肌が焼けることもない。

 太陽を直視しても目にダメージがないなんて、不思議な感覚だ。でも夢なので、こういった不思議現象か簡単に引き起こせる。夢だからって言葉、すっごい便利。


「一緒に行くじゃない」

「うん…昼間の確認ってやっぱり、そういうこと?」

「そうね。現実の私は、ちゃんと一樹くんが来るのか不安になったみたいよ。日頃の成果ね」


 夢の記憶は一切現実に引き継がないくせに、現実の記憶ははっきりと引き継いでくるから面白い。


 現実で言われていないのに、夢で言われたからとひうりの個人的なことを話してしまうとまずいので、そこらへんの注意は必要だ。


「んー…」

「どうしたの、ひうり」


 ひうりは少し悩んだような顔をしてから、僕に向かって言った。


「今日は海以外が良いわ」

「それはいいけど…どうして?」

「だって海ってことは水着でしょ?私の水着は…現実で初めて知りなさい」


 どうやらしばらくすれば海に行けるので、その時はまではお預けということらしい。

 ひうりの水着が気にならないと言えば嘘になるので、ちょっと期待してしまう。勿論、現実の僕とひうりの関係はただの友達なので、見せてくれるということにはならないだろうけど、こっそり見るくらいは大丈夫だろう。


「…とか思ってるかもしれないけど、女子は特に視線に敏感よ?」

「…ごめんなさい」


 恋人関係になってから教えてもらってけど、女子は結構男子の視線に気が付いているらしい。

 たとえ横目で見て、バレていないだろうと思っていても、どこを見ていたのかくらいまでは分かるらしい。女子ってすごい…


「安心なさい。ちゃんと、見せてあげるわよ」

「本当に?」

「ええ。ちゃんと、あなたに見せるように念じておくわ」


 うーん、水着を見せるということは、堂々と僕の前に来るってことだろうけど、果たして上手くいくだろうか。ただの友達である現実の僕とひうりが、そんなことをしていたら周囲から冷やかされるのは間違いないと思うけど。

 でも、ひうりは自信満々だ。何か念じる以外にも策があるのだろうか。


「というわけで、海はお預けよ。流石に現実で二人っきりっていうのは難しいだろうから…海で初披露してから、ここで一緒に遊びましょ」

「そうだね。海が一気に楽しみになってきたよ」


 これは本心だ。ひうりの水着が一番楽しみだということは、言うまでもない。女子からしたらいやらしいかもしれないけど、彼女の水着を期待してしまうのは、どの男子も同じだと思う。


 この学年に、実際に付き合っている男女はいるはずなので、それに紛れれば案外変とは思われないかもしれない。

 まあ、そこで見損ねても、最悪ここで見せてもらえば解決である。


「じゃあ海はやめて…」


 僕は次なる景色をイメージする。

 大きな城、広がるファンタジーな城下町、きれいなシャンデリア…目を開けば、そこには大きなバルコニー付きの大広間があった。ひうりには、似合うようなドレスを着せている。

 サイズが分からなくても、ひうりが服を着たイメージをすればちゃんと服を着せることができるのだ。


「さ、お手をどうぞ。お姫様」

「…!」


 顔を赤らめながらも、僕の手を取るひうり。

 ひうりはお姫様扱いが好きだ。しかし、僕はというと王子ムーブには全く慣れていないので、ひうりのために習得した。現実でやる勇気はないけど、夢の中の誰もいない空間であれば、ひうりをエスコートするくらいは余裕である。


「ふふふ、いいわね。こういうの」

「きれいだよ、ひうり」

「…もうっ、やめなさいよ。キスしたくなるわ」


 因みに、夢のひうり曰く、二日連続でキスをすると、現実のひうりが爆発するらしい。

 何が?


「この音楽は、一樹くんが?」

「うん、よさそうなCDを借りてきて聴いたんだ」


 それに、動画サイトとかに上がっている音楽も色々と聴いた。舞踏会用の曲だけでなく、サンバとかジャズなんかも色々と仕入れている。

 多分、ひうりと付き合ってからが一番、こういった幅広い雑学を勉強していると思う。

 一通り踊ったあとは、バルコニーで一緒にジュースを飲んだ。本当はシャンパンとかが雰囲気があっていいんだけど、僕がシャンパンを飲んだことがないので、ジュースの中身はただのアップルサイダーである。


「…一樹くんは、私に合わせてくれるけど、たまにはあなたの好きなようにしてもいいのよ?」

「結構好きなようにしてるけどなぁ…」


 今ひうりが着てるのも、僕がひうりに着てほしくて決めたやつだし。


「夢の中だし……その…襲っても、いいのよ?」


 顔を赤らめながら、僕を潤んだ目で見つめるひうり。あれ、アルコールは入っていないはずなんだけどな。


 …そうなのだ。僕がひうりの服を選べるということは、ひうりを裸にしてしまうことだって可能だったりする。とはいえ、流石に僕にそんな度胸はないので絶対に想像はしない。


「嫌、かしら」

「違う!違うけど、それはしない!」


 まじでアルコール入ってないよね?

 少なくとも僕は、人生の中でお酒を飲んだことはないのでアルコールを作り出すことはできないんだけど…もしかして、ひうりに酔ってほしいみたいなことを無意識に考えてしまっただろうか。


 この世界では、僕の意識が一番に具現化される。無意識的なことは具現化されないはずなのだ。

 僕はひうりに酔ってほしいと念じていないので、酔ってはいないと思うんだけど、明らかにひうりの態度がいつものそれと違って困惑してしまう。


「最近は高校生で、その、する人も多いらしいわよ」

「今日のひうり、なんかおかしいよ。大丈夫?」


 いつもより断然変な感じだ。まるで酩酊してるというか、風邪をひいているような…風邪!?

 僕はひうりの額に手を当てた。すると、確かに熱い。


「ひうり、舞踏会は終わりだ。お休みの時間だよ」

「何よそれ、文句でもあるっていうの?」


 目が潤んだまま、頬を膨らませるひうり。可愛いけど、流石にアウトだ。

 僕は城を消して、ひうりのモコモコのパジャマを着せた。そしてそのまま、ログハウスとベッドを作りだして、ひうりをそこに寝かせた。


「何するのよー」

「もう…風邪があるなら早く言ってよ」

「風邪なんかひいてないわよー!」


 精神的なことは、夢の中でも対処できるけど、肉体的なことはここではどうしようもない。

 ここで風邪薬を飲ませたところで、意味はないのだ。というわけで、僕はそのままひうりに眠るように念じた。


 僕がひうりに直接何かするときは、ひうり側である程度抵抗はできるらしいのだけど、今のひうりは抵抗もできないだろう。

 案の定ひうりはすぐに眠った。夢の中で眠るっていうのは変な感じだけど、少しでも休んでもらうにはこうした方がいい。


 僕は椅子を出現させて、ひうりの記憶にちょっとだけ干渉して、ひうりの記憶から本を生成した。僕が読んだことのない本を出すには、ひうりの記憶を使わないといけないからだ。

 明日にはちゃんと元気でいればいいんだけど…僕は朝まで、そのちょっと難しい本を読んで時間を潰した。

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